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戦いの終わり

「死ぬがいい!」


 そう叫んだ吸血鬼は一直線に俺へと向かってきた。凄い速度で、霧が俺の周りを取り囲む。


「やべ・・・。」


 嫌な予感がした俺は、全力でそこから脱出しようとした。この手の攻撃は、イヤラシイ攻撃が多いのだ。例えば、霧で覆った相手の体力を奪い続けるとか・・・霧の中からなら、何処からでも攻撃が出来るとか。


 今回は、後者だったようだが。


「切り刻んでやる!」


 と俺の右のほうから聴こえたから、咄嗟に右を向いてしまった俺は、直後に後ろから聞こえてきた風切り音に、身を伏せることで対処した。その瞬間、頭の上、つまりさっきまで丁度俺の首が有った辺りをゴウッ!と鎌が通り過ぎてゾッとする。あのまま攻撃を喰らっていたら、恐らく俺の首は飛んでいただろう。


 しかし、敵は休ませてはくれなかった。伏せた俺の目の前に、鎌の鋭利な先端が出現する。それを見た瞬間、全力で右へとジャンプした。だが・・・


「かかったな。」


 足が現れて、俺の顔面を蹴り飛ばす。俺は体力を少し減らしながら転がってしまった。無様に倒れた俺の頭上に、鎌が具現化される。


「死ね、クズが。」


 先程までの激情は何処へ行ったのか分からないほどに冷えきった声で呟き、鎌を振り下ろす吸血鬼。・・・だが、


「”ファスト・リロード”、【無効化弾】【獄炎弾】!」


 其処に、麗奈の声が響き、何発もの銃声が轟いた


「私の銀狐に、何してるのよぉ!!!”ウェポン・チェンジ”、吹き飛べ”ハイパー・バースト”!!」


 【無効化弾】は、撃ち込んだ対象の状態変化を一分間の間全て無効化する特殊弾だ。物理ダメージは0なので、仲間に撃ち込んで毒や痺れなどの状態変化を消すことも出来るし、敵の強化スキルや今のような変化スキルも消すことが出来る。時間内では、同じ状態変化になることは出来ない(つまり、今の場合だと、一分経過するまではヤツは霧になることは出来なくなった)。ただし、一分経過すると元に戻るので、その場しのぎでしかない。俺たちの状態変化の回復役はレオンがいるので、今まで使用したことは無かったのだ。


 そして、【獄炎弾】は、炎系統の最上級の弾丸だ。威力も高いが、値段も驚くほど高い。これ一発で、ゾンビ50体分くらいの金が吹き飛ぶのだ。


 その弾を、麗奈は惜しむことなく所持していた5発を全て撃ち込んだ。【無効化弾】によって”霧化”を解除された吸血鬼は、続く【獄炎弾】を全て喰らって、大きく吹き飛んだ。吹き飛ばされて転がった敵に、容赦なく撃ち込まれる追撃の”ハイパー・バースト”。これは光弾銃専用のスキルで、大きな球状のビームを発射するスキルだ。威力は多少低いが、ヒットすると敵を大きく吹き飛ばす事が出来る。


「助かった。サンキュー麗奈!!」


「良いってば!」


 今のは危なかった。麗奈の援護が間に合わなければ、俺は死んでいたかも知れない。マジで麗奈に感謝だな。


「あ、ァああああぁあああああ!!」


 壁際まで吹き飛ばされた吸血鬼は、体中が炎で焼かれ、苦しみ藻掻いている。体力を見ると、恐ろしい事に5割が減っていた。・・・・・・【獄炎弾】の威力高すぎだろ。


「銀狐さん、多分、炎が奴の弱点属性です!今のうちに畳み掛けましょう!」


 というレオンの声。・・・成程、吸血鬼は炎に弱いというのは聞いたことがある。・・・なら


「いくぞ!”神衣:赤神威”!」


 俺たちの体が炎に変換される。俺と結衣が”縮地”で近づき、麗奈は”ブースター”で飛び、レオンは足から炎を噴出して高速で近づいてきた。


「ぐゥ・・・クソが・・・!!『闇に喰われて消え失せろ』”シャドウ・イーター”!」


 炎に苦しんでいた敵だが、俺たちの接近に気がつくと、何と『詠唱型スキル』を使用してきた!


 このゲームには、基本的に詠唱は存在しない。どのスキルでも、スキル名を唱えるだけで即座に発動する。だから、あまりやる人間はいないとは思うが、他のゲームでは後衛の魔術師などの職業でも、前衛で戦う事が可能なのだ(スキルが即時発動するから。ただし、近接戦が出来るほどのステータスが有ればの話だが)。


 だが、『詠唱型スキル』だけは詠唱をしなければならない。この『詠唱型スキル』は、詠唱を必要とする代わりに総じて性能が高いし、特殊な効果を持っている。俺が今まで見たことがあるのは、結衣の”灰燼烈滅かいじんれつめつ”のみだったが、コイツも使うのかよ!


『不味いです!』


 パーティーチャットで結衣が叫んでくるが、言われなくても分かっている。・・・が、今が千載一遇のチャンスなのも事実だ。今を逃せば奴は更に用心深くなり、戦いが長引くだろう。持久戦になれば此方が不利だ。


『銀狐、行こうよ!』


 そうするか迷っていると、麗奈が叫んだ。


『私達なら出来る。今の私達なら、この位大丈夫だよ!』


 正直、麗奈の台詞には何の根拠もない。”シャドウ・イーター”がどんな効果を持っているのかも分かっていないのに、何故あんなに自信たっぷりに『大丈夫』と言い切れるのかは分からない。・・・でも、その言葉を聴いて、『大丈夫』だと思ってしまう俺もいるんだ。


『フフフ・・・。私も、『大丈夫』な気がしてきました。』


『僕もです。それに、今を逃したら僕たちが不利になります。行きましょう!』


『・・・分かった。突っ込むぞ!』


 パーティーチャットは、脳波を計測して脳に直接言葉を送り込む技術だ。これは、通常の会話と違い、他の人間に聞かれる心配が無いのと同時に、ある特性も持っている。


 早いのだ。通常の会話より格段に。意識が加速し、現実が引き伸ばされる。これだけの会話をしていても、経過した時間は一秒にも満たない。そして、加速した俺の視界は、目の前にゆっくりと広がりつつある闇を見つめていた。パーティーチャットを切った俺たちの感覚が元のスピードに戻り、それまでゆっくりだった闇が恐ろしい程の速度で広がる。


 ・・・そして、立ち上がった・・・・・・


「俺の敵を喰らい尽せ、”シャドウ・イーター”!」


 火傷によって変貌した顔を抑えながら、吸血鬼は命令する。


 それは巨大な闇色の化け物だった。天井に付くほどに高いが、ペラペラと紙のように薄い。顔らしき部分には、人一人位なら丸呑みに出来そうな巨大な口が付いている。子供の落書きのような姿かたちだが、威圧感が半端じゃ無かった。


「来るぞ!」


 ”シャドウ・イーター”が、両腕を振り上げる。俺たちは全員バラバラの方向へ飛んだ。その瞬間・・・


 ドン・・・・・・・・・!!!


 恐ろしい程の土煙が昇り、俺の視界を遮る。驚異的な攻撃力だが・・・


「・・・まさか、アホだったとはな。」


 俺は体の炎を操り、大気中に舞っている土埃に引火する。


 ゴッ・・・!!


 視界は真っ赤に染まり、部屋中が紅蓮に包まれる。粉塵爆発ふんじんばくはつ。大気中に大量の粒子が存在するときに静電気などによって爆発するという現象だ。更に、このフロアは広いが密室。爆風が逃げるスペースが無く、フロア中が激しい爆発に包み込まれる。


 だが、俺たちは”神衣:赤神威”によって体が炎になっているので、炎によるダメージを一切食らわない。奴は自分で自分の首を締めたのだ。


 爆発が収まったすぐ後に、”神衣:赤神威”の効果も切れて俺の体も元に戻る。フロアに残った熱によって体力が少し減ってしまう。”神衣:赤神威”の効果で体力が減っているため、これ以上のダメージは不味い。俺はショートカットメニューから赤いライフポーションを呼び出して一気に呷った。体力が安全圏内まで回復する。


「・・・・・・!・・・く、そ・・・・・・。」


 爆発が収まった後、そこに合ったのはボロボロになった吸血鬼の姿だった。マントや着ていた服は燃えて殆ど残っていない(大事な部分だけは隠れているが)し、右足と左腕も無くなっている。壁に背を預けて辛うじて立っているという状態だ。


「おかしいな・・・。弱点属性だったはずだし、あの爆発で生きている訳が無いと思ったんだが。」


 と俺が言うと、何処からかレオンの声が聴こえた。


「ゲホッ・・・無茶しますね銀狐さん。やるなら一言言って欲しかったです・・・。」


 そこには、体中を真っ黒にしたレオンが立っていた。多分、俺の体も真っ黒だろうけど。


「どうやら、”シャドウ・イーター”は、”口にした物を吸収して体力に変換する”という能力を持っていたようです。”シャドウ・イーター”に大部分の爆発エネルギーを食べられて、吸血鬼を倒す程のダメージはいかなかったんでしょう。」


 成程・・・。あの化け物は、あれ自体が体力を持った一種のモンスターだったわけか。そして、自分を守らせた訳だな。でも、あの爆発に耐え切れなくて消滅して、残りのダメージが吸血鬼に入ったのか。


 俺は、呻いている吸血鬼を見る。見るも無残な姿になったヤツは、徐々に体力を回復させている。


「・・・これ以上時間をかける訳にはいかないか。・・・・・・終わらせる。」


 俺はゆっくりと吸血鬼に向かって歩いていく。


「・・・下等生物の癖に・・・・・・。何故、俺がこんな目に合わなければならん・・・!」


 憎々しげに言ってくるから、俺はそれ以上の憎しみを込めて言い返す。


「何故だと・・・?言っただろう、先輩たちを殺したからだと・・・!言っただろう、麗奈を泣かせたからだと・・・!言っただろう、俺たちの運命を狂わせたからだと・・・・・・!!」


 攻撃してきた右腕を”斬烈”で切り飛ばす。残っていた左足も”斬烈”で切り飛ばす。


 俺の目の前にいるのは、呻くしか出来なくなった宿敵の姿だった。


「あの時は殺せなかったけど、今なら出来る。」


 あの時、先輩の傘で放った攻撃は、以前やっていたVRMMOで俺の一番の得意技だった”悪滅の一撃”という突き攻撃だった。だが、所詮現実の俺の体では、アイツを殺す程の威力は出なかった。


「この仮想の世界なら、俺はお前を殺す事が出来る。」


 動けない吸血鬼の前に立ち、左腕と左足を前に伸ばし、右手と右足を後ろへ。刀を持った右腕をギリギリまで引き、一撃のために力を込める。


「・・・か、そうだと・・・?貴様は、何の話を・・・。」


「黙れ。・・・”悪滅の一撃”・・・・・・!!」


 ズドンという音と共に、何かを話そうとした吸血鬼の喉に刀が深く突き刺さり、背後の壁すらも貫通する。


「が・・・カハ・・・・・・!」


「・・・美代、森羅、社長・・・そして先輩。仇、討ちました・・・・・・。」


 あの時に出来なかった報告をする。残り少なかった敵の体力が減っていき、ゼロになる。そして、光になって消滅していく。


「ハ・・・ハハハ。まさか、俺が殺されるとはな・・・。」


 消えながら笑い出す吸血鬼。それを複雑な気持ちで眺める俺だったが、最後にコイツは爆弾を残して逝きやがった。


「お前の言っている奴は・・・俺とは別だよ・・・。恐らく、そいつはまだ生きている・・・・・・。」


「なっ・・・!」


 体がどんどん光に変換されて、残り頭部だけになった吸血鬼は、笑いながら話し続ける。


「ハハハハハ!・・・そいつはな、多分俺のコ・・・。」


 其処まで言って、消えやがった。


「何だよ・・・。言うなら最後まで言っていけよテメェ!」


 叫ぶも、既に相手は居ない。戦いの余波でボロボロになったフロアに、虚しく響くだけだった。


 ポーン♪


『称号【真祖を滅した者】を習得しました。』


『称号【真祖を継ぐ者】を習得しました。』


『スキル”式神登録”の使用条件を満たしました。自動発動します。』


『スキル”式神召喚”の使用条件を満たしました。』


『転職条件を満たしました。【聖邪せいじゃの剣士】に転職しますか?Yes/No』


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