1日目終了
拠点にしている洞窟の中で呟いた。時刻は既に午後9時を過ぎている。ゲーム開始が午前10時だったから、軽く11時間は過ぎている。
正直、驚いた。一度プレイヤーと戦い、その後数度の戦闘をこなしながらこの【南の森】へと入り、拠点を制作した。それだけだ。今日した行動は、たったこれだけだったのだ。
昔の俺なら、この時点でかなりのレベルに達していただろうに、一度死んだらゲームオーバーというルールの過酷さに、正直怯えているのかもしれない。
だが、慎重なくらいで丁度いいんだろう。警戒のしすぎというのは、このゲームでは有り得ないと思う。取り敢えず、何の情報も無しに夜中の狩りは厳しい―――ただでさえこの森のモンスターのレベルは俺を上回っているし―――ので、今は今後どうするかを考える時間に当てようと思う。
先ずは、どういうキャラにするかだ。つまり、どういった能力構成にするか。ゲーマーだからこそ、ここはハッキリと決めておきたいところだった。
職業やスキルは、今は除外する。初心者ヘルプに、このゲームには隠し職業や隠しスキルが無数に存在し、いくつかの条件をクリアすることでそれを得ることが出来ると書かれていたせいだ。一応、基本的なスキルについての説明はあったので、それはまた後で考えることにしよう。
スピード重視かパワー重視か、防御力重視にするのか・・・キャラには様々なタイプがあり、それぞれに特化させたタイプじゃないと前線では通用しにくいのは、どのゲームでも同じだからだ。敢えてバランス型にし、様々な局面に対処出来るようにする人間もいるが、難易度が高い。俺は、やはり一極集中型にしよう。
やはりパワー型が一番いいだろうか・・・。どんな職業にするにしても、攻撃力は重要だし、そもそも、俺は今までのゲームではパワー型しか作ったことないしな。今まで作ったことのないキャラをいきなり作って、微妙な出来になるのだけは避けたいところだ。命がかかってるし。
「・・・・・・よし、パワー型にするか。SP既に攻撃力に振ってるしな。」
敵をPKKしたことによるレベルアップボーナスを、俺は既に筋力に振っていた。無意識に。これは、最初から考える必要なんて無かったのかもしれない。
このゲームは、1レベルアップする毎にSPが2貯まる仕様で、そのSPを消費して各ステータスを上げる。スキルには個別にレベルが設定されていて、使用した回数、または時間で経験値が溜まっていく。レベルがあがると、そのスキルの威力補正や効果などが、更に大きく、強力になっていくのだ。
だが、俺は称号【PKK】によって、レベルアップ毎にSPに5ポイントが追加される。つまり、一度レベルアップすると、SPに7ポイント貯まるということだ。
これは、物凄く強力な称号だ。【PK】も強力な効果を持っているが、俺は積極的にPKする気はないので意味はない。
兎に角、この【PKK】によって、キャラ育成をしやすくなったということは確実だ。何といっても、他の人間の3倍以上のSPが貯まるのだ。正直チートと言えるだろう。
次に、ヘルプで紹介されている基本的なスキルの中で、早めに取得しておきたい物を纏めよう。
・【隠密】スキル。
・【索敵】スキル。
・【見切り】スキル。
・【自然治癒】スキル。
こんなものだな。
【隠密】【索敵】については問題ない。【シュバルツ】の西区にいる盗賊NPCに100G払えば、どちらも教えて貰えるそうだ。【見切り】も同様に、【シュバルツ】の北区の道場で師範NPCと三時間訓練をすることで取得出来るらしい。だが、【自然治癒】だけは取得条件がヘルプに記載されていなかった。
このゲームでは、一箇所でジッとしていると、ジワジワと体力が回復するのだが、それはかなり遅く、戦闘中には使用出来ない。だが、この【自然治癒】スキルは、戦闘中だろうが体力が回復していくそうなのだ。更に、スキルなのでレベルを上げれば回復速度も上がるという正に喉から手が出るほど欲しいスキルだった。
一応、明日【隠密】【索敵】【見切り】を取得しに【シュバルツ】へ向かう予定なので、その時にでも町中のNPCから情報を集めてみようか。
と、ここまで考えた時、脳内でプルプルプルと音が鳴った。
「何だ・・・?」
不思議に思った俺の視界に、このデスゲームの主催者、<<東条光一>>の姿が映し出された。高級そうなソファーに身を埋めて、優雅にワインを飲んでいる。
『やあ、諸君。今日は一日お疲れ様。今、午後12時を回ったからね。今日の報告をしようと思ったんだ。ああ、これは今回限りの放送だから。次回からは、メニュー画面で確認出来るようになるからね。』
何の話だ・・・と、俺は正直思った。いつの間にか12時になっていたのには驚いたが、そうと自覚すると一日の疲れが滲み出てきて、今すぐにでも眠りたいのだが。
しかし、何か重要な話のようだし、ここは真面目に聞いておくことにする。情報は、有って困ることはない。
『じゃ、早速。えーと、今日の死亡者は、1万2人だったよ。』
「・・・・・・は?」
俺は、ポカーンとした顔になった。多分なってるだろう。今、オッサンはなんて言った?
『その内、PKで死んだ数は16人。残りは皆モンスターに殺されちゃってるね。』
俺は、確かに、モンスターでかなりの数の死者が出るだろうと思っていた。だが、一日、ゲームが始まって、たったの一日で1万人の人間が死んだだと・・・?
『全く。皆ゲームとかやったことないの?そのままだと直ぐに全滅しちゃうよ。それじゃ実験にならないから。頑張ってくれないと困るんだよね。・・・ま、これから頑張ってくれることを願うよ。それじゃあね、バイバーイ。』
そう言ってオッサンは視界から消えた。後には、呆然とした俺だけが残されていた。
・・・今日は、流石に眠れそうにないな・・・・・・。