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第七十二話:砂漠の鉄屑、最後の取引

『死者の谷』での激しい銃撃戦から数日が経った。ジェイクたちは、砂漠のど真ん中、廃墟と化したガソリンスタンドの陰で休息を取っていた。リリの足の怪我は応急処置を施したが、未だ完治にはほど遠い。彼女は痛みに顔を歪めながらも、黙ってコーヒーを飲んでいた。シオンとメイファンは、トラックの修理と、残った物資の整理をしていた。ジェイクは、親父の日記を読み返していた。


「この辺りで、最後の物資取引をすると書いてある…」

ジェイクは、日記の最後のページに書かれた、小さな文字を指差した。そこには、場所を示す座標と、取引相手の名前らしきものが記されていた。「ラズロ・コヴァーチ…」

「ラズロ…親父の昔の仲間だ。腕のいいメカニックで、あらゆる銃器の知識に長けていた。」

シオンが、修理を終えたトラックのエンジンを叩きながら言った。

「親父は、この男と取引して、最後の物資を運ぶ予定だったんだな。」

ジェイクは、リリの顔を見た。彼女は、まだ痛みに耐えているようだった。「リリの足じゃ、このまま旅を続けるのは難しい。…ラズロに、医療品がないか聞いてみよう。」


ジェイクは、座標をトラックのナビに入力し、再びエンジンをかけた。彼らは、希望を求めて、砂漠を走り始めた。


数時間後、彼らは目的地に到着した。そこは、かつて軍事基地だった場所のようだ。巨大な鉄の扉が、砂漠の中にポツンと建っている。「…静かすぎるな。」シオンが、警戒しながら言った。ジェイクは、SCAR-Lを構え、扉をゆっくりと開けた。扉の向こうには、巨大な倉庫があった。中には、錆びついた戦車や、スクラップになった軍用車両が無数に転がっている。そして、倉庫の奥には、一人の男が立っていた。男は、白髪交じりのひげを生やし、油まみれのツナギを着ていた。彼のそばには、様々な銃器が並べられていた。男は、彼らに気づくと、にやりと笑った。「ジェイコブの息子か…よく来たな。」男は、ラズロ・コヴァーチと名乗った。


「あんたが、親父の取引相手か?」

ジェイクが問うと、ラズロは頷いた。「そうだ。だが、残念ながら、取引は中止だ。」

ラズロの言葉に、ジェイクたちは身構えた。「…どういうことだ。」

「簡単なことさ。お前たちは、ハインツの邪魔者だ。そして、私はハインツに雇われた。」

ラズロがそう言うと、倉庫のあちこちから、武装した男たちが姿を現した。彼らは、HK416やSIG MCXといった最新鋭の銃器を構え、ジェイクたちを包囲した。


「くそっ、やっぱり罠だったのか!」

ジェイクが叫んだ。彼らは、倉庫の真ん中に取り残された。四方八方から敵に囲まれ、逃げ場はない。「さあ、銃を捨てろ。抵抗すれば、無駄な血が流れるだけだ。」

ラズロが、冷たい声で言った。しかし、ジェイクは親父の言葉を思い出した。「銃は、ただの道具じゃない。お前の命を救い、お前の意志を運ぶものだ。」


「撃て!」

ラズロの号令で、銃撃戦が始まった。まず、四方から一斉に銃弾が放たれた。金属の壁に跳弾し、火花が散る。倉庫内は、一瞬にして硝煙の匂いで満たされた。ジェイクたちは、素早く戦車の陰に身を隠した。

「リリ!動けるか!?」

ジェイクが叫んだが、リリは、足の激痛に耐えながら、うずくまっている。「俺が正面を引き付ける!メイファン、リリを頼む!」

ジェイクは、そう言うと、戦車の陰から飛び出し、敵めがけてSCAR-Lを連射した。7.62x51mm弾の轟音が倉庫に響き渡る。彼は、正確な射撃で敵の一人を倒したが、すぐに別の敵に狙われた。「うわっ!」

ジェイクは、右肩に銃弾を受け、バランスを崩した。


その時、メイファンが動いた。彼女は、リリを抱きかかえ、錆びついたトラックの陰に隠れた。彼女のPP-19 Vityazは、この距離ではほとんど役に立たない。彼女は、銃を構え、リリをかばうように立ちはだかった。「大丈夫…私が、必ず守るから…」彼女の声は震えていたが、その瞳には、強い意志が宿っていた。


シオンは、ジェイクの援護に向かった。彼は、M4A1で敵の一人を撃ち倒すと、素早くジェイクの元に駆け寄った。「ジェイク!大丈夫か!?」

「ああ…かすり傷だ…!だが、まずい、弾が切れそうだ!」

ジェイクのSCAR-Lのマガジンは、残りわずかだった。


銃撃戦の最中、ラズロは、悠然とHK416を構え、ジェイクたちに近づいてきた。「無駄な抵抗はよせ。ジェイコブの息子よ。親父は、お前のために、この場所を用意したのだ。」

ラズロの言葉に、ジェイクは驚きを隠せない。「…どういうことだ!?」

「親父は、お前がいつか来ることを知っていた。そして、ハインツが、お前を狙っていることもな。」

ラズロは、壁のスイッチを押した。すると、倉庫の壁が開き、奥に隠された通路が現れた。

「ここは、親父が私に作らせた、最後の逃げ道だ。だが、私はハインツに脅され、お前たちを売った…」

ラズロは、悔しそうに顔を歪めた。「…だが、私にも、親父との友情がある。…行け!お前たちを逃がす!」

ラズロは、そう叫ぶと、自分の部下たちに向かって、警告射撃を始めた。


「ラズロ!」

敵が、ラズロめがけて一斉に発砲した。ラズロは、銃弾を浴び、その場に倒れ込んだ。「くそっ!」

ジェイクは、怒りに震えながら、SCAR-Lを構え、残った敵を撃ち倒した。シオンも、彼の後を追うように、正確な射撃で敵を制圧した。


敵を全滅させたジェイクたちは、ラズロの元に駆け寄った。「なぜだ…どうして…?」

ジェイクが、血を流しているラズロに問うと、ラズロは、弱々しい声で言った。「親父…は、お前が、この先にある『新秩序』の秘密を知るための…最後のピースだと言っていた…」

ラズロは、そう言い残し、息を引き取った。


彼らは、ラズロが命を賭して守った通路に入った。通路の先には、古い地下壕があった。そこには、大量の物資と、一台のトラックが置かれていた。「…親父の、最後のメッセージだ。」

シオンが、トラックの荷台に置かれた、親父のサインが入った地図を見つけた。地図には、次の目的地が記されていた。「ここが、親父が最後に目指した場所…」

ジェイクは、地図を握りしめ、目を閉じた。彼の心の中には、ラズロの最後の言葉が響いていた。「『新秩序』の秘密…」


彼らは、新しいトラックに乗り込み、再び旅を始めた。リリの足は、未だ痛むが、彼女は弱音を吐かなかった。彼らは、親父の残した謎を解き明かすため、そして、ハインツとの決着をつけるため、最後の目的地へと向かう。この旅の終わりには、一体何が待っているのか…?彼らの旅は、単なる物資運びではない。それは、親父の意志を継ぎ、新たな未来を切り開くための、最後の試練だった。

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