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初めてのPK

 さて、俺がこれからすることは・・・まず、逃げることだ!


 オッサンがゲームスタートの宣言をしたと同時、俺は【シュバルツ】の南出口へと全力で駆け出した。元々こうすることを前提にしていたので、【シュバルツ】の広場に集まった人間の輪の端っこに立っていたのだ。


 何故か?理由は簡単、他の人間が信じられないから。


 俺は、自分の職場の人間10人を一晩の内に虐殺したという罪で死刑宣告を受けた。冗談じゃない。俺がそんな事をするもんか。そもそも、そんな事は出来るはずがない。俺は、何の変哲もない唯の一般人だったのだ。俺はあの日、職場に付いたら、オフィスが真っ赤に染まっているのに気が付いた。更には・・・いや、思い出すのは止めよう。


 兎に角、犯人は俺じゃない。なのに、最初から俺を犯人だと決め付けているかのように裁判は進み、死刑が決定した。毎日のように俺のことをテレビが報道した。そんな中、恋人の<<桐条麗奈(きりじょうれいな)>>だけが俺のことを信じてくれたんだ。


 だが、俺と同じように冤罪の人間も中には居るかもしれないが、大体は根っからの犯罪者だ。その殆どが大量殺人などの罪に問われている。そして、このゲームはプレイヤータウン以外でならPKありなのだ。キャラの死が現実の死に直結しているこの状況で、他の人間に頼る気はない。


 クリアした時点で生存していた人間全員が釈放されるのだから、普通はPTなりギルドなどを作ったりして攻略するべきだろう。しかし、そういう理屈が通用しないのがイかれた犯罪者共なんだ。中には、殺人そのものが趣味という屑も存在する。


 だから、俺は誰にも頼らない。幸い俺は元々ゲーマーだったし、どういうふうにレベルを上げていけばいいのかは心得ている。サブ職業が二つまで選べるらしいので、料理人と鍛冶屋を取る。後はモンスターの侵入出来ない安全エリアに拠点を作成して、自給自足をすればいい。


 完璧だ。鍛冶屋は武器と防具両方作れるし、殆ど人間には会わなくてもやっていけるだろう。まあ、ライフポーションや霊力ポーションなど、自分で用意出来ない物は買いに来なければならないが。ということで、取り敢えず街に近い場所でレベル上げをしながらいい場所を探すことにする。





 はっきり言おう。俺は、犯罪者という人種を舐めていた。


「よう。そんなに急いで何処に行くんだ?銀狐。」


 そこには、筋肉モリモリのスキンヘッドが立っていた。まさか、まさかこんなに早いとは思って居なかった。PKに出る人間は、恐らくあと一週間は出現しないと思っていた。


 何故か?それは、PKというものの性質故に。そもそもPKは、相手が自分たちより弱い場合に仕掛けるものだ。レベルやPSプレイヤースキルが離れている、または、数で圧倒的に勝っている場合に仕掛けるものであって、断じてゲームが始まって10分もたっていない、お互いが初期装備の状態で、1対1でするものでは無い。


「PK・・・だよな?」


 一応、確認の為に聞いておく。ずっと殺気を出してるから、間違いということは無いと思うが、念のために。


「ああ。ここなら合法的に殺しができるんだろう?」


 返ってきた答えは予想通り。


「馬鹿か。お互い初期装備でPKだ?お前がやられるかもしれないんだぞ。」


「それならそれでいい。俺がしたいのは殺し合い。一方的な殺しなんてもう飽きたんだよ。それで死ぬなら構わん。」


 ・・・イかれてやがる。俺は、相手の顔に視点を合わせる。すると、相手の名前が確認出来た。

 

 このゲームでは、偽名での登録は出来ない。全員、キャラの名前がそのまま現実の名前なのだ。これは、そいつがどういう事件を起こした人間なのかを把握するのに非常に役立つ。このゲームにいるのは、世界の死刑囚の中でも、特に凶悪な犯罪を犯した犯罪者を選んでいるからな。


 相手の名前は、<<スティーブ・マクルーガー>>。この名前には覚えが無かったので、検索をしてみることにする。


「スティーブ・マクルーガー。」


 俺が検索ワードを口にすると、手元に仮想モニターが現れた。そこには、事件の簡単な概要が書き込まれている。


[スティーブ・マクルーガー:2XXX年XX月XX日に当時住んでいた街の高等学校にナイフを持って侵入。教師3人を刺殺。他教師17人に重症を負わせる。その後、学生に予備に所持していたナイフを持たせ、決闘と称して1対1の戦闘を開始。これを繰り返し男子生徒12人を刺殺。5人が重軽傷。後から駆けつけた警察官2人を刺殺し、拘束された。]


 とある。


「は、ははは・・・。」


 最悪だ。よりによってマジでイかれた異常者にこの段階で目を付けられるなんて。当の本人は、俺が情報を読んでいる間ニヤニヤしながら待っている。どうやら、自分の起こした事件が誇らしくて仕方がないらしい。くそ、こいつら、沢山殺してそれで満足かよ・・・!


「さあ、もういいだろう。始めよう。これ以上は野次馬が集まってくる。」


 くそ、俺は死ねない、死ねないんだ!


 右足を前に、左足を後ろに。右手に持った木刀を、地面に付くギリギリの高さまで落とす。そして、相手の目をジッと見つめる。


 敵の武器は木のナイフ。確か、【初心者の練習用ナイフ】だったか。ということは、職業は【暗殺者】か【盗賊】。敏捷が高く防御が低いタイプの職業のはず。


 武器の性質上、懐に入られたら終わりだろう。ステータスにも殆ど違いが無いのだから、後はどちらが間合いを制すか。


「いくぞ・・・。」


「来い。」


 敵が走り出した。早い。やはり、スピードではあちらのほうが上だ。


「はっ!」


 素早く接近してきた敵に、下段に構えていた木刀で斬り付ける。だが、それをナイフでパリィされる。俺は素早くバックステップを発動。視界の左上にある霊力ゲージが少し減少し、俺は一気に3メートルほど離れる。


「この距離なら・・・っ!」


 ナイフはギリギリ届かない。そして、俺の木刀は余裕で届く距離。これを維持する!


 だが、その瞬間敵が笑った。


「・・・っ!」

 

 ソクっと背中を寒気が走り、本能に任せてサイドステップを発動し、右に3メートル移動する。その瞬間先程まで俺の頭があった場所を、短刀が通り抜けていった。


「何・・・!?」


「チッ。良い勘してやがる。今のを避けるとはな。」


 危なかった。今のは金属の短刀だった。恐らく【鉄の短刀】。こいつ、ゲーム開始時に貰える初期所持金で、今のを購入していたんだろう。今のは、【暗殺者】のスキル【暗器投擲】。クリティカルポイントである顔に今のを当てられていたら、かなりの体力を持っていかれたに違いない。


 しかし、今のはチャンスだ。初期所持金は1000G。【鉄の短刀】は一本800Gだから、2本目は持っていないハズ。【暗器投擲】は、投擲したものを回収するまでは同じスキルを使うことが出来ないというデメリットを持っている。つまり、かなり遠くに飛んでいったアレを回収するまで敵はこのスキルを使えない。


 今しか攻めるチャンスはない。俺を殺しに来たやつに手加減するほど俺は甘くないぞ!


 木刀を突き出す。左に避けられた。そこに左足で蹴る。ちょうど腹に当たった。


「ぐあ!?」


 よし、ダメージが通った。今のでは体力の一割も削れていないが、この隙を逃しはしない!


 木刀を上段から振り下ろし、敵の脳天に直撃させる。片手直剣スキル【兜割り】。敵は更に数秒のスタン時間を得た。顔を左拳で殴り、地面に押し倒し、馬乗りになった。


「が・・・」


 敵の頭を動かないように押さえつけ、クリティカルポイントである喉に片手直剣スキル【斬首】を命中させた。このスキルは喉に命中させると1・5倍のダメージが入る技だ。敵の体力がガクンと減り、5割を切った。


「ぐがあああ!」


 今使える攻撃技を全て使い切ってしまった。クールタイムがあと10秒!俺は右手の木刀を一旦アイテムボックスに戻し、左右の拳で喉を殴り続ける。


「死ね!死ね!死ねよ!」


 俺は無我夢中で殴り続ける。


「が・・・が・・・あ・・・・・・。」


 そして、気がつくと、敵は死んでいた。


「あ・・・あ・・・・・・。」


 俺の手は、血まみれになっていた。敵の首は、見るも無残な形へと変貌し、そして、周りは血の海だった。


 ポーン、ポーン、ポーン、ポーン


 頭の中でシステム音が響く。ステータス画面を開くと、そこにはレベルアップと、いくつかの変更点が書かれていた。

 _________________________________________________________________________________


名前:月一銀狐(つきいちぎんこ)

レベル:5

職業:片手剣士

体力:31

霊力:10

筋力:22

防御力:17

敏捷:13

幸運度:6


SP:8


保有スキル

・刀系統スキル【片手直剣LV3】【兜割りLV2】【斬首LV2】

・格闘系統スキル【格闘術LV3】

・回避系統スキル【サイドステップLV2】【バックステップLV2】


称号一覧:PKK、PK

装備称号:無し

取得条件:PKK 全プレイヤーの中で一番最初にPKを退ける。

     PK プレイヤーを殺害する

称号効果:PKK 全てのステータスに5プラス。更に、レベルアップ毎にSPに5プラス

     PK  PKする度に全てのステータスに1プラス

___________________________________________________________________________________


 なんだ、これ?何だよこの巫山戯た称号は?PKする毎に強くなるだって?これじゃ、PKをしてくださいって言ってるようなもんじゃねえか。・・・いや、そう言ってるのか?俺たちを、煽ってるのか?


 それに、PKした時のレベルの上がり方が異常だ。普通は1レベルのモンスターを1体倒しただけで4もレベルアップしたりしない。これは、PKの経験値が特別多く設定されてるんだ・・・。


 これは、予想以上にヤバイ。兎に角、ここから逃げないと・・・。


 俺は、仮想現実なのに死体が残り続けている敵から、有り金とアイテム、それと先程投げてきた【鉄の短刀】を回収し、その場を後にした。


___________________________________________________________________________________


名前:月一銀狐(つきいちぎんこ)

レベル:5

職業:片手剣士

体力:36

霊力:15

筋力:35

防御力:23

敏捷:18

幸運度:11


SP:0


保有スキル

・刀系統スキル【片手直剣LV3】】【兜割りLV2】【斬首LV2】

・格闘系統スキル【格闘術LV3】

・回避系統スキル【サイドステップLV2】【バックステップLV2】


称号一覧:PKK、PK

装備称号:PKK

取得条件:PKK 全プレイヤーの中で一番最初にPKを退ける。

     PK プレイヤーを殺害する

称号効果:PKK 全てのステータスに5プラス。更に、レベルアップ毎にSPに5プラス

     PK  PKする度に全てのステータスに1プラス


この銀狐は、ゲームを始める前に説明書やサポート、ヘルプなどを全部読む人間です。先にある程度の情報を得ているので、敵のスキルや鉄の短刀の値段などをわかっていました。

ちゃんと、このゲームには掲示板もなども完備されています。

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