再び塔へ
俺の”神衣:黄神威”によるペナルティ時間が終わった後、俺たちはまた南の塔にやってきていた。
何故こうも急ぐのかには、理由がある。俺たちプレイヤーは、他のプレイヤーが今何人生きているのか、誰が生き残っているのかを知ることが出来る。あの後、それを調べてみたところ、天津京香はまだ生きていたのだ。
まあ、俺はあいつが死んだなんて考えていなかったが。最後に残した言葉もあるが、彼女程の強敵を倒した筈なのに、経験値は微々たるものだったし。PKによる取得経験値が異常に高く設定されているこのゲームで、あの経験値は低すぎた。それになにより、彼女の死にかたが不自然すぎた。
この世界では、プレイヤーやNPCの死体は残る。モンスターの死体は光の粉になって消滅するのだが、何故か人間の死体は残るのだ。残った死体は、モンスターに食われるか、もしくは火葬するまでその場に残り、一定の時間が経つと腐敗してアンデッド系のモンスターに変化してしまうのだ。
そして、そのモンスターは、生前のレベルやスキルを継承するようで、下手に死体を放置しておくと、高レベルのアンデッドが生まれるらしい。”死体を見つけたら取り敢えず燃やせ”というのが、この世界の常識らしいぞ。
兎に角、天津京香は生きている。そして、彼女が何時襲ってくるとも分からない今、早急にこの塔をクリアしないと・・・!・・・あれ、これこの間も思ったような?
せっかく、俺と麗奈に新しいクエストが発生したっていうのに、俺たちにはそれを楽しむ余裕すらないのだ。それは後回し。今は、PKされなくなる事を最優先にしないと。
現在、南の塔32階。そこで俺たちは鳥類系モンスター【パニック・バード】10躰と戦闘をしていた。このモンスターの厄介な特徴は、超音波による混乱攻撃と、複数体の同時突進攻撃。
防ぐ手段の少ない超音波によって敵を攪乱し、その間に突進で大ダメージを与えてくる敵で、非常に強敵・・・だった。昨日までの俺たちなら苦戦しただろうな。
「”遮音結界”!」
まず、レオンが超音波を防ぐ。
「【空間弾】!”ファスト・リロード”【爆裂弾】!」
そして、麗奈の【空間弾】により、3躰を捕らえ、そこに【爆裂弾】を撃ち込んだ。【空間弾】は、撃ったその瞬間に指定した空間を見えない壁で囲う特殊弾だ。絶対に避けることは出来ない。そして、敵を囲った箱状の空間の中に、爆発する弾を撃ち込むとどうなるか。
普段は爆風が周りにも拡散するのだが、拡散するはずの爆風が、その空間の中で閉じ込められるのだ。【パニック・バード】3躰の体力は、ほぼ満タン状態だったはずなのに、ゼロになって消えた。
「”四陣結界”!」
残りの7躰を、結衣が展開した結界が覆う。これは、神崎神刀流のスキルで、バインド効果がある結界だそうだ。神崎神刀流スキルは、俺も時間がある時に覚えていっている(今は新しいスキルを3つ覚えている)が、このスキルはまだ覚えていない。
「今です、銀狐さん!」
そして、敵の全てが動けなくなったとき、俺は叫んだ。
「いくぜ!”神衣:黄神威”!」
俺と、仲間全員の体が、輝く雷光に包まれる。・・・いや、雷そのものに変化する。それと同時に、周りの全てが停滞する。
「オオオオォォォォォォ!」
今、俺と同じ世界にいるのは、俺の仲間だけ。誰も、俺たちに付いて来れない!
一歩踏み出す。その瞬間、10メートルは離れていた筈の俺と敵達の距離が、1メートル程にまで近づいていた。
まず、先頭にいた敵の首を”斬首”で切る。俺の圧倒的なスピードと、”斬首”の『クリティカルポイントに当てると1・5倍ダメージ効果』によって、たったの一撃で体力が吹き飛んだ。
近くの敵には麗奈と結衣が攻撃していたので、俺は一番後ろにいた敵の相手をすることにしよう。・・・といっても、今の状態に距離など関係がない。一歩踏み込むだけで、その敵の前にいるのだから。
レオンは、既に回復の準備に入っているので、攻撃には参加しない。俺たち3人だけで十分だからな。
首の部分を正確に切る。たったそれだけで敵は死んでいく。俺たちは、それからたったの数秒で敵を全滅させたのだった。
「・・・凄いですね。その称号の威力・・・・・・。」
戦闘が終了して、少し休憩をしている時に、結衣が言ってきた。
「そうだな。流石に凄いな。」
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・称号【雷を纏う者】
・効果:”神衣:黄神威”の効果をPTメンバー全員に付与。発動時間を10秒増加。デメリット時間を5分に軽減。雷属性攻撃50%軽減。地属性攻撃50%増加。
・荒れ狂う雷神は、友の言葉を思い出し、共に自身の知覚する世界に居たいと願った。
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昨日の、天津京香との戦闘の最中に手に入れた称号だ。そもそも黄神威を使用しなかったのはデメリットが痛すぎたからだ。なのに、この称号はそのデメリットを物凄く軽減してくれる。
そして、本来黄神威は、PTの仲間には効果が及ばなかった。雷になれるのは俺だけで、他の人間は付いてこれなかった。それを解消してくれる称号だったのだ。これによって、雷速の世界で、俺たちは戦う事が出来るようになった。
この力を用いて、俺たちはまずこの塔をクリアするぞ!