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王宮練茶のエトーリア  作者: 若葉スイ


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19/21

18話

侍女・アナ


「やっぱり誰かに喜んでもらうのって嬉しいですね」


湯浴みを終えたエトーリア様の髪をブラシで梳かしていると、彼女はそう言ってはにかんだ。

私がエトーリア様の侍女として仕えて、一週間と半分が経つ。


「私もエトーリア様のそんなお顔が見られて嬉しいです」


私の心からの言葉に、彼女の表情はふわりと笑顔になる。

あぁ、やっぱり専属侍女に立候補してよかった。毎日そう実感できる主人はなかなかいないだろう。


聞いた話によると、フィロー様のところで力の使い方を教わりながら、エトーリア様の練茶がどんな効果をもたらすのかを実験しているのだという。


最近はフィロー様の指示で騎士団に協力してもらい、訓練中に怪我をした人用や、疲れをとるお茶を飲んでもらっているのだそうだ。お茶を飲んだ騎士団員たちの反応がそれはもう絶賛らしく、王宮にやってきてから浮かない顔をするも多かったエトーリア様は、ここ数日うんと笑顔が増えた。


彼女が笑顔でいてくれることは侍女である私にとっても嬉しいことで、なによりルーク様の機嫌がいい。

湯浴みと報告の時間以外はほぼ一日中エトーリア様に付きっきりのルーク様は、元々かなり侍女たちの間でも人気の高い騎士団員だった。


寡黙で常に冷静沈着、すれ違うといい香りがする、騎士団No.3の実力者にも関わらず涼しげで細身、何より顔がいい。

あのまっすぐな眼差しに見つめられたい、というファンも多かった。


過去形なのは、エトーリア様の専属護衛になってからの彼があまりにも分かり易すぎるからだ。


とにかく、笑顔が段違いに増えた。私は騎士団で言うとオリバー様派なので、これまであまりルーク様のことはよく見ていなかったけれど、ファンの間では「あの笑顔はなに!?」と数日間話題になっていた。


たしかに、エトーリア様の専属侍女になって気にしてみれば、彼女に対してはよく微笑んでいる。それもまるで大切で愛おしくてたまらない相手を見るような甘く優しい表情で。おお、そういうことね、と気づいてから、他の侍女伝いにルーク様が元々エトーリア様の店に通っていたことも知った。


エトーリア様は他の侍女達にもと練茶した茶葉を分けてくださることもあり、そのお人柄からルーク様とお付き合いしてくださらないかと望んでいる者も多い。



あの大人気のルーク様が一途な片思い……!という街で流行っている恋愛小説のような展開を特等席で見られることを、私は実のところ少々楽しんでいる。








一方で、もう一人王宮に仕える女性たちの間で、近頃話題に事欠かないのが、第二王子であるアシュベル殿下だ。


エトーリア様の練茶によって彼が目覚めてからというもの、その変化は著しかった。


まず、変化を口にし出したのはアシュベル殿下の侍女だった。

食事を運んだらお礼を言われた、というのだ。


悲しいことに、アシュベル殿下は人嫌いで、ライアス殿下・ヴィクター様以外とは必要最低限の会話しか交わさない。


侍女に対しても基本的に無反応・無接触を貫いていた方なのだが、エトーリア様が彼の元を訪れる毎に、その態度が軟化しているらしい。

日に日に声色が明るくなり、口調も柔らかくなりつつある、と。


「アシュベル殿下の侍女が驚いていました、エトーリア様のおかげだって」

「え?そんなことないですよ。きっとお体の具合がよくなったからです」


前に報告してみたけれど、彼女はあくまで「一介の練茶士と王子」という関係で接しているらしく、なんともほんわかした反応を返されて、腰から砕けそうになった。私の主人は大層恋愛に疎い方のようだと認識して、これは私が変な虫がつかぬようお支えせねば、と改めて強く思ったのだ。


確かに、アシュベル殿下のエトーリア様へのご好意のきっかけになったのは彼女の練茶によって体調が良くなったことにあるだろう。


それでも、王宮内でエトーリア様とすれ違われた時に見せる表情や、殿下の侍女から聞くに、エトーリア様が部屋を訪れる前にはそわそわと落ち着かない様子なのだという。今回のようにご自身で選んだ贈り物までプレゼントされるなんて。誰がどう見ても、それはまっすぐな恋だ。


身分に違いがあるとはいえ、彼女は今や国の重要人物で、必ずしもアシュベル殿下との婚姻が反対されるともいえない。

ルーク様とアシュベル殿下、一体どちらがエトーリア様の心を射止めるのかという話題は、娯楽に飢えた侍女たちを騒がすには十分なエンターテイメントだった。





エトーリア様の翌朝の準備をするため、静まり返った夜の王宮内の廊下を歩いていた。

角を曲がったところで、アシュベル殿下とヴィクター様が立ち話をしていて、ぴたりと足を止める。邪魔をしないよう静かにお辞儀をしたつもりだったのだけれど、「お前は、エトーリアの」と殿下に呼び止められた。


「はい。アナでございます」

「よかった。ちょうど聞きたいことがあったんだ」

「なんでしょうか」

「あいつは、服について何か言ってなかったか?」

「服、でございますか」


私に聞くのだからエトーリア様についての話だというのはわかっているのだが、一体何を聞きたいのだろう、と懸命に頭を動かしてみる。


「あいつの服は、ここへ来た時に兄貴が用意したものだろう。何か不満はないのかと思ってな」

「ご不満は特におっしゃっていませんが」

「そうか。女は服を自分で選びたいものだと聞いたのだが」


それはどなたから聞かれたのですか、と好奇心いっぱいで身を乗り出して聞きたかったが、以前のアシュベル殿下なら王宮から追放されかねないので心を落ち着かせた。隣でヴィクター様が微笑んでいる。


なるほど、買ってあげたいってことね。そう理解した私は口角をあげ、目を細めて侍女スイッチを入れ直す。


「殿下のお気遣い、きっとエトーリア様もお喜びになられると思います」

「……そうか、聞いてみてくれ」

「はい。必ず。」


アシュベル殿下が軽く頷いたのを見て、「失礼致します」と踵を返す。こんな楽しいこと、エトーリア様に伝えなければ、今すぐに。





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