退職理由3
日に日に増していく会社への不信感も、それが決定的になったのは忘年会の「あるイベント」だった。
忘年会くらいはと私も同期も参加をしたが、終盤になると突然会場が暗くなり、大きなスクリーンにその年の社員の仕事ぶりが映し出された。私も同期も数秒だが映っていた。
イベントの最後でスクリーンいっぱいに大きく書かれた文字が表示され、私は鳥肌が立った。
「今年、私たちがここまでがんばれたのは社長のおかげです。社長、本当にありがとう」
バカなのか。私は不動産会社の社員なので、家を探しているお客様のために働いたつもりだったが、総務はどうやら違ったようだ。
少し離れたところにいた同期と目が合い、彼女は私を見てうなずいた。以心伝心、言葉を交わさずとも私たちは同じことを思っていた。翌月、私たちは二人とも会社を去った。
「ここか!」
思い出したくもない気持ち悪い思い出を突き詰めて、私は探していたキーワードにようやくたどり着いた。それはとてもシンプルなもの、「仕事」だった。
私はお客様のために仕事をしたくて前職を退職したのだった。実際に退職したその年に、不動産の「専門性」を高めるために不動産鑑定士試験を受験した。
これで退職理由の作文完成まであと少しだ。まきちゃんは「新しい未来」を描けと言った。私は新婚夫婦を前にして、彼らの質問に答える宅建士をイメージした。
彼らは今、机を挟んで私の正面に座っている。二人とも真剣な眼差しで私を見つめ、新居での新しい生活に不安を抱えているのが見て取れる。
家のこと、住宅ローンのこと、病院や学校など住環境のこと。その他不安に思うことにすべて答えて、この夫婦が新しい生活への一歩を踏み出せるように送り出してあげたい。
休日のフットサルや社長のごますりでなく、お客様のために働く。それが私のやりたかった仕事だ。
お客様の姿が見えなくなるまでお見送りをしたところで、そのイメージを残したまま退職理由の叩き台を書いてみた。
「前職では不動産売買の契約業務を担当していましたが、業務を通してもっと『専門性』を高めたいと思うようになり、資格試験に挑戦するために退職しました」
「専門性」というピースが見つからなかったために時間がかかったが、叩き台としてはこんなものだろう。面接までに何度も見直して面接官に刺さるものに仕上げていく。
面接のルール8:
・退職理由は本当の理由を前向きな言葉に変換する作文。
・退職理由は自分が活躍する新しい世界を描く発表会。
・本音と建前の間に「仮説」を立てて橋をかけキーワードを見つける。
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作者がやる気になります。




