私は幽霊じゃありません!!
「死ねぇい!怨霊!」
私、薄桐佑美は今、目の前の男にお札を張り付けられている。
……いや、私も悪いんだけど。
しかしまぁ、この男は乙女の顔にぐりぐりと札を押し付けてくる。
どうしてこうなったのか。
それは、およそ10分前に遡る。
——10分前。
私は深夜の町を徘徊、いや、散歩していた。
きっかけと言うのはさっき届いたメール。
『別れよう、やっぱり幽霊みたいな女とは付き合えない』
私は突然の彼からのメールに慌てて返信する。
『え、なんで!?』
『返事してよ!』
『ねえってば!!』
何度もメールを送ってみたが、既読すらつかない。
電話をかけても、一切の音沙汰なし。
……どうやらブロックされたのだと気づいたのはすぐだ。
「どうして……?」
おかしなことなど何一つとしてしていない、はずだ。
いや、もしかしたらしていたのかもしれないが。
小中高と『幽霊みたいな子』といわれ、あまり人とかかわることのなかった学生時代。
大学一年生の春、クラスメイト達から離れ、遠い地で一人暮らしを始めた私にとって、彼は初めてできた大切な人だった。
初めての恋人として、至らなかった点は多かったと思う。
でも、それでも……。
そして私は、外へ行く準備をしていた。
小さい頃から私は、何かつらいことが有った時、気分を紛らわすために散歩をすることにしているのだ。
学校に居場所のなかった私は、学校を抜け出し、どこかを歩いている時だけ、自由でいられた。
今は深夜の0時。
でも気にはしない。
誰も彼も心配しないのだから、問題ない。
私はアパートを飛び出す。
外は真っ暗であり、吐く息は白く染まる。
でも、私は気にせず歩みを進める。
電灯に照らされている道を歩みながら、
暗闇に染まった脇道を見ると、そこは昼間のそれとは、全く違った表情をしている。
夜の道には、何者をも引きずり込んでしまいそうな暗闇があちらこちらに広がっている。
そこから化け物が飛び出して、私に襲い掛かるのかもしれない。
私は、いっそ、化け物にでも襲われて、生涯を終えるのが楽なんじゃないか、という思考にもなってしまう。
そうなれば、きっとつまらない私の人生のトップページを飾ってくれるに違いない。
まぁ、そんな事はありえないのだけれど。
私は色々な事を夢想しながら歩みを進める。
暗闇に引きずり込まれた先は、異世界で、私はチート能力を得て、たくさんの人たちから賞賛の声を受ける。
もしくは、暗闇から出てきた化け物を、私の隠された力で瞬殺して、現代で無双できるのだ。
自分の頭の中は自由だ。
どんなことだって思いのまま。
私は、想像をかきたてる夜の道を進む。
静かな町は、私の足音だけを響かせる。
こつん、こつん、こつん。
こつん、こつん、こつん。
「……あれ?私以外の足音がする?」
私は、気になって足音のする方に足を運ぶ。
そこには、丁度背を向けて歩く同い年くらいの男性がいた。
耳にはイヤホンを付けており、後ろの私に気づいているかどうか怪しい。
こんな時間に歩く人がいるなんて、珍しい。
この時、私は正直、気が参っていたのだと後から思う。
目の前にいるのは、全く持って見知らぬ男性なのに、ついいたずらをしてみたくなったのだ。
……どうせなら、幽霊みたいに脅かしてやろう。
初めての夜の散歩、気分が高調していた私は柄にもない事をしてしまっていた。
私は、丁度手元にあったマスクを着ける。
そして、男性の肩をトントンと叩く。
男性は、私の方を見ると、イヤホンを外した。
私は、そっと男性に尋ねる。
「ねぇ、私、きれい?」
男性は、ぎょっとして、身構える。
「私、きれいでしょ?じゃあ、こうやったら——」
「悪霊退散!!」
私が口裂け女のようにマスクを取ろうとした瞬間、男性は札を私の顔にぐりぐり押し込んできた。
——そして冒頭に至る。
「え、いや、あのちょっと……」
「悪霊よ、さっさと成仏してくれ!!」
「いや、私……」
「お願いだから、さっさと消えて!」
「わ……」
「なんで!?これ、一番いい奴なのに!」
「いい加減に——!」
その時、男性の肩が再び叩かれた。
男性は反射的に振り返り、「もう!ちょっと今忙しいんだけど——!」と言葉を続けようとした。
しかし、彼はすぐに口を閉じた。
私も、無言になってしまった。
そこには、真っ黒な髪を腰まで伸ばした女性が、マスクをして立っていたからだ。
女性は、どこか引き付けられるような声で私たちに聞いてくる。
「ねぇ、私、きれい?」
男性は、私と女性を交互に見て、「どっちだ……?」
なんて言っている。
……いや、100%怪しいのはそっちじゃん!
いや、怪しいのは私も一緒か……。
女性はしびれを切らしたのか、言葉を続ける。
「じゃあ、これなら……」
そう言ってマスクをとる女性。
「綺麗かぁ!?」
女性の口は、きれいに裂けていた。
「おわっ!?こっちが本物!?」
男性は慌ててお札を女性にはろうとする。
しかし、女性はそのお札を寸前でかわし、私の方に向かってくる。
——え、いや、ちょっと、マジで!?
「いやっ!?来ないで!?」
「危ない!」
男性が何とか止めようとするが間に合わない。
私は思わず身構える。
しかし。
「ぎゃっ」
女性は私に近づくと同時に消し飛んだ。
「えっ」
「えっ」
……なにが起こった?
私は今起こった出来事を全く処理できていない。
男性も唖然としていたが、ようやく脳が再び動き出したようで、「ケガはありませんか?」
と聞いてきた。
「え、えぇ」
私はとりあえず返事をした。すると男性は冷静になったのか考え込み始めた。
そして始まる無言の時間。
「え、えっと、帰りますね?」
私は考え込んでる男性を置いて帰ろうとした。
「待ってください」
私が離れようとした瞬間、男性に呼び止められた。
……あともうちょいだったのに!
男性は、さっと私の手を取ると、膝をついた。
「私と結婚してくれませんか?」
「……はい?」
——それからこの男性——名は阿部満と名乗るらしいが——は私に色々と力説してきた。
私はめちゃくちゃ『何か』が多いのだとか。
その『何か』は今さっきの、幽霊みたいなのを倒す力だとか。
私のはすごく多くて、幽霊みたいなのに近づくと幽霊みたいなのが瞬時に消えるぐらい多いらしい。
「だから、私と結婚してください!」
「だから、なんで?」
「じゃないと、凄い佑美さんは協力してくれないでしょ?」
「え?」
「夫婦なら、協力してくれるでしょ?」
どうやら、この男は、私に幽霊みたいなのの除霊を行わせるために結婚をしたいらしい。
男は、じっと私を見つめている。
……この男、目がガンギマリだ。マジの目をしている。
「そんなことしなくても……」
「いえ、そんな訳ない!だって、母さんは!」
そこまで言って満は口を紡ぐ。
「別に、手伝うぐらいならいいけど?」
——別に、手伝う分には何の問題も無いのだ。
だって、今何もすることないし。
「それに、私だって、結婚するならきちんと相手を選びたいし。
はい!分かったら連絡先だけ教えて!私は帰る!」
「そんな!」
私は強引に満と私のメアドを交換すると、その場を後にする。
「ちょっと待って!」
そう呼び止める満を無視して私は行く。
ここから、「結婚して!」と迫る満と私の深夜の幽霊を巡る騒動が幕を開けるのだ。
私が満に絆されるのか。
満が私を諦めるのか。
それを知るのは神だけかもしれない……。
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