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王宮練茶のエトーリア  作者: 若葉スイ


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15話

ルーク

アシュベル殿下の部屋から出てきた彼女を出迎えると、私を視界に入れた彼女は「お待たせしました」と微笑んだ。

彼女の首元に光る小さな宝飾品に気がつき、「それは?」と聞く。


「アシュベル殿下にいただいたんです。割ってしまったティーカップのお詫びだと」

「お詫びですか?殿下が?」


驚きと訝しむ気持ちが入り混じり、思わず眉間に皺を寄せる。

隣に並んで歩き出した彼女も、まだ自分がなぜそれを送られたのか半信半疑なようで、指先でネックレスに触れていた。


「それも、今日ご自身で選んでくださったそうなんです」

「……そうですか」


よかったですね、と素直に言う気が生まれてこないのは、ただの嫉妬だとわかっている。

アシュベル殿下はライアス殿下とは違い、父親である国王が決めた婚約を破棄したり、社交の場に出ることも嫌い、女性の影さえ寄せ付けない人物として王宮内で知られている。


王族としてそろそろ婚姻を迫られる年齢であるが、体調を理由に先延ばしになっていたらしい。


女性嫌いなのではとさえ噂が立っていたというのに、それが練茶士である彼女にアクセサリーのプレゼントとは、どういう風の吹き回しだろうか。


命の恩人だからという理由で、何か特別な思いを抱いている?


歩きながら思考に耽っていると、不意に「ルーク?」と彼女に顔を覗き込まれ、はっとした。


「何か、心配事ですか?」

「いえ、なんでもありません」


私が返事をすると、「本当に?」と聞き返される。


「本当ですよ。そんなことより、明日あなたのお父様を王宮にお呼びできることになりました」

「え?父が来るんですか」

「ええ。家族だけで話せる時間を作ってあります」


私が先ほど決まったばかりの予定を伝えると、彼女は「ありがとうございます」と礼を言い、ほっとしたように笑顔になる。

あの日家を出たきり、父親が元気にしているのか、店のことは問題ないのかと心配していたことだろう。早く合わせてやりたいと考えていたが、予想していたよりも早く、ライアス殿下が彼にも話を聞きたいと口にしたことで実現することができた。


そんなことはしないだろうと進言したが、ライアス殿下の指示で、彼女と父親の間で何らかの口裏合わせができないよう、念の為彼の部下が先に会って話を聞くことになっている。


面会できる時間は、彼女が明日の昼フィロー様のところへ向かう前になるだろう。








彼女の自室へ戻ると、アナがすかさず声をかけてきた。


「おかえりなさい、エトーリア様。湯浴みの用意ができています」

「はい」

「……それ、どうしたんですか」


湯浴みに使う大きなタオルを抱えたまま、アナはパタパタとエトーリアの元へ駆け寄ってくる。


「アシュベル殿下にいただいたんです」

「いただいた、って……これ、宝石ですよね。今すごく人気の!」

「……そうなのですか?」

「はい、貴族の間でもなかなか手に入らないと聞きました。すごいものですよ、エトーリア様」


女性ならではの知識をもとにきゃっきゃとはしゃぐアナに、「はあ、」と戸惑っているエトーリアがネックレスに触れる。


「お、お返しした方が良いでしょうか」

「なに言ってるんですか!一度贈ったものを返すなんて、殿下が悲しみます」

「……はい、」

「きっと、殿下はエトーリア様のことがお好きなんですね」


アナの言葉に、こめかみのあたりがピクリと痙攣するのがわかった。殿下が、彼女のことを?


「そうでしょうか……、私が殿下の命を握っているも同然だから、かもしれません」

「もー、エトーリア様が可愛いからですよ。ほら、大切にしまっておきましょう」


侍女のはしゃぎ具合とは反対に、彼女は浮かない表情を浮かべる。


先ほどまでのアシュベル殿下とのやりとりの中で、何かそう思わせる場面があったのだろうか。

今日開かれた極秘会合での殿下の様子からして、彼女に対して黙ってはいられないだろうと予想はしていた。


フィロー様の「彼女が人間であることを忘れるな」という言葉に彼が深く同意していたのも、その表情からはっきりと読み取ることができたため、彼との朝晩の日課は問題ないだろうと判断していたのだが。


アナが彼女の後ろに周り、手際よくネックレスを外した。壁際の棚に置かれていた空のジュエリーケースに、たったひとつだけそれをしまう。


アナの動作を見ているうち、あのネックレスは殿下がつけたのだと気がつき、一瞬、その様子を想像をしてしまった。エトーリアがアナに連れられて湯浴みに出ていく小さな背中を見て、思わず自分の額に手をやり、ひとつ深いため息を吐く。











エトーリアとその父親の面会は、実に和やかな時間となった。


はじめこそ、娘を心配する父親が深刻な表情で彼女の無事を確かめようと駆け寄ったものの、彼女が「何も問題ないよ、皆さんにはとてもよくしてもらっているから」と微笑んだことで、落ち着いてくれた。


彼女が、私とアナを改めて紹介してくれたこともあり、4人で会話する場面も多く、こちらまで親子の温かな雰囲気に表情を緩ませてしまうほどだった。


父親に「うちで働いてくれている練茶士のふたりが、王宮に帰りたくないと言っているのだが、もうしばらくいさせてやってもいいか」と質問された時には、つい吹き出してしまいそうになったが。


エトーリアの不在をカバーするために店に送った二人は王宮練茶士で、フィロー様の直属の部下だ。


よほど、香茶宮より居心地が良いのだろう。


「ええ、構いませんよ。上司にもそのように伝えておきます」

「ありがとうございます。二人もきっと喜びます」

「あの、ルーク様。上司というのはもしかして……」

「そのもしかしてですよ」


訝る彼女に私が目配せをすると、彼女は目を丸くした。確か、初対面の時に「王宮練茶士が二人いるが出払っている」とだけ聞いていたはずだ。


「そんな立派な方々にお手伝いいただいてるんですか?」

「少し話を出したら、二人が希望したんですよ」

「……そうですか」

「とっても生き生きと働いてくれているよ。本当に助かってるんだ」

「それは、私もぜひお会いしたいです」

「ええ。では今度、私と一緒に街へ出かける機会を作りましょう」


「二人は帰ってきたくないそうですから」と付け加えると、彼女は困ったように微笑んだ。何はともあれ、自分が不在の間もしっかりと店が守られていることがわかって安心したようだった。


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