【フレアスケルトン】の驚異
「は、ははは、はははははははははははははははははははは!」
ノロノロと歩いてくるゾンビを切り裂いていく。【ブラックゾンビ】、【クリムゾンゾンビ】、【グリーンゾンビ】、その他、多様なゾンビやモンスターがいるが、そんなの関係ねえ!
「はははははは!雑魚は引っ込んでろ!」
俺が刀を一振りするだけで、何躰ものゾンビが死んでいく。いや、ゾンビだから、既に死んでいると云えるかもしれないが、そういうことじゃなく、体力ゲージを0にして消えていく。
「これだよ、これ!俺が求めていたのは、この爽快感だよ!」
俺がこのゲームに入ってから手に入れたSPは、183になる。このゲームでは、通常は、一レベル上がるごとに2ポイントのSPしか手に入らないのに、【PKK】の効果によって、一度に7ポイントも加算されるためだ。
183SPという数字は、レベルに換算すると、91.5という数字になる。つまり、俺は、91レベル分のSPを、殆ど全て、筋力と敏捷に振っているということになる。更に、今の俺は日光に当たっていないので、【月夜の支配者】のステータスマイナス補正も無い状態だ。
正直言って、凄く気持ちいい。俺が走って、腕を振るだけで、ゾンビの体がバラバラになるのだ。更に、ここは館の廊下なので、先程の庭の時のように囲まれる心配も無い。万が一挟み撃ちにあったとしても、速攻で片方を潰せばいい話だからだ。
「うわ、これは正直、予想していませんでしたね・・・。まさか、入って30分程度でボス部屋まで辿り着くなんて・・・。」
「ふふふふふふふ・・・。やっぱり、一撃必殺って気持ちいいよね・・・・・・。」
「・・・うわ、壊れてる・・・・・・?」
後ろで結衣が若干引いているが、今の俺は、そんな些細なことどうでもいい。ああ、そういえば、昔やっていたゲームでも、『戦闘狂』とか、不本意な渾名を付けられたりしてたな・・・・・・。
「じゃあ、そろそろ行くか。」
「あ、一寸待って下さい。」
気持ちを落ち着けてボス部屋に入ろうとする俺を、結衣が引き止めた。
「何だ?」
「申し訳ないんですけど、ここのボスは手伝えません。」
「え、そうなのか?」
そう聞くと、結衣は溜息を付いて、呆れたように説明を始めた。
「やっぱり考えてなかったんですね?・・・いいですか、ここに来たのは、転職クエストのためでしょ?それなのに、私がボスまで手伝ったら、始まった瞬間終わっちゃうじゃないですか。」
「あ、そうか。」
そりゃそうだ。【アンデッド系】モンスターは、全てスキル【暗黒】を持っていると先程聞いた。つまり、【神崎神刀流】スキルを全て習得している結衣が戦えば、正に一瞬で決着がつくだろう。それじゃあ、クエストの意味が無い。転職クエストっていうのは、その職業に就く為に必要な技能や資格を持っているかを試す為のものなんだから。
「成程・・・。分かった、一人で行ってくるよ。」
「気を付けて下さいね。強敵ですけど、貴方なら倒せると信じています。」
「ああ。」
俺は頷くと、俺の身長の3倍はあるだろう重厚な扉を押し開けた。中に入ると、扉は自動的に閉まった。部屋の中は、大きな図書室だった。・・・いや、図書館?部屋の広さは、2、30mはあるだろうか。部屋の高さも、同じくらいある。壁の全てが本棚で埋まった、円形の空間だった。
「さあ、始めようか。初めてのボス戦を!出てこいよ【フレアスケルトン】!」
自分を鼓舞する為に、大きな声でボスを呼ぶ。
「ほう・・・。我を呼びつけるか・・・、小さき者よ。」
まさか、返事があるとは思っていなかった。このボスは知性があるのか・・・。さて、どんなヤツ、だ・・・・・・。
ドン・・・ドン・・・ドン・・・・・・。
「お、おいおい、デカすぎだろう・・・。」
恐らく、身長は15m位の、煌々と燃える巨大なスケルトンが現れた。頭蓋骨の大きさだけで、俺の身長よりあるかもしれない。
「ふむ・・・貴様が小さいだけだと思うがのう・・・。まあよい、無駄な話は嫌いじゃ。来るが良い小さき者よ。」
そう言うと【フレアスケルトン】は、両手に、これまた巨大な斧を出現させた。鈍い光を放つそれは、絶大な攻撃力を持っていることを容易に想像させる。多分、一撃喰らえば、致命傷を受けるだろう。
「だが・・・ビビってもいられないよなぁ!」
【霞桜】を構え、腰を落とす。”見切り”を発動すると、全てがスローになった。念の為に、”霞楼”を発動させておく。これで、一度攻撃を無効に出来る筈だ。
「・・・・・・じゃあ、イくぞ!」
俺は、音を置き去りにして走る。既に、俺の敏捷値は、そこまでの域に達していた。
「・・・!」
【フレアスケルトン】が驚愕しているのが分かる。ってか、やっぱりAIの感情表現が・・・止めよう、今はそんなこと考えてる暇は無い。
「フン!」
一瞬にして足元にまで迫った俺に、右手の斧を叩きつけて来る。だが、”見切り”でその攻撃がくるのは分かっていた。
斧が俺に当たると思われた瞬間、俺は更に加速した。斧は俺が通り過ぎた場所に叩きつけられ、地面が大きく抉れた。
「シッ・・・!」
俺は、スピードを殺さずに右の脛の辺りを斬り付けた。俺の筋力値と、敏捷値によって増幅された攻撃は、【フレアスケルトン】の太い骨を切り裂いた。
「ヌオオオ!」
右足を切り落とされてバランスを崩した【フレアスケルトン】は、前のめりに倒れた。
「うおっと!」
俺は踏み潰されないように気を付けながら、後ろに回り込む。
「ああああああ!」
先ずは機動力を完全に削ごうと、残った足も切り裂いた。敵の体力ゲージは、既に3割程も減っている。
(いける!)
「フハハハハ!楽しいな、小さき者よ!」
そう言うと、【フレアスケルトン】の雰囲気が変わった。
「我も、本気を見せよう!」
「やべ!」
見ると、【フレアスケルトン】の体の炎が先程より激しく燃え上がり、切り落としたハズの両足が再生していく!
「再生能力持ちかよ!」
「フハハ、安心せい!体力までは回復せんよ!」
確かに、体力は先程と同じだ。
「そうかい!なら安心だな!」
立ち上がった【フレアスケルトン】は、こちらを向くと、両方の斧を振りかぶる。嫌な予感を感じ、俺は全速力で右に走る。
「”ボルカニック・ザンバー”!」
ズドン!と大きな音が後方で鳴り、俺が発動していた”霞楼”が剥がれた。
(嘘だろ、衝撃だけでこれかよ!)
俺はもう一度”霞楼”を貼り直した。先程のレベルアップで霊力のステータスにかなり振ったので、既に俺の霊力ゲージは800になっている。まだ余裕はある。
後ろを振り向くと、寸前まで俺が居た場所は、二本の太い線が扉まで走っている。扉の部分はシステム的に保護されているようで、そこで斬撃は止まっている。
(あんなのマトモに食らったら、マジで一撃で死んじまう!)
「おい!余所見をしていていいのか!?”ボルカニック・ザンバー”!」
その声に我に返った俺は、急いでその場を離れた。その場所も、抉れた。
「くそ!」
今度はその勢いのまま、【フレアスケルトン】の元に走る!敵が振り下ろした斧を避け、足を斬り付ける。
速度は俺の方が上だ。落ち着いて戦えば、攻撃を食らうことはない。地道に、時間を懸けて体力を減らしていくんだ。
それから5分後、俺はようやく敵の体力を残り一割程にすることが出来た。
「ハハハ!楽しいのう!」
敵は、もう直ぐ自分が死ぬかもしれないというのに、呑気に笑っている。
「”神風”!」
だが、俺にはそんなことを気にしている余裕なんて無い。残りの一割が硬すぎるのだ。俺の攻撃力をもってしても、まだ削りきることが出来ない。
「だけど・・・後2撃!」
斧を避け、足を切りつける。そして、最後の一撃を・・・・・・。
「フ・・・まだまだ青いのう・・・・・・。」
「え・・・・・・?」
切りつけた瞬間、敵の体の炎が激しく燃え上がる!
「クク・・・一緒に逝くか!」
その言葉を聞いた瞬間、俺を絶望が満たした。
「まさか、自爆・・・!?」
「ははははははは!」
「糞がー!」
俺は全速力で扉まで走る!だが・・・
「間に合わんよ・・・。」
ドガッ・・・・・・!と、すごい音がして、後ろから熱風が迫ってきて、俺の体力が凄い勢いで減っていって・・・・・・、そして、俺はまだ、扉からは離れていた・・・。
「間に合えーーーー!」
最後まで俺は諦めない!
だが、無情にも、業火が俺を包み込み・・・
「銀狐ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
愛しい女の声が・・・聞こえた気が、した・・・・・・・・・。