第10章 契約
店員は1時間ほどして帰ってきた。
その間、店には誰一人としてくることはなかった。
「店長、こいつはすごいですよ」
あの塊のままに、店員がやってきて、超超タングステン鋼を巳六へ渡し、彼は勘があたったと満足げにうなづいていた。
「金属革命がおきますぜ。まさに神が遣わした金属だ。強さも軟らかさも、武器としても使えるし装甲としても申し分ねえ」
「見たては間違えてなかったな」
巳六は、金属を撫で回しながら、ローリールに言った。
「分かった。おまえの言い値で買ってやろう。ただし条件がある」
「なんでしょうか」
喜んでいたロミクが、急におとなしくなった。
「この金属、超超ジュラルミン鋼の作り方を教えるんだ。それと、俺が独占的に販売する権利も」
「ええ、それぐらいなら」
ロミクが、ホッとして言った。
「交渉成立だな」
巳六がロミクと握手を交わし、それからローリールと握手を交わす。
ローリールと店員が立会人となり、巳六とロミクの間で文書契約も済ませると、唐突に巳六が聞いた。
「そういや知ってるかい。この金属は、大総統を狙撃した銃弾に、極めて似てるってな」
ロミクは、書類をしまっていた手を止めた。
「……嫌な予感がしてきましたね。もしかしたら奴らもこっちへ」
「奴らって誰だ」
一瞬で巳六は、目つきを鋭くし、殺気を放ちながらロミクに聞いた。
ロミクはこちらにくる時の様子を説明した。
「するとアレか。その宙賊っていうやつらが、ロミクがくると同時に、こっちの世界へきたっていうんだな」
ロミクは黙ってうなづく。
「…ロミクと出会う前だったら信じられなかったんだがな」
「じゃあ、今は信じると」
ローリールが、巳六に言った。
「仕方ねえ。なにせこうやって、俺が見たこともない金属を持ってきたんだからな。信じるしかないさ」
「それで、どうするつもりなんですか」
ロミクが、ドキドキしながら二人の顔を見ながら聞く。
「俺と手を組まないか。そうしたらこの辺りの地理にも少しは明るくなれるだろうし、何より儲かる」
「船員たちと相談してからでもいいですか?」
「ああ、待っててやるよ。ローリールはどうだい」
「フルカイツ同盟に属してるので、同盟長と相談して決めますよ。巳六と手を組むかどうかを」
そう言って、二人は船へいったん戻ってから、相談して帰ってくることになった。