闇の帝王に、俺はなる!
「体が・・・怠い。何だこの虚脱感は・・・・・・。」
翌朝、【シュバルツ】にたどり着いた俺は、なんとも言えない感覚に、頭を悩ませていた。体から力が抜けているのがわかる。っていうか、俺の体からシューシュー音を出しながら煙が出てて、目立つことこの上ない。
体力が減ってるんじゃないかって心配になって何度も確認したが、そんなことは無いらしい。どうやら、レアスキル【月夜の支配者】のマイナス効果、『日光の光を浴びるとステータスダウン』のエフェクトみたいだ。なんて紛らわしいんだ。
そうして、怠い体に鞭打って、やっと【神崎道場】にたどり着いた。門を開けて中に入ると、結衣が驚いた顔をして走ってきた。
「ちょ、一寸、どうしたんですか!?体から煙が出てますよ!?」
「・・・ああ、これについて、聞きたいことがあって来んだ。【月夜の支配者】ってスキルなんだけど、何か知らないか?」
「え、ええええええええええ!?」
結衣は無茶苦茶驚いて、口に手を充てている。何だ、そんなにヤバイのかこれ?
「銀狐さん、【月夜の支配者】は、【月の加護】を持ったモンスターを倒さないと発現しないんですよ!?」
「ああ。それはスキル詳細で見たから知ってる。」
「・・・じゃあ、【月の加護】は一部の特殊モンスターしか持っていなくて、更に、その中から【月の加護】持ちのモンスターと出会える確率は、百万分の一と言われているのは?」
「・・・・・・は?」
ひゃ、百万分の一?どんな確立だよそれ?つまり、確立的に云えば、三万人、いや、既に二万人しかプレイヤーがいないこの世界で、俺以外がこのスキルを手に入れるのは不可能ってこと?
・・・でも、なあ・・・・・・。
「こんなスキル手に入れてもしょうがなくね・・・・・・?」
「何言ってるんですか!とっても強いスキルなんですよ!?」
「だって、多分、夜の方がモンスター強いんだろ?昨日なんか、レベル5の<<ムーンラビット>>が、レベル20で出てきたんだぜ?いくら俺のステータスが強化されても、相手がそれ以上に強くなるんじゃ本末転倒だろ?おまけに、昼間は弱体化するしさ。」
「何言ってるんですか・・・。」
うわ、結衣が残念な人を見る目でこっちを見てる!地味に心に響くんだが・・・。
・・・・・・ん?何か、結衣に違和感が・・・いや、今日起きてからずっとか?・・・くそ、何に違和感を感じているのか、自分でもわからん。
突然考え込み始めた俺を無視して、結衣は説明しだした。
「いいですか?まず、夜で全てのモンスターが強化されるわけではありません。彼らだって生きていますから、寝ていたりしますし。それに、モンスターのドロップは、夜の方が圧倒的にいいんです。レア度5以上のものしか出しません。」
「マジか!?」
それは初耳だった。このゲームのアイテムは、レア度1~10まである。当然、1よりも10の方がレアだ。そして、モンスターのドロップも、1~10まで、モンスター毎に決められている。それを、5より上の物しか出さなくなるって事か。
「でも、やっぱり、夜の方が強いモンスターはいっぱいいますけど、銀狐さんは他の人とは違って、夜にモンスターを狩りやすくなっているんですよ?」
確かに、どうしても夜のモンスターを狩らなければいけないクエストとかがあったら、俺は他人よりアドバンテージを得ているということになる。
「でも、日光に当たると弱体化はなぁ・・・。」
「それはどうしようもないです。でも、文献で読んだんですけど、そのスキルはレベルを上げると、プラス効果は上昇しますが、マイナス効果は変動しないそうです。つまり、レベルを上げれば上げるほど、夜に強くなって、昼は今と変わらないってことです。」
「へえ・・・。」
「更に、いくつかの条件を満たすと上位スキルに変化するとも書いてありました。条件はわかっていないらしいですが。」
「・・・成程。・・・・・・。」
そこまで聞いて、俺は五分ほど悩んだ。そして、出した答えが・・・・・・。
「よし、決めた!」
「何をですか?」
「ふふふ・・・それはな・・・。」
「・・・ゴクリ。」
「・・・闇の帝王に、俺はなる!」
この世界の闇を、支配する!このアドバンテージを使って!
「・・・はあぁ・・・・・・。」
え、何この空気?
最後盛大に滑った気が・・・だが、反省しない!
銀狐は、このスキルを育てて闇の帝王になる事を決意しました。まあ、夜にしか出さないアイテムを売りさばいて、ゲームのプレイヤーに、『こいつはいなくてはならないやつだ』と認識させることが目的なのですが。
そうすれば、PKしようとする人間も少なくなると考えたからです。まあ、皆、刑務所から出たいのは一緒なので。