第5章 エル社
「ただいま接近中です」
AIのヨウビの声が、船の中に響く。
ヨウビは、女性の人格をもったAIで、通常は情報分析用として、交戦時には防御専門のAIとして機能することになっている。
「向こうのAIとリンク。接舷するよ。総員対ショック姿勢」
ヒャカリトが全員に告げた。
「接舷まで、50…40……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」
わずかに船が揺れた程度で、つながったという感覚はなかった。
「向こうのAIとは?」
「連絡開始、接続終了。現状を報告します。相手側の船は、会社名:エル社、船籍コード:Y11-32GMM1.4.1.6、乗組員51名、貨物船です」
「生き残った者は」
「全員です。ただし、我々が来たことは相手側は知らない模様。武器の類は観測できず。ハッチはどうしますか」
この船のハッチはただ一つ、最初に乗り込んだところだ。
あそこから、相手の宇宙船へも乗り込むことは可能だし、階段状のスロープを出して、惑星へ下りることもできる。
「開放する前に、向こう側の責任者と話をしたい。呼び出してくれないか」
「分かりました」
数秒の間をあけて、女性が出てきた。
「こちらは、フルカイツ同盟防衛長兼船長補佐のヒャカリト・アールハンです。そちらの名前を教えてくれませんか」
「エル・カルータ社常務、上級副社長、一級ライセンスのアイランス・ロミクです」
「エル社というのは?」
「貨物、旅客を地球から火星へ運んでいる運送業の企業です」
「地球?」
その上ずった疑問形の声を、ロミクはしっかりと聞きとったらしい。
「もしかして、ご存じない?」
「申し訳ありませんが。エル社という社名も、火星という名前も」
「…ここは、どこですか」
「惑星サルカイックより約15億km離れた地点です」
「詳しいお話をさせていただきたいので、当局へ連絡をしていただけませんか」
「それはできないんです」
それから、ヒャカリトは、今の状況を子細に教えた。
「…そんなことに」
「ええ。それで、そちらに行ってもよろしいでしょうか」
「分かりました。どうぞ来てください」
ロミクが許可を出したので、ハッチを開けて、船内へ入った。