退職理由1
朝活も今日で一週間が過ぎた。早朝に起きて外へ出ることが苦ではなくなり、最近では朝ノートを書いた後に面接対策と新たにコンビニまでのルート探索が日課になっている。
今朝は昨日見つけたバス停の前を通ってきた。朝の六時過ぎだというのにすでに十人ほどの列ができていた。彼らも私と同じくらいの時間に起きてここに来たのだろう。駅へ着けば通勤電車に一時間ほど揺られて会社へ向かう。
一方で私はというと、このまま家に戻り面接対策の準備だ。同じ時間に起きても向かう方向がまるで違う。いつまでこんなことを続けるのか。泣きたくても涙も出ないし、泣いている暇などない。少しでも早く面接に合格して私もあのバス停の列に並ぶのだ。
家に戻り朝ノートを書いた後、まきちゃんの本を開く。今日の章は面接で最大の壁でもある「退職理由」だ。実は数日前からこの章を読みその作成に取り掛かっているが、まだ一行も書けていない。
退職理由は私だけでなく多くの人が「同じ理由」で退職し、実際にそのデータが転職サイトで公開されている。どのサイトでも次の三つが上位を占めている。
・給料が安い
・残業が多い
・人間関係が悪い
いずれも「ネガティブ」な理由だ。転職本ではこれを「ポジティブ」なものに変えるように助言していてまきちゃんも同様のことを言ってるが、少し角度を変えて説明する。
「退職理由なんてみんな同じよね。そんなことは面接官もわかっているの。では、なぜ聞くのか。面接官の質問には『意図』があるからよ。
それを知らずに応募者は給料が安い、残業が多いと口をそろえて言うの。もし当社が前職と同じような環境ならまた愚痴を言って辞めてしまうのかしら。面接官はね、ずっと働いてくれる『仲間』を探して面接をしているの」
愚痴を言っても何も変わらない。それはわかる。しかし、ネガティブな理由をごまかしたところで百戦錬磨の面接官には通用しないことも事実。ではどうするのか。まきちゃんは説明を続ける。
「会社はね、『建前』で成り立っているの。皆が付かず離れずの適切な距離を保って『表面上』の関係でつながっているの。そこに本音を言う社員が現れればどうなると思う?建前対本音の摩擦が生じて距離感が保てなくなってしまうわ。そうすれば組織崩壊のきっかけになりかねない。特に何千、何万も社員がいる大企業で皆が好き勝手に本音を言えば組織の体をなさなくなることくらい容易に想像できるじゃない。
だから仕事終わりに気の合う同期と飲みに行き、溜まりに溜まった上司や会社への本音を吐露して盛り上がるのよ。それができるのは彼らが建前と本音を使い分けているからなの。
面接官は応募者の退職理由など大方の予想はついている。それでも聞くのは、応募者が当社で働くための建前を使い分けられるかを見極めるためなのよ」
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