吸血衝動
「・・・全く、いい顔で寝やがって・・・・・・。」
俺の膝の上でスヤスヤ寝ている麗奈の頭をそっと撫でる。それが気持ちいいのか、薄く笑ってくれた。
「こんなところで寝ると風邪ひくぞ。」
結局、いくら考えても答えは出ない。例え、ブライト・アームズがあの事件に関わっていたとしても、今の俺たちにはどうすることも出来ないのだ。冤罪を晴らす事も重要だが、今は生き残る事を最優先にしなければいけない。・・・麗奈のこの笑顔を曇らせちゃいけないんだ。
「ちょっと我慢しろよ。」
麗奈の膝の下と背中の辺りにに手を添えて持ち上げる。所謂、お姫様抱っこというやつだ。現実世界でも何度かやったことがあるが、このゲームの世界では、ステータスの御陰で前よりも軽く感じる。・・・いや、麗奈が重いって話じゃ無いぞ?
兎に角、このまま寝てたら風をひいてしまうので、俺のベッドに寝かせることにした。ベッドの傍まで歩き、ユックリと横たえる。麗奈は、ムニャムニャ言いながら幸せそうな顔だ。
「・・・お前だけは、絶対に守ってみせる。何があっても、絶対に。」
手を優しく握る。仮想とは思えない程に現実と変わらない感覚。柔らかく、暖かい。俺は、この最愛の女性を守るためなら何でもやるだろう。麗奈に危害を加える奴は許さない。必要なら殺しだってする。・・・俺の命さえ掛けるとも。
そう決意したその瞬間・・・
「・・・え?」
―――ドクンと、心臓の音が響いた気がした。
「あ・・・え?」
目の前が真っ赤に染まる。手が小刻みに震えて、呼吸がまともに出来ない。
「なん・・・だ、これ・・・?」
呟いた俺の視界に、システムメッセージが浮かび上がる。
『称号【真祖を継ぐ者】を習得してから十二時間が経過しました。この間、一度も血液を摂取していません。ペナルティーが発生します。』
『このペナルティーにより、プレイヤーは五時間の間、全パラメーターが半分になります。更に、状態異常【吸血中毒】になります。』
口に違和感を感じた。震える手で触って見ると、どうやら犬歯が異様に鋭く大きくなっている。
「はぁ・・・はぁ・・・・・・。」
麗奈の白いうなじに目が行ってしまう。発情しているかのような感覚。麗奈の首に牙を立てろと心が騒いでいるのが分かる。
「あ、あああああああああああ・・・!」
腕を力いっぱい握る。その痛みで、ほんの少しだが理性が戻ってきた気がする。
「う・・・ん、どうしたの銀狐・・・?」
マズイ、麗奈が起きてしまった。
「・・・え、銀狐・・・?・・・どうしたの!?どこか痛いの!?」
必死になって自分を押さえつけている俺に、麗奈が近づいてくる。
「・・・な。」
「何?何て言ったの!?」
「・・・来るな、麗奈!!」
「え・・・?」
麗奈が、酷く傷ついた顔で見つめてくる。
「わ、私・・・何かした・・・?」
やめろ、ヤメロ止めろやめろ!今の俺に近づくな!
「あ、アアアアアアアアアアアアああああああ!!!!」
俺は、アイテムボックスから小ぶりの短剣を出して、自分の腕に突き刺した。そこから流れ出した血液を見て、自分を押さえつけられなくなり口を付ける。
「銀・・・狐・・・・・・。」
『血液の摂取を確認しました。全パラメーターが通常値に戻ります。状態異常【吸血中毒】が解除されます。』
そして、暫く一心不乱に飲み続けた俺が、自我を取り戻して周りを見ると・・・麗奈が、今にも泣きそうな目でこっちを見ていた。
「あ・・・俺は・・・・・・。」
麗奈を襲おうとしたのか?俺が?麗奈に危害を加える奴は排除すると誓ったばかりなのに?俺が、よりにもよって俺が、麗奈を傷つけようとしたのか?
「麗奈・・・俺は・・・・・・。」
「・・・っ!」
麗奈は、立ち上がると部屋を飛び出して行った。すれ違ったときに見た横顔には、涙が溢れていたんだ。
バタンと閉められた部屋の中には、呆然と立ち尽くす俺だけが残った。追いかけるべきだろう、とも思ったが・・・
「どういう顔して追いかければいいんだよ・・・!?俺は、麗奈の血を吸おうとしたんだぞ・・・!?」
どうすればいいんだ・・・。
遅くなってスイマセン。実は、二度ほど書いてたやつが消えまして・・・ちょっと落ち込んでました。
まぁ、仕事が忙しかったのもあるんですけど。