冒険者ギルドに行こう
「頭をお上げください。私は嬉しいのです。我が公爵家の跡取りはまた別にとればいいのですから。といいましても何をいたしましょう」
「俺は寝込んだことで新たなスキルに目覚めたらしい。それに、俺が変われたのは違う世界、異世界とでもいおうかその世界の知識を持ち合わせたらからなのだ。この知識を生かすために俺が王にならなければいけないのだが仲間がいる。それに俺は民に近くありたいのだ。それこそ王となってからも気軽に街に出歩けるような。半年間は冒険者として仲間を増やしたいと思う」
「それは、良い考えかと。今からまいりますか?」
その言葉に俺はうなづいた。スカイ公爵もともに行くようでお忍びの格好をしていた。なんでも冒険者ギルドマスターと友人らしい。まあ当然お忍びということで馬車ではなく徒歩で向かう。5分ほどでついた。
中に入ると依頼板だろう、群がる冒険者が見えた。
「ようこそ冒険者ギルドへ。何か御用でしょうか」
「ああ、ギルマスに会いたい。ビリーが来たといえばわかるはずだ」
「公爵様でしたか。畏まりました。ついてきてください」
2階に上り廊下を歩いていく。受付嬢は少し緊張した面持ちだがもしかしたら俺が王子ということに気づいてるのかもしれない。ちなみにこの王都にはダンジョンが3つあり、そのうちの2つは最下層まで攻略されているらしい。世界辞典で調べたことだがダンジョンにはスタンピードというものがあり魔物が地上にあふれ出てくる。このスタンピードが最後に起きたのは今から318年前のことで当時最強とうたわれた国王が自ら先頭に立ち鎮圧したとある。余談だがこの国が腐っていったのは彼の次の王…息子の代からになる。
「ギルマス、スカイ公爵閣下がお越しです」
「入ってもらいなさい」
失礼しますと前世の癖で小声で言ってしまったが部屋に入ると書類にまみれたエルフがいた。彼の名はセルシオテウというエルフでここのギルドマスターだ。なんでこんなことを知っているのかというとエルフは平均寿命が500年と長くこの国の建国物語にも出てくるエルフになる。ただエルシオテウはエルフの中でも高位のハイエルフで寿命は千年ともいわれている。
「エル、すまないな急に。エルのことだからもう予想してたと思うがシンヤ第二王子殿下を連れてきた」
「シンヤ・デンティスだ。冒険者登録をしに来た。登録してくれるか?」
「シンヤ殿下の頼みとあらば構いませんが…その。以前お会いした時よりも印象が変わられましたね」
「実は先日階段から落ちられてな。その影響で考えが変わられたらしい。半年後…シンヤ殿下はこの腐った王国を変えるべく陛下を蹴落とされる。そして自身が王となり民と向き合った王になりたいとお考えだ。そのために今から自らの仲間を増やすおつもりだ」
「シンヤ殿下、私のことはエルとお呼びください。ビリー、このことはくれぐれも王城内の人間には漏らしたらいかんな。いや、王都の警備兵にも知られてはまずい。どうすべきか…」
「エル、その点は俺に考えがある。いや、あります。俺は王子としてではなくスカイ公爵の息子という形にしようと思います」
「シンヤ殿下、言葉遣いが…」
「公式の場はしっかりとした王子としての言葉遣いにします。しかし国民と向き合うには俺が言いたいことを命令という形で無理にさせるよりも、個人個人と向き合い国民から望まれる人になりたいと思っているのです。国民は決して奴隷ではありません。まあ奴隷の身分の人もいますが奴隷であっても俺は人として扱いたいと思っています」
その言葉を聞いたエルはほろりと涙を流した。
「シンヤ殿下、このエルシオテウはどこまでも殿下に忠誠を誓います」
俺の差し出した手を握りながらわんわんとなくエル。いや、なんで俺の手で涙をふく。いちおう王子だぞ。
スカイ公爵に助けを求めようと目をやるが彼も泣いているのだった
シンヤ・デンティス英雄伝説
著者はデンティス王国建国当時から王都冒険者ギルドマスターとして名高く建国記にも名前が載っているエルシオテウであり現在もギルドマスターとして知られている人物である。
彼は冒頭にこうつづっている。
「私がこの本を執筆しようと思った理由は当時大陸で最弱だったデンティス王国をたった一代で大陸最大の版図を誇る王国にまで成長させたシンヤ・デンティスという国王をどの歴史書よりも詳しく書いて後世に残すためである」
この一文からもわかる通り今では初代国王であるシリアー・デンティスと並ぶ偉大な国王であったシンヤ・デンティスを王国が記している歴史書よりも詳しく書かれている。
エルシオテウによれば王子時代のシンヤは10歳になるまでは横暴でわがまま、暴力的な人物だったと書かれている。この当時の王国は中央の腐敗により王都とその周辺しか領土はなく唯一の貴族であったスカイ公爵でさえ政治にはかかわれなかったという。
だがシンヤが10歳の誕生日に階段から転倒し3日間意識を失ったとあり、これはエルシオテウが当時の友人であり国王からシンヤを育てろと言われた育て親であるビリー・スカイの証言である。
目覚めたその日にビリーと共に冒険者ギルドを訪れ、王族としてなすことをなしたいというシンヤに対してエルシオテウは涙を流したと語っておりシリアー以上の傑物になると確信したという。




