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第九十話 バンコクの夜、黒い炎


ポート・ノーウェアの街は、相変わらず静かな夜を迎えていた。しかし、コウとメイファンのアジトである廃倉庫の空気は、張り詰めていた。倉庫の片隅に置かれた古びたテーブルの上には、ポート・ノーウェアではお目にかかれない、洗練されたデザインのタブレットが置かれている。その画面には、香港三合会の紋章が映し出されていた。


「…本当に、やるのか?」


コウは、テーブルの前に立ち、タブレットを睨みつけながら、メイファンに尋ねた。彼の背中には、愛用のFN SCARが背負われ、手にはベレッタM92Fが握られている。


「ああ。この仕事を受ければ、俺たちは、香港三合会のタイ支部に顔が利くようになる。今後の俺たちの活動に、大きなプラスになるだろう」


メイファンは、コウの隣に立ち、グロック17を分解しながら、冷静に答えた。彼女の指先は、まるで熟練の職人のように、滑らかに銃のパーツを扱っている。


「…だが、相手は、香港三合会のタイ支部だぞ。噂によれば、奴らは、この街の連中とは、次元が違う」


コウは、そう言って、眉をひそめた。


「フン…、ビビッてんのか、コウ」


メイファンが、コウを嘲笑うかのように言った。


「…違う。慎重になっているだけだ。俺たちは、もう、二度と、誰かの捨て駒にはならない」


コウは、そう言って、メイファンを睨みつけた。


「わかってるさ。だからこそ、俺がついててやるんだろ? 安心して、コウ。俺は、お前を、絶対に死なせやしないさ」


メイファンは、そう言って、コウの肩を叩いた。その言葉に、コウは、わずかに安堵した。


今回の依頼は、香港三合会タイ支部の幹部、チャンからのものだった。タイ支部の裏切り者を始末し、彼らが持ち出したとされる、組織の極秘データを奪還すること。報酬は、コウとメイファンが、今後、タイ支部で活動するための、絶対的な信用と、潤沢な資金だ。


「…よし。行くぞ」


コウは、そう言って、タブレットを閉じ、懐に収めた。


「目的地は、バンコクだ。だが、香港三合会のタイ支部は、バンコクの裏社会を牛耳っている。正面から乗り込むわけにはいかない」


メイファンは、そう言って、地図を広げた。地図には、バンコクの裏路地が、まるで血管のように複雑に入り組んでいる。


「この地図は、タイ支部の裏切り者が、流したデータの一部だ。これを使えば、奴らのアジトに、気づかれずに侵入できるかもしれない」


メイファンは、そう言って、ニヤリと笑った。


コウは、メイファンの言葉を信じ、彼女の計画に従うことにした。彼らは、バンコクへと向かうため、ポート・ノーウェアの港へ向かった。


バンコクの夜は、熱気に満ちていた。高層ビルのネオンが、まるで宝石のように輝き、街は、人々の喧騒で溢れている。しかし、その光が届かない、裏路地には、闇が潜んでいる。


コウとメイファンは、その闇の中を、慎重に進んでいた。彼らの体は、バンコクの熱気と湿気で、汗ばんでいる。


「…メイファン、本当に、この道でいいのか?」


コウは、メイファンに尋ねた。


「ああ。この路地は、バンコクの裏社会の人間しか知らない。だが、俺たちの情報を、奴らが知っている可能性もある」


メイファンは、そう言って、警戒を怠らなかった。


その時、路地の奥から、複数の足音が聞こえた。


「…来たぞ!」


コウは、身構えた。


路地の奥から、武装した男たちが、姿を現した。彼らが手にしているのは、AK-47と、SIG P226。東南アジアの裏社会では、最も一般的な武器だ。


「てめえら…! 何者だ!」


男の一人が、コウたちを睨みつけ、叫んだ。


「…悪いが、お前たちに教える義理はない」


コウは、そう言って、ベレッタM92Fを構え、男に銃口を向けた。


「…くそっ…! やっちまえ!」


男が叫び、一斉に発砲した。


ダダダダダダダ!


AK-47の無骨な銃声が、路地に響き渡る。コウは、素早く路地の陰に身を隠した。銃弾が、コンクリートの壁を叩き、白い粉が舞い上がる。


「メイファン! 援護する!」


コウは、メイファンに叫び、反撃を開始した。ベレッタM92Fの乾いた銃声が響き渡り、銃弾は、男たちの頭部や胸を正確に貫いていく。


「フン…、やるじゃねえか、コウ」


メイファンは、そう言って、グロック17を構え、男たちに応戦した。彼女は、まるでダンスを踊るかのように、アクロバティックな動きで、銃弾をかわしていく。


「くそっ…! なぜ、こんな奴らが…!」


男たちが叫んだ。


その時、メイファンが、懐から複数の手榴弾を取り出した。


「…これでも食らいな!」


メイファンは、そう言って、手榴弾を男たちに投げつけた。


ドォン!!


爆発音が響き、男たちは次々と吹き飛んだ。路地は、血と硝煙で満ちていた。


コウは、メイファンの戦いぶりを見て、驚きを隠せないようだった。彼は、メイファンが、ただのハッカーではないことを、改めて思い知った。


「…よし。行くぞ」


コウは、そう言って、メイファンを促した。


「ああ。だが、ここは、俺たちの居場所じゃない。バンコクの裏社会は、香港三合会の縄張りだ。気を抜くなよ、コウ」


メイファンは、そう言って、コウを睨みつけた。


コウは、メイファンの言葉に頷き、彼らは、バンコクの夜の闇へと、再び姿を消した。

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