本当の力
「な、何だ・・・?今、声が・・・?」
結衣やレオンと本当の仲間となったその瞬間、俺の頭の中に声が響いた。天津京香との戦いの最中に聴こえた、あの不思議な声に似ていた。その声が聴こえると同時に、俺の目の前にウインドウが現れる。そこには、こう書かれていた。
『【神衣の水干】がLv2に上昇しました。スキル”式神登録”を習得しました』
『【神衣の緋袴】がLv2に上昇しました。スキル”式神召喚”を習得しました』
「な・・・っ!?」
そういえばすっかり忘れていたが、俺の装備はLegendly Itemだった。そして、その説明文には、”装備者と共に何処までも高みに昇る”と書かれていた筈だ。つまり、この装備は進化する装備。そして、その御陰で新しいスキルも覚えられたってことか。
でも、式神とかどうやって使えばいいんだ?今は戦闘の最中だし、正直スキル説明を見ている時間なんか無いぞ。これは、今使うべきじゃなく、この場を生き残れた後で使うべきか?
「銀狐さん、来ますよ!」
結衣の叫びによって、俺は思考を止めた。敵が業を煮やしたのか、凄まじい速度で突進してきていたのだ。先ずは目の前のアイツを倒すことが先決だ。新しく習得したスキルが”式神召喚”だけならそのまま使うことも出来たんだが、”式神登録”っていうのがよく分からない。”式神召喚”を使って不発に終わる可能性もある以上、今は使うのを諦めるべきだろう。
「結衣、何時も通りに行くぞ。レオン、麗奈、援護は任せる!アイツに隙が出来たら一気に攻め込むぞ!」
「「「了解!」」」
俺が走り出すと同時に結衣も走る。だが、今回は俺のほうが先に敵にたどり着いてしまった。
「な、何だ!?」
「銀狐さん、早い!」
そう、俺の速度が明らかに上がっているのだ。それだけじゃなく、体全体に力が満ち溢れているような感覚がある。もしかして、他のステータスも上昇しているのか!?
何時もの力加減で走った結果、結衣を置き去りにしてしまったのだ。敵も此方に走ってきていたから、結衣が遅れていることに気が付いた時にはもう敵の攻撃範囲に入ってしまっていた。
「く、そ・・・!」
「バカメ。ジブンカラレンケイヲクズシテドウスルノダ。」
今更下がることは出来ない為、俺は攻撃を仕掛ける。走りながら刀を正面に構えて、スキルを発動させる。
「”脚力強化の呪”!」
俺の両足に羽のような紋章が浮かび上がり、直ぐに消える。その瞬間、俺の速度が跳ね上がった!
「・・・っ!」
既に俺を迎撃する体勢を取っていた敵は、急激な速度上昇に対応しきれなかったのか・・・俺の放った突き攻撃は、咄嗟に防御してきた右手を中程から切り飛ばすことに成功した!
「グ、グゥ・・・!」
「まだまだぁ!」
俺が追撃を仕掛けようとすると、危険だと判断したのかバックステップで下がろうとする。・・・だが、そんなことは俺の仲間がさせねぇよ!
「”撤退禁止”!」
というレオンの声と共に、敵の足がピタリと止まった。これは”10秒間敵味方双方の回避行動を禁止する”という、【呪術師】の極悪なスキルだ。この時間内は、回避する意思のある行動は不発に終わり、防御か受け流ししか不可能になる。・・・つまり、ガード出来ない攻撃を叩き込めば必ず当たるって話だ!
「私が、貴方という悪夢を終わらせる!」
という麗奈の声と共に、キュィィーンという音が響き・・・敵が慌てて麗奈を見たが、その時には何もかもが遅かった。
「消し飛べ!」
ガガガガガガガガガガガ・・・・・・という凄まじい音と共に、【蒼龍】による蹂躙が始まる。
「ウオオオォォオオオオオ!」
敵はその体全てに光弾を浴びてドンドン体力が減っていく。・・・そして、”撤退禁止”の効果も切れ、やっと体力が赤ゲージに突入した瞬間・・・
「アマリチョウシニノルナヨ・・・ザコドモ。」
突如、敵の体に当たった麗奈のビームが変な方向へ弾かれだした。
「・・・っな!」
「嘘!?」
そして、体から闇色の煙が溢れ出し、敵の体を包み込んだ。そして、体力ゲージが回復しだしたのだ!
「ヤバイ。結衣!」
「はい!」
俺と結衣が走り、ヤツに切り込む・・・が
「うあ!」
「キャッ!」
ヤツの体から放出される謎の光によって俺たちは弾かれた。
「止まれー!」
「”回復禁止”!」
麗奈が再度【蒼龍】を放つが全てを弾かれ、レオンの【呪術師】のスキル”回復禁止”も効果が無かった。その間にも敵の体力はグングン回復し・・・そして、遂に体力が全回復してしまったのだった。
「は、ははは・・・。リザレクションとか、卑怯くせぇ・・・。」
リザレクションとは、一部の格闘ゲームでボス等に実装されているシステムで、早い話が、”死ぬ、もしくは死にそうになっても復活する”という酷いスキルだ。しかも、中にはリザレクションをしてから姿形が変わったり、AIが強くなったりと、プレイヤーを絶望させる敵も多い。・・・今回も、そのパターンだったようだ。ほら・・・
「こんな雑魚ともにここまで追い詰められるとは・・・流石に予想して居なかったぞ。」
自身を覆っていた煙から出てきたそいつは、今までとは明らかに違っていた。
「喜べ。この俺に本気を出させたんだからな。」
今まで被っていたフード付きローブは消え去り、代わりに真っ赤なマントを羽織っている。今までの機械のような甲高い声は逆に低くなり、よく聞き取れるようになった。髪は逆立ち、瞳はこの暗さでも分かる程に真っ赤に輝き・・・そして、開いた口からは鋭く尖った犬歯が見える。その姿はどう見ても・・・
「・・・俺たちって、どうしてこんなに吸血鬼と縁があるんだろうな・・・。」
俺が言うと、皆は苦笑した。
「ま、何が出てこようと倒すだけですよ。・・・どうやら、久々にチートを使えそうですしね。」
「そりゃ頼もしい。じゃ、結衣を攻撃の要として戦っていくか。」
そこで、俺は大きく息を吸った。
「じゃ、もう一頑張りいきますか!」
「「「了解!」」」
リザレクションしたから何だ?敵が更に強くなったからって何だ!?俺たちは、まだ絶望してないぞ!
「さぁ、行くぞ!」