二度と来んな
「はあああああ!」
思考も加速した俺は、天津京香の懐へと踏み込んだ。”神衣:黄神威”のスキル効果時間は10秒しかない。その間に、俺はコイツを殺す!
「早い・・・!?」
だが、敵も一筋縄じゃいかない。雷の速さで近づいた俺を、完璧に視認している。そして、カウンター気味の右フックを繰り出してきた。
「でも・・・!」
思考も体も雷となった俺には、スローモーションに見える。俺は軽く首を傾けてその攻撃を避けると同時に、この前新しく覚えた神崎神刀流スキル”斬烈”を発動する。このスキルは、当たった部位を必ず切り落とすスキルだ。彼女の右腕が切り落とされて飛んでいく。
「・・・!強すぎでしょ!」
返す刀で彼女を上段から切り裂こうとしたその瞬間
「”眷属召喚”。」
という彼女の言葉と共に、先程倒した筈の男が目の前に現れた。
(マジかよ!残り時間は5秒程度、このスキルが終了したら俺は負けるぞ!?)
”神衣:黄神威”のデメリットによって、体力も霊力も減った上に、10秒間の行動不能に陥る。そうなったら、間違いなく殺される。このピンチを、どうやって切り抜ければいい!?
俺の仲間も行動を開始してはいるが、今の攻防は実質5秒位しか経っていない。つまり、俺たちがあまりにも早すぎて仲間の行動が追いついていないんだ。援護は期待出来ない。
(どうする!?この2対1の状況はあまりにも不利だ!残り4秒位しかないぞ!?一旦仲間の所まで後退するべきか!?)
と俺が弱腰になった時だ。その声が聞こえたのは。
『俺の力を、まだ御しきれないようだな。仕方がない。力を貸してやろう。』
その言葉が脳裏に響くと同時に、俺の体から数百、いや、数千もの巨大な雷の槍が発射されたのだ!
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ・・・!
麗奈の【蒼龍】を圧倒的に凌ぐ程の音と光が放出された。その光によって、本来暗かった筈のダンジョンは、まるで真昼のような明るさになり、敵も味方も揃って目を瞑る。
だが、俺は眩しくなかった。”神衣:黄神威”を発動しているからか、全く眩しいと感じなかった。だから、俺は見ることが出来た。召喚された男が、無数の雷の槍に串刺しにされて消滅するのを。後方にいた天津京香は、幾つかの槍が体に突き刺さりながらも生きているのを。天津京香は、此方を凝視している。この光の中で、俺の事を見失っていなかった。
だから・・・天津京香がまだ死んでいないのを確認したから、俺は無意識にスキルを発動していた。
「”紫電蒼炎”。」
俺の体を構成する雷が紫色に変化する。そして、【妖刀屍鬼】から蒼く輝く炎が吹き出る。
「ああああああああああぁぁぁ!!」
刀を上段に構え、突撃する。・・・まだ京香は動かない・・・否、反応出来ていなかった。
先程までは反応出来ていた筈なのに、ピクリとも動かなかった。俺は、今、雷の速度を超越したのだ。
「え・・・・・・?」
彼女が不思議そうに言葉を紡いだのは、俺が彼女を切り裂き後方で立ち止まってからだった。そして、その瞬間体が元に戻る。”神衣:黄神威”の効果時間が切れたのだ。
「・・・負けたのか、私・・・・・・。」
彼女は、振り返って俺の顔を見る。そして、俺にだけ聴こえるように呟いた。
「今回は私の負けだね・・・。でも、また来るから。・・・・・・私以外の人に殺されないでね、愛しい人・・・・・・。」
そう言うと、彼女の体は指先からどんどん灰になっていった。
「あらら、時間切れか・・・。次に会うときは、もっと強くなっていてね。私も・・・頑張るから。」
そして、最後に顔が灰となって・・・その場所に崩れ落ちた。
「・・・・・・二度と来んな。馬鹿野郎。」
走ってきたレオンに回復スキルを掛けて貰いながら、俺も呟いたのだった。