決闘開始
私は、銀狐と出会ってから、心に決めたことがある。
それは、絶対に銀狐の隣に居続けること。何があろうと、誰が立ちふさがろうと、私の目的を邪魔するなら容赦はしない。・・・例え、それが銀狐自身でも。
私は、ただの彼の仲間じゃない。私は、相棒だ。彼の恋人である以前に、私の本質は、彼の相棒として、彼と共に歩む事を望んでいる。一歩後ろに下がって守られることが当たり前の存在ではなく、お互いがお互いを守れる存在になれるように努力してきたし、これからもそうするつもりだ。
・・・だから、この世界ではちょっと私よりステータスが高くて強いスキルを覚えているからって、【麗奈は俺が守る。だから安心して俺の後ろにいろ】なんて調子に乗っている銀狐を叩き潰して、私の存在をもう一度その胸に刻み込んであげる。男の子としてはそれで満足かもしれないけど、私は不満を貯めているのよ。
・・・それに、文字通り桁違いのステータスを持っているからって、最近の銀狐はゴリ押しすぎる。レベルを上げて物理で殴ればいいって考えは好きだけど、技術が伴っていなければこの先生き残ることは難しいと思うし・・・私が、昔の貴方を思い出させてあげる。
その日の夜、私はレオンの屋敷の庭で、銀狐と対峙した。近くで審判役を務めてくれたレオンが、死んだような目で「また僕の庭が死滅する・・・。」とか呟いているし、結衣さんがその隣で慰めているけど気にしない。・・・確かに、レオンとの戦いの時は私もやりすぎた気がするけど・・・まぁ、終わったことを気にしていても仕方がないでしょ。それに、他人に邪魔されずに戦える場所がここだけなんだから。
レオンの屋敷は、今私たちのギルド『希望』のギルドホームとして登録されているので、許可がない人間は入ってくることが出来ない。私たちの戦闘を見られる心配も無いし、心おきなく戦える。
「・・・本当に戦うのか?」
「くどいよ。私は、私の力を銀狐に見せつける。私は守られるだけの存在じゃない。貴方と共に戦えるってことを証明してあげる。・・・そのために準備もしてきたんだから。」
この時間を指定したのも私。【月夜の支配者】と【ヘカテーの涙】で銀狐はステータスが大幅に上昇している。【ヘカテーの涙】は私にも適用されているけど、やっぱり【月夜の支配者】の上昇率は異常だ。・・・でも、本気の銀狐に勝って、始めて私の願いは叶えられる。私は、貴方と一緒に居られる存在なのだと、彼に思い出させることが出来る。・・・だから、
「私も、この戦いの為に準備してきた。・・・本気で行くよ銀狐。油断してたら直ぐに負けちゃうよ?」
「・・・っ!」
私は、装備欄を操作して、この戦いの為に仕入れた新しい装備群を装着する。体が光に包まれて、全身の装備が変わる。実は、以前にこの装備を東区で見つけていて欲しいなぁ・・・とずっと思っていた。カッコイイのもそうだけど、性能が私の好みに合う極端な物だったから。・・・だけど高かった。そりゃもう高かった。なにせ、今まで装備していた【戦闘服3型シリーズ】っていう、まぁ現在の軍隊とかが着てるそこそこの性能の装備が、全身で凡そ3万G。それに対して、この【戦女神シリーズ】は驚きの50万G。ギルドを発足するときに必要な金額が100万Gだったことを考えれば、驚く程の大金だってことが分かると思う。・・・まぁ、ネトゲならこの位の値段の装備は普通なんだけど、このゲームは始まってからまだ一ヶ月経っていないゲームで、始まりの街【シュバルツ】から出ることが出来ていない事を考えれば、異常な程の値段と性能だと思う。
でも、今の私にはお手軽な稼ぎ方がある。・・・そう、ゾンビの乱獲。最近は塔の攻略を優先にしていたから、ゾンビの乱獲は塔の攻略が終わってからにしようと思っていたけど、銀狐との戦いの為に、今日一日を使ってゾンビを虐殺し稼いだのだ。幾つかレベルも上がったし、新しいスキルも覚えた。もう、今の私は銀狐が知っている私ではない。戦闘方法も変化した、新しい私に・・・付いてこれるかな?
「・・・凄いなその装備・・・・・・。か、カッコイイ。」
「あ、やっぱり分かる!?そうだよね銀狐なら分かってくれると信じてたよ!それにほら、見てこの翼!この装備専用のアタッチメントなんだよ!?ほらほら、こんな風に自分の意思で動くの!!」
「・・・すげぇ。細かいところまで作りこまれてるな・・・。」
やっぱり銀狐は銀狐だ!この【戦女神シリーズ】の良さが分かるなんて!
真っ白な体にピッタリと張り付くボディースーツ。目元を隠す真っ赤なバイザー。腰から伸びる剣の形をした蒼いスカート。そして極めつけは、背中に生えた機械の翼である、この装備専用のアタッチメント【白翼】。
今回は、金欠だった今までとは違って、高級で高性能なアタッチメントも色々付けてきた。うんうん、やっぱり、この装備を一番初めに見せるのは銀狐って決めていたのは間違いじゃなかったよ!
私たちがこの新しい力について嬉々として語り合っていると・・・
「いい加減にしてください!シリアスな雰囲気も守れないのですか貴方たちは!確かにカッコよくてちょっと羨ましいですけど、イチャイチャするのは自分たちの部屋でやりなさい!」
と、ブチギレた結衣さんに怒られてしまった。
確かに、当初の目的を忘れてはしゃいでしまったし、さっさと戦おう。そう思って銀狐を見ると、彼も頷いた。
「じゃ、コインが落ちたらスタートです!」
結衣さんが一枚のコインを弾く。そのコインは回転しながら飛んでいき・・・
「・・・・・・。」
私の頭には、既に彼しか見えていない。それ以外は無意味で、コインすら頭の中から消え去る。
「・・・っ!」
コインが地面に落ち、銀狐がステータスに物を言わせた超スピードで突撃してくるのと同時に・・・私は腰のアタッチメントを地面に落とした。
「はい。」
「!?」
絶妙なタイミングで放ったソレを避けきることが出来なかった彼はそれに接触し・・・炎に包まれた。