強くなるための道
さて、”神衣:黄神威”のデメリットによって一日全能力値が半分になってしまうので、今日の探索はここまでとなった。・・・それに、俺たち全員の精神的にも限界だったしな。
天津京香の軍勢との戦闘は、まさに死闘だった。敵の全員が一流のプレイヤーだったからだ。正直、何かが変わっていれば負けていたのは俺たちだったかも知れない程。
今は、レオンの屋敷に帰ってきて各自疲れを癒しているが、多分、皆の頭の中にはあの時の戦闘が映し出されていると思う。
「・・・皆、御免な。最初に索敵を使った時、敵は確かに5人いた。・・・なのに出てきた敵は4人だけだった。プレイヤーとの対決で浮き足立って、もう一人居ることを完全に忘れていた俺のミスだ。」
「いえ、それを言うなら、僕たちも忘れていましたよ。やっぱり、人間と戦うのは緊張しますから。銀狐さんのせいじゃありません。」
レオンが励ましてくれる。だが、やっぱり麗奈に攻撃させてしまったのは俺のミスだ。敵を倒し終えた時、油断しないで索敵を使えばよかった。そうすれば、敵がまだ残っていることを確認出来た筈なんだ。
俺が自分自身に対して溜息をつくと、麗奈が突然立ち上がった。
「どうした?」
「・・・ちょっと風に当たってくるね。」
そう言って、麗奈は足早にリビングを後にした。そして、そのすぐ後に結衣も立ち上がり追いかける。
「・・・何なんだ・・・・・・?」
「さあ・・・?」
リビングには、俺とレオンの2人だけが残されたのだった。
暑くも無く寒くもない、いい夜だった。時折風が吹いて、ギルドハウスの庭の草木を揺らす。空には満月が浮かび、深夜の【シュバルツ】を優しく照らしている。ギルドスキル【ヘカテーの涙】の御陰か、体調は凄くいい。ステータスが上がっているから、そう感じるだけかも知れないけど。
「・・・はぁ・・・・・・。」
でも、そんな夜も、私の気分を落ち着かせる事は出来なかった。
「私、何してるんだろ・・・。」
私は、銀狐の助けになるためにこの世界に来た筈だった。命をかけてこのゲームに挑戦する銀狐と一緒に、また現実で暮らす為に、この世界に来た。
私には、自信があった。銀狐とゲームをやっていた時間は誰よりも長い。荒れた大地を進み、ドラゴンの住むと言われる秘境の探索をし、そして、全てのプレイヤーの頂点に立ったこともある。
だから、銀狐と一緒なら何処へでも行けると思ってた。例え命が懸かったゲームだとしても、私と銀狐の障害にはならないと思っていた。
・・・なのに、私は弱い。銀狐は、私を置いてずっと遠くへ行ってしまった。昔の、一緒に肩を並べて戦っていた私は消えてしまった。
「弱い。私は弱い。・・・どうしてこんなに弱いの?どうして強くなれないの・・・?・・・こんなんじゃ、銀狐の相棒だなんて・・・言えないじゃない・・・・・・。」
今日の戦いでハッキリと自覚した。私は足でまといだと。銀狐を助けに来た筈が、銀狐に助けられてばっかりだ。
私は、涙で濡れた顔で空を見上げた。さっきまであんなにハッキリと見えた満月が、涙で霞んで見える。
「こんなことで泣いてるようじゃ・・・強くなんてなれないよ・・・。」
私は、涙を拭おうとした。・・・でも、その腕を誰かに掴まれた。
「え・・・?」
「いいんですよ、悔しい時は泣いても。その涙は、貴方が現状に満足していない証拠なんですから。その涙を流せるなら、貴方はもっと強くなれる。」
それは、優しい笑みを浮かべた結衣さんだった。
「私が、保証します。」
その言葉を聞いた瞬間・・・
『何だ、力が欲しいのか。』
私の頭の中に、声が響きわたる。
『アイツの事を助ける為の力なら、俺たちが与えてやる。』
口調の割には幼い子供の声だった。それが、私に語りかける。
『これでも、アイツには期待しているんだ。アイツを助ける為の力が欲しいなら、俺たちを見つけな。』
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『強制クエスト【神々からの挑戦】が発生しました。』
・クエスト条件:不明
・クエスト内容:神の宝玉の発見【複数存在】
・期限:無し
・クエスト報酬:各宝玉により報酬は異なります
『クエストを開始します。』
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その声が聞こえなくなると同時に、クエストが開始した。
「・・・これは・・・・・・!」
私が強くなるための道。銀狐に追いつく最後の手段・・・!
「す、凄いです!早速銀狐さんたちに報告しに行きましょう!」
「あ、ちょっと待ってよー!」
テンションの高い結衣さんによって、私は屋敷の中に戻されるのだった。
銀狐は、色々とチートっぽいスキルや称号を持っています。それによって通常の何倍ものスピードで強くなるので、麗奈は焦っていたんですね。