奇怪なオブジェに成り果てる・・・彼
「さて、それでは、続きをしましょうか!」
レオンの持つ大鎌が、ブオンと風を切り裂いて襲ってくる。
「糞!」
大鎌のリーチは長く、避けられないと判断した俺は、”霞楼”を発動する。麗奈は”ブースター”で空中に飛んで避けていた。
「ここだ!」
あの大鎌を振るった直後なら、どんな武器に持ち替えようと迎撃は間に合わない。麗奈もそう判断したようで、空中から攻撃を仕掛けた。
麗奈の援護射撃と共に、風を置き去りにして走る。レオンとの距離はたったの2,3mしか離れていなかった。こんな距離、今の俺には無いも同然だ。
「切り裂け!”神風”!」
モーションアシストにより、一瞬で刀を鞘に収め、抜刀する。レオンは未だ体勢を直していない。
(当たる!)
と確信した瞬間だった。
「”連撃”。」
レオンは、直立の体勢に戻っていた。更に、その両手には、先程の大鎌ではなく、右手に拳闘士の武器であるナックルを、左手に魔法職の武器である杖をそれぞれ装備していた。
「な・・・・・・。」
レオンは、俺の”神風”をナックルで防ぎ
「”フレイムランス”」
手にした杖から炎を吐き出し、俺に攻撃を仕掛けてきた。
「銀狐!”ファストリロード”【空間弾】!」
だがそれを、何時の間にか近づいていた麗奈の空間弾が防いだ。
「捕まって!」
そして、技後硬直で動けない俺の腰を掴んで、”ブースター”により一気に後退する。
「有難う麗奈。助かった。」
「お礼なんていいよー。・・・でも、厄介だね。」
「ああ。まさか、複数の職業のスキルを同時に使ってくるとはな。」
先程までレオンは、一つの職業の武器やスキルしか使用していなかった。だから、そういうことが出来るとは考えていなかった。
「まさか、戦士系と魔導士系の職業を同時に使ってくるとはね・・・。」
「それに、あの”連撃”ってスキルも厄介だ。何だアレ・・・?」
「あのスキルは、戦士系のスキルですよ。その様子では、まだ覚えていないようですね。”連撃”の効果は、技後硬直をキャンセルし、スキル使用前の状態に戻すという効果です。そして、クールタイムもキャンセルしてくれるので、とっても便利なスキルですよ。」
と、またレオンが教えてくれた。
「何だそれ!欲しいなそのスキル!」
「確かに、地味だけど使い勝手のいいスキルね。」
どんな体勢からでも反撃が出来るってことだからな。更に、普通は出来ない同じ技の連発が出来るようにもなる。戦士系なら絶対欲しいスキルだな。
「レベルを上げれば使えますよ。・・・でも、変ですね。このスキルは、戦士系でレベルが40になれば自動的に覚えるはずですけど・・・?」
「?俺、レベル30だぞ?」
「え!?」
何驚いてるんだ?レオンの奴。
「レベル30でそのステータスなんて有り得ないですよ!?いくら【月夜の支配者】の補正があるからって、そのスピードと攻撃力は有り得ないでしょう!?少なくとも、レベル60はあると思っていましたよ!?」
あー・・・成程・・・。
「称号のおかげだな。【PKK】っていう称号なんだけど。」
「あ、あの、最初の一人しか貰えない称号ですか・・・。貴方、余程運がいいんですね・・・。【月夜の支配者】の他に【PKK】まで持ってるとは・・・。」
レオンが呆れた顔で見てくるけど・・・正直、お前にだけは言われたくない。
「お前の職業だって十分チートじゃねえか。複数の職業の特徴を同時に操れるなんて。お前が呆れ顔で見ているこの俺が、2人で戦ってまだ一度も攻撃を当てられてないんだぞ?」
「あ、あはは・・・。この話はここまでにしましょうか・・・。」
「逃げたわね。」
「そうだな・・・。まあいいさ。さっさと続きをやろうぜ?」
そう言って、もう一度突撃体勢を取る。馬鹿の一つ覚えと言われるかも知れないが、ちゃんと策はある。
「・・・ん、分かった。」
横の麗奈に目配せすると、彼女は俺がやろうとしている事が分かったようで、小さく頷いた。こういうのを以心伝心って云うのだろうか。
「ちゃんとサポートしてあげる。ぶっつけ本番になるけど・・・大丈夫。私達なら上手くやれるよ。」
その言葉を薄く笑って受ける。
麗奈という存在の大切さを、再確認した。やっぱり、彼女がいなくちゃ駄目だわ。
「よし・・・じゃあ行くぞ!」
先程と同じように真っ直ぐ突っ込む。麗奈はレオンの死角に回り込もうとする。
「お前の相手はこっちだ!」
死角に入り込まれることを嫌ったレオンが麗奈を追いかけようとするが、俺を無視するわけにもいかず、ちゃんと彼女は死角に入り込む事が出来た。
「”兜割り”!」
今までのように隙を伺う訳では無く、最初からスキルを使用していく。
「”神風”!」
「”斬首”!」
次々と発動する俺のスキルを防御することでレオンは精一杯になっている。
俺の思ったとおり、【ウェポンマスター】は万能職であると同時に、中途半端な職でもあるんだろう。
普通、戦士系なら物理ステータスを、魔法系なら魔法ステータスを、防御系や銃士系、それ以外の特殊職も、それぞれ自分の職にあったステータスを重点的に伸ばす。
だが、【ウェポンマスター】という職業は、ほぼ全てを使える代わりに、ステータスの自由が無いんじゃないだろうか。万遍無く、どんな状況にも対応出来る代わりに、特に優れた部分が無い職業なんじゃないだろうか。
その考えでいけば、攻撃力は俺が圧倒的に有利だということになる。でも、今までは様子見ということで、スキルをあまり使用しなかった為に、相手の変化に対応しきれず翻弄された。
ならば、武器を変更する隙すら与えず攻撃し続けるというのが、作戦の一つ目だ。
「”神風”!」
「ぐ、うううううううう!」
予想通り、俺の怒涛の責めにレオンは対応しきれず、とうとう攻撃がクリーンヒットした。そして、その痛みによって動きが止まった所に・・・
「いくわよ!エネルギー最大!吹き飛べー!」
今まで気配を消してチャンスを伺っていた麗奈の【蒼龍】によるビームの嵐がやってきた。
「く、そ!」
「おっと、させるかよ!」
慌てて防御しようとする彼に、再び斬り付ける。
「な・・!」
信じられない物を見るような目で俺を見てくるレオン。お前が何を考えてるかは分かるぜ。『死ぬ気か』だろ?
確かに、このままあのビームの雨を受ければ、俺の体力なんて吹き飛ぶだろう。でも、俺は例外だ!
「”神衣:緑神威”!」
直後、俺の体は実体を無くし、風の塊になった。
「うおおぉぉぉおおおおああああああああぁぁぁああああああ!」
そして、”神衣:緑神威”の効果により、ビームの雨を全て避けていく。目の前では、レオンの体には無数の光が当たり、空中で不気味なダンスを踊っている。
怖い、怖い!いくら緑神威で避けられるとはいえ、何百ものビームをギリギリで避け続けるのは精神的にクルものがあるぞ!
「こ、こええええええええええ!」
俺は、ビームを避け続けた。そして・・・約40秒後、エネルギー切れによってビームの嵐は終了した。
「はあ・・・はあ・・・・・・はあ・・・。」
そこに残ったのは、人間には到底不可能な速度と動きで嵐を逃げ切って疲労困憊の俺と、奇怪なオブジェと化したレオンだった物だけだった。
「・・・・・・・・・レオン、本当に死んでないよね・・・?」
感想待ってますよー^^