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第九十一話 バンコクの夜、黒い炎

第九十一話 バンコクの夜、黒い炎

バンコクの夜は、銃声の熱気と硝煙の匂いを、湿った空気の中に閉じ込めていた。路地裏での激しい銃撃戦を終えたコウとメイファンは、街の喧騒から少し離れた、寂れた安ホテルの一室にいた。部屋の窓からは、ネオンが煌めくバンコクの街並みが一望できる。しかし、彼らの目にその景色を美しいと感じる余裕はなかった。


「……あの人数だ。おそらく、俺たちの情報が漏れている」


コウは、ベッドに腰を下ろし、ベレッタM92Fを分解しながら言った。彼は、銃身の奥にわずかに残る硝煙の匂いを嗅ぎ、冷静に状況を分析していた。


「ああ。チャンは、俺たちに裏切り者の情報を与えた。だが、同時に、裏切り者も、俺たちの情報を掴んでいた、ということになる」


メイファンは、そう言って、コウの向かいの椅子に座り、グロック17の弾倉を拭きながら答えた。彼女の指先は、まるで熟練の職人のように、滑らかに銃のパーツを扱っている。


「…となると、アジトも、罠が仕掛けられている可能性が高い」


コウは、そう言って、ベレッタを組み立て直し、弾倉を差し込んだ。


「わかってるさ。だが、この仕事を成功させなければ、俺たちに明日はない。やるしかないだろう?」


メイファンは、コウを嘲笑うかのように言った。その言葉に、コウは何も答えることができなかった。


二人は、束の間の休息の後、アジトの場所を特定するため、メイファンが持ち込んだタブレットを広げた。タブレットの画面には、裏切り者が流したとされる、バンコクの裏路地の詳細な地図が表示されている。メイファンは、その地図を拡大し、特定の場所を指差した。


「…ここだ。この地下道は、タイ支部の裏社会の人間しか知らない。だが、この地下道は、奴らのアジトへと続いている」


メイファンは、そう言って、ニヤリと笑った。


「…信じられるのか? その情報」


コウは、疑いの目をメイファンに向けた。


「ああ。このデータは、イリーナのハッキングスキルを駆使して、チャンから盗んだものだ。偽装されている可能性は低い。もし、これが偽物なら、チャンは、俺たちを罠に嵌めようとしていることになる」


メイファンは、そう言って、コウを睨みつけた。


コウは、メイファンの言葉を信じ、彼女の計画に従うことにした。彼らは、アジトへと向かうため、ホテルを出た。


バンコクの夜の街を、二人は、まるで影のように進んでいく。彼らの足音は、街の喧騒にかき消され、誰にも気づかれることはなかった。


「…メイファン、本当に、この道でいいのか?」


コウは、メイファンに尋ねた。


「ああ。この路地は、バンコクの裏社会の人間しか知らない。だが、俺たちの情報を、奴らが知っている可能性もある」


メイファンは、そう言って、警戒を怠らなかった。


その時、路地の奥から、複数の足音が聞こえた。


「…来たぞ!」


コウは、身構えた。


路地の奥から、武装した男たちが、姿を現した。彼らが手にしているのは、SIG MPX。短機関銃だ。


「てめえら…! 何者だ!」


男の一人が、コウたちを睨みつけ、叫んだ。


「…悪いが、お前たちに教える義理はない」


コウは、そう言って、ベレッタM92Fを構え、男に銃口を向けた。


「…くそっ…! やっちまえ!」


男が叫び、一斉に発砲した。


タタタタタタタ!


SIG MPXの軽快な銃声が、路地に響き渡る。コウは、素早く路地の陰に身を隠した。銃弾が、コンクリートの壁を叩き、白い粉が舞い上がる。


「メイファン! 援護する!」


コウは、メイファンに叫び、反撃を開始した。ベレッタM92Fの乾いた銃声が響き渡り、銃弾は、男たちの頭部や胸を正確に貫いていく。


「フン…、やるじゃねえか、コウ」


メイファンは、そう言って、グロック17を構え、男たちに応戦した。彼女は、まるでダンスを踊るかのように、アクロバティックな動きで、銃弾をかわしていく。


「くそっ…! なぜ、こんな奴らが…!」


男たちが叫んだ。


その時、メイファンが、懐から複数の手榴弾を取り出した。


「…これでも食らいな!」


メイファンは、そう言って、手榴弾を男たちに投げつけた。


ドォン!!


爆発音が響き、男たちは次々と吹き飛んだ。路地は、血と硝煙で満ちていた。


コウは、メイファンの戦いぶりを見て、驚きを隠せないようだった。彼は、メイファンが、ただのハッカーではないことを、改めて思い知った。


「…よし。行くぞ」


コウは、そう言って、メイファンを促した。


「ああ。だが、ここは、俺たちの居場所じゃない。バンコクの裏社会は、香港三合会の縄張りだ。気を抜くなよ、コウ」


メイファンは、そう言って、コウを睨みつけた。


コウは、メイファンの言葉に頷き、彼らは、バンコクの夜の闇へと、再び姿を消した。

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