嵐の前触れ
「おおおおおおおおおおお!」
「はああああああああ!」
俺と結衣が敵を切りつけ、麗奈が援護射撃、隙があれば【蒼龍】による攻撃をし、レオンが回復と防御をする。
俺たちは、既に30分近く戦い続けていた。
「何だよコイツ!体力多過ぎだろ!」
堪らず俺は叫ぶ。<<フレアスケルトン>>は、俺が10分程で倒す事が出来た筈だ。それなのに、今回は4人いるにも関わらず、体力は3割程残っているのだ。
「おっかしいですねー・・・。こんなに強くないはずなんですけど・・・。」
結衣が額の汗を拭いながら答えてくる。
「やっぱり変だよな!?」
叫ぶと同時に”バックステップ”を発動し攻撃を回避する。結衣は”霞楼”で避けていた。
「銀狐さん、神衣スキルでは無理でしょうか!?」
レオンが尋ねてくるが・・・
「正直、体力を削りきれるか分からねえ。あと1割削れれば確実に倒せると思うが・・・。」
神衣スキルには、発動後体力が減るというデメリットがある。レオンの回復スキルがあるとはいえ、回復が間に合わなくて攻撃を喰らった場合、最悪即死する可能性があるのだ。
っていうか、こいつの攻撃力が高すぎるんだよ!なぎ払いを一度喰らったんだが、体力が半分近く吹き飛んだぞ!
「しかし、このままでは時間切れです!今すぐ倒さないと、大変な事になります!」
「後何分ある!?」
「後5分しかないよ!」
「それだけかよ・・・。」
俺は唇を噛んだ。結衣達NPCとのPT限界時間が迫っているのだ。この時間を超えた場合、例え戦闘中でも彼らは街に戻される。そうなった場合、俺と麗奈の2人だけでこいつを倒さないといけなくなる。ボス戦は基本的に逃げられない為、圧倒的に不利だ。
「銀狐、レオンが居るうちに神衣スキルで体力を削らないと、大変な事になるよ!」
と麗奈の助言。確かに、今の内に敵の体力を削れれば、時間切れになって二人が戻っても、麗奈と二人で倒せる可能性が高い。レオンが居るうちに神衣を使用して、体力を回復してもらうべきか。
「分かった!神衣使うぞ!」
俺たちは全員敵に一直線に向かっていく。回避や防御は考えない。どうせ神衣なら無効化できる!
「行くぞ!”神衣:赤神威”!」
俺の体が炎になり、全身に力が湧いてきた。俺は走った勢いそのままに、敵を斬り付ける。
『ギィイイイイイイイイイ!』
筋力が二倍になった攻撃は流石に痛かったらしい。俺に怒りの目を向けてくる。だが俺はそれに構わず切り続ける!
「”神風”!」
「”豪炎乱舞”!」
「”魂狩り”!」
「”ツイン・バースト”!」
俺と結衣が刀で切り裂き、レオンが大鎌で抉り、麗奈の双銃が火を吹き爆発する。敵の体力がどんどん減っていき、残り1割になった。
「いける!削りきるぞ!」
『おお!』
俺が”兜割り”を発動しようとした時だ。
『ガアアアアアアアアアアアアアアア!』
突然敵が今までにない声を出したかと思うと、突然俺たちに向かって倒れこんできた。
「え・・・?」
ドーーーン!
という激しい音と共に結衣が下敷きにされたのだ。更に間の悪いことに、そこで神衣が切れた。
「結衣さん!」
レオンが我を忘れて走っていく。俺も行きたいが・・・
「銀狐はまず回復しないと!はいポーション!」
限界まで減った体力と霊力を回復しなければならないので、その場を動けない。
「くそ、結衣は大丈夫か!?」
「結衣さん、結衣さん!」
<<アマリリス>>の巨体に潰された結衣の安否は分からない。敵も全く動かなくなっていた。
「邪魔だ、どけ糞鼠!!」
というと、レオンは持っていた杖を消し、代わりに3メートル近くはあろう赤い大剣を取り出した。そのまま大きく振りかぶり
「断ち切れ!”アブソリュート・ゼロ”!」
叩きつけると、<<アマリリス>>の体は、まっぷたつになった。俺と麗奈は唖然としている。
「結衣さん!結衣さん!」
そして、死体を蹴り飛ばし、結衣が居た場所を覗くレオン。その瞬間、彼は脱力し、その場に座り込んだ。
「・・・結衣さん・・・・・・。」
「まさか・・・。」
「おいおい嘘だろ・・・。」
その様子に、俺たちは最悪の状態を想像してしまう。まさか、結衣が死ぬなんて・・・。
そう思って近寄ると、そこには・・・
「た、助かった・・・。」
地面に埋まっている結衣がいたのだった。