朝ノート1
レジで会計を済ますと家には帰らず、どこかに立ち寄って本の続きを読むことにした。
「この本はもしかしたら私の未来を変えるかもしれない」
そう思うと、いてもたってもいられなかった。
本屋を出て階段を下りながらどこに立ち寄るかを考える。私は頭の中でバス停から本屋までの道をトレースした。
最初に目に付いたのは赤い看板のファーストフード店だが、ここはいつも混んでいて客層も悪く落ち着いて本を読める環境ではない。そのまま通り過ぎる。そこからしばらく歩き右折すると本屋なので、どうやらこの辺りには立ち寄る店はなさそうだ。
カフェは夕方近くになると学校帰り、仕事帰りの人たちで混み始めるので最初から候補には入れていない。そうなると駅の周辺で残された店は一つしかない。「緑の看板」のファーストフード店だ。
問題は駅の反対側にあるので少し歩くが混み具合はそこそこ、客層も悪くないので程よく読書ができそうだ。
駅に着くと階段を上がり、東口から西口へ抜ける通路を歩いてエスカレーターで階下へ下りる。ほぼ毎日家にいる生活だったので外の空気とすれ違う人混み、駅前のビル群の光景は新鮮だった。
エスカレーターを降りてしばらく歩くと少し先に緑の看板が見えてきた。店の前まで来てガラス越しに店内をのぞくと客はまばらだった。
「よし!」
「押す」のボタンを押すとドアは開き、店内に入ると軽く周囲を見渡してからレジへ向かう。
「いらっしゃいませ。店内でご利用ですか?」
店員が程よい声量で私に問いかけるが、メニューを見なくてもここで頼むものはいつも決まっている。
「はい。シェイクのバニラのSをお願いします。あと、水もお願いします」
ここのシェイクは甘さが後に残らず、何度飲んでも飽きないから不思議だ。問題は場所だけだ。バス停の反対側の出口で、しかも少し歩くので店に着くまでに時間がかかるが、それも着くまでの話で着いてしまえばそんなことはすべて忘れてしまう。
「よし!決めた!」
今日は私の運命を変えるかもしれない本に出会った記念日だ。これからこの本を読んで面接に行き、面接が終わったらがんばったご褒美に毎回ここでシェイクで乾杯しよう。今の私のささやかな贅沢だ。
「お待たせしました」
店員は看板と同じ緑色のトレーにシェイクとストロー、そして紙コップに入った水を乗せ、私が持ちやすいように手渡しで差し出した。こういう心配りはいつもながら感心する。
私はトレーを持ち、レジ横の長机の端に席を取る。客のほとんどは二階へ行くので一階は比較的空いている。私はかばんから買ったばかりの本を取り出した。
「面接は最初の6秒で決まる」
表紙をしばらく眺める。相変わらず刺さるタイトルだ。ページを開き目次を確認した。
「第一章 朝ノート」
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