両極端だな、オイ!
結衣に腹部を切り裂かれた。
「・・・・・・・・・何、で・・・・・・?」
俺は、腹を抑えながら結衣に訊ねる。何故切ったのか・・・ではなく、何故俺は死んでいないのかを。
何百ものゾンビを一撃で葬り去る攻撃を受けて、何故俺は死んでいない?いや、それどころか、体力ゲージが一ドットも減っていない。
俺と結衣はPTを組んでいるが、このゲームでは、PT仲間の攻撃でも食らうとダメージが通ると初心者ヘルプには書いてあった。現実と同じだ。仲間のミスが原因で、死んでしまうことすらもありえる。
なのに、何故俺の体力は減っていないんだ?切られた腹部を何度も摩るが、痛みも、切り傷すら存在しない。
「・・・・・・説明してもらおうか。」
何かあれば直ぐに対応出来るように、【霞桜】を構えてジリジリと離れながら質問する。
「・・・ぷっ・・・ふふふ・・・・・・あははははははは!」
その瞬間、結衣はこれ以上ないほどに爆笑し始めた。腹を抱えて笑い転げる姿は、まるで子供のようだ。
っていうか、それを見て頭が冷えたのか、俺にも原因が分かってきた。
「・・・はあ。悪巫山戯も大概にしてもらおうか。冗談じゃなく寿命が縮んだぞ。」
【霞桜】を鞘に収め、結衣に近づく。結衣が俺に害を与えようとしたわけじゃないのが分かったからだ。
「ふふふ・・・御免なさい♪」
駄目だこれ、全然反省してないわ。・・・っていうか、これ本当にゲームのAIか?完全に人間と話しているようにしか思えない。もしかして、【ブライト・アームズ】の実験って、新型人工知能とかの実験なんだろうか?
「これからは気を付けます、もうしませんよ。銀狐さんに嫌われるのは避けたいですし。」
「既にさっきので信用は下がりまくってるんだけどな。」
「う~・・・。御免なさい。」
一転して、シュンと落ち込んでしまった。・・・クソッ、それは卑怯じゃないか?何だか、俺が意地悪してるみたいな感じの空気なんだが?
「あー・・・、もういいよ。兎に角、もうするなよ?」
「はい・・・。」
こ、この空気をどうにかする方法はないか?取り敢えず、先程の戦闘について、質問してみることにした。
「あー・・・、あの光の剣は、アンデッド系モンスターにのみダメージを与えるスキルなのか?」
そう聞くと、まだ結衣は落ち込みながらも、質問に答えてくれる。・・・自業自得のはずなのに、マジで俺の方が悪く思えてきた。美人って狡くね?
「正確には、スキル【暗黒】を持つ生物を問答無用で消滅させるスキルです。太陽の光を取り入れられる場合じゃないと使用出来ないという制限がありますが、ボスだろうと魔王だろうと、スキル【暗黒】をもつ生物は触れた瞬間蒸発します。」
「・・・・・・・・・ち、チート技じゃねえか!?」
「だから言ったじゃないですか。【神崎神刀流】は、文字通り神様の為の剣術なんです。神の敵を屠る為に存在しているんですから、闇の眷属に負ける訳にはいかないでしょ!?」
「そ、そりゃそうかもしれんが・・・。」
「例えば、スキル【天空の使者】は、スキル【暗黒】を持つ敵との戦闘時、霊力が自動回復するっていうものですし、スキル【闇の天敵】は、【暗黒】を持つ敵との戦闘時、全ステータスを2倍にするっていうものです。このように、【暗黒】を持つ生物に対して、私達はチートなんです!」
「マジかよ・・・・・・。」
「その代わり、スキル【聖天】を持つ生物との戦闘時、全ての行動に、著しい制限が懸けられますが。具体的に言うと、その場から一歩も動けなくなったり、体力が凄い勢いで減ったり。」
「極端だな!?」
「うう・・・しょうがないじゃないですか~・・・。私に怒鳴られても・・・・・・。」
「い、いやすまん。驚いただけだ。怒ってない。」
俺が驚いて怒鳴ったのを、怒られたと勘違いしたらしく、うるっとその瞳に涙を浮かばせたので、弁解しておく。ってか、マジで感情表現が人間のソレと変わらない。凄いな。
ってか、これまでの話から考察すると、こうなるわけだ。
「”霞楼”を発動し続けられたのは、スキル【天空の使者】の効果で霊力が自動回復し続けたからか?」
「はい。」
「具体的には、どの位回復するんだ?」
「えっと、一秒間に1000ですから・・・ざっと、”霞楼”10回分位ですね。」
「・・・・・・」
一秒間に1000、だと・・・?ちなみに、俺の霊力ゲージは最大で500しかない。これだけ書けば、それがどれだけの回復量か分かって貰えるだろう。何度も言うが、”霞楼”は”どんな攻撃でも、一度だけ無効化する”という馬鹿げた性能のスキルだ。それが、一秒間に10回使える程に回復するなんて、ハッキリ言って、コレだけで既にチートだろ。
「あの・・・銀狐さん・・・・・・?」
オズオズと結衣が声をかけてきて我に返った。だけど、一寸疑問が残るな。
「あの、”灰燼列滅”とかってスキルと【天空の使者】があれば、【闇の天敵】なんてスキル必要無いと思うんだけど?触れただけで消滅させるんだろ?」
「だって、太陽が見える場所じゃ無いと使用出来ないんですよ?夜とか、ダンジョンの中とかでは使えないんです。【暗黒】を持ってる生物が日光の下に居るなんて、普通は有り得ないんですよ?寧ろ、”灰燼列滅”は、使える機会が少ないです。」
「成程・・・・・・。」
一寸考えれば分かる事だったな。【アンデッド】や【ゴースト】は、日光の下に居る事なんて殆どない。このゲームではどうだか知らないが、前にやっていたゲームではそうだった。
まあ、【ブラックゾンビ】はこの庭に居たんだし、他にも日光の下に居る【暗黒】モンスターは居るかもしれないな。
「私、言葉で説明するよりも実際に見てもらったほうが早いと思って・・・。でも、久しぶりに”灰燼列滅”なんて使ったから、テンション上がっちゃったんです。本当に、御免なさい。」
結衣はそう言って、深々と頭を下げてきた。
「分かった。そういうことなら、さっきのは水に流そう。もう怒ってないから・・・な?ただ、これからは、そういうのは事前に言って欲しい。」
「あ・・・は、はい!分かりました!」
うん、やっぱり女の子は、笑ってるのが一番だ。麗奈も、笑ってる時が一番可愛かったし。
「じゃあ、中に入るか?」
「ええと、その前に確認したことが。」
「ん?何だ?」
「銀狐さん、レベル、上がってないですか?」
中途半端かもしれないけど、ここで一旦切り。一話が長すぎるのも、個人的に読みにくい気がするので。
【神崎神刀流】は、【暗黒】持ちに対してチートです。しかし、【聖天】持ちに対しては、何も出来ずに負けます。
正に、両極端ですね。