第九十二話 地下迷宮の銃声、そして裏切り者の影
バンコクの夜の闇を、コウとメイファンは、まるで影のように進んでいった。彼らの目的地は、裏切り者が流した情報が示す、香港三合会タイ支部のアジトへと続く地下道だ。高層ビルの間を縫うように走る細い路地は、バンコクの熱気と湿気を閉じ込め、息苦しい空気が漂っていた。
「ここだ」
メイファンが、古びた錆びた鉄扉を指差した。その扉は、建物の壁に巧妙に隠されており、注意深く見なければ、ただの壁にしか見えない。コウは、FN SCARを背中から降ろし、扉に耳を当てた。微かな金属音と、遠くで聞こえる話し声が、扉の奥に何かが潜んでいることを物語っている。
「…中に、人がいる。複数だ」
コウは、メイファンに囁いた。
「よし。俺が正面から行く。お前は、この鍵を使え」
メイファンは、そう言って、小型の鍵をコウに渡した。
「…これは?」
コウは、鍵を見て、眉をひそめた。
「裏切り者が流したデータの一部だ。こいつを使えば、奴らに気づかれずに、侵入できる」
メイファンは、そう言って、ニヤリと笑った。
コウは、メイファンの言葉を信じ、鍵を手に、扉を開けた。扉の奥は、真っ暗な空間が広がっている。コウは、FN SCARに装着されたフラッシュライトを点灯させた。光が、地下道を照らし出す。その地下道は、まるで巨大な蟻の巣のように、複雑に入り組んでいた。
「…ホアキンがいたら、楽だっただろうな」
コウは、そう呟いた。彼の言葉に、メイファンは、何も答えなかった。
二人は、慎重に地下道を進んでいく。彼らの足音は、地下道に反響し、不気味な静寂を破る。
その時、地下道の奥から、複数の足音が聞こえた。
「…来たぞ!」
コウは、身構えた。
地下道の奥から、武装した男たちが、姿を現した。彼らが手にしているのは、SIG MPX。短機関銃だ。男たちの動きは、訓練されており、まるで影のように、素早く、そして正確に、コウたちに銃口を向けた。
「てめえら…! 何者だ!」
男の一人が、コウたちを睨みつけ、叫んだ。
「…悪いが、お前たちに教える義理はない」
コウは、そう言って、FN SCARを構え、男に銃口を向けた。
「…くそっ…! やっちまえ!」
男が叫び、一斉に発砲した。
タタタタタタタ!
SIG MPXの軽快な銃声が、地下道に響き渡る。コウは、素早く壁の陰に身を隠した。銃弾が、コンクリートの壁を叩き、白い粉が舞い上がる。
「メイファン! 援護する!」
コウは、メイファンに叫び、反撃を開始した。FN SCARの重厚な銃声が響き渡り、銃弾は、男たちの頭部や胸を正確に貫いていく。
「フン…、やるじゃねえか、コウ」
メイファンは、そう言って、グロック17を構え、男たちに応戦した。彼女は、まるでダンスを踊るかのように、アクロバティックな動きで、銃弾をかわしていく。
「くそっ…! なぜ、こんな奴らが…!」
男たちが叫んだ。
その時、メイファンが、懐から複数の手榴弾を取り出した。
「…これでも食らいな!」
メイファンは、そう言って、手榴弾を男たちに投げつけた。
ドォン!!
爆発音が響き、男たちは次々と吹き飛んだ。地下道は、血と硝煙で満ちていた。
コウは、メイファンの戦いぶりを見て、驚きを隠せないようだった。彼は、メイファンが、ただのハッカーではないことを、改めて思い知った。
「…よし。行くぞ」
コウは、そう言って、メイファンを促した。
「ああ。だが、ここは、俺たちの居場所じゃない。バンコクの裏社会は、香港三合会の縄張りだ。気を抜くなよ、コウ」
メイファンは、そう言って、コウを睨みつけた。
コウは、メイファンの言葉に頷き、彼らは、バンコクの夜の闇へと、再び姿を消した。




