第七話:裏切りと真実
ケンジを殺害した後、コウは空虚感と絶望に打ちひしがれていた。彼の復讐は、彼が信じていた真実とは全く異なるものだった。彼は、自分の手で、最も大切な友を殺してしまったことを悟った。その日から、コウは自室に引きこもり、誰とも口を利かなくなった。
フランクは、コウの変わり果てた姿を見て、不安を募らせていた。コウがこのまま立ち直らなければ、彼らが手に入れた裏社会の支配権も、すぐに崩壊してしまうだろう。
そんなある夜、フランクはジェイクの店に一人の男を連れてきた。男は、顔に深い傷跡があり、どこかコウに似た雰囲気を纏っていた。男はコウの部屋に入り、静かに言った。
「コウ、立ち上がれ」
コウは顔を上げ、男の顔を見て目を見開いた。
「お前は…」
男は、かつてコウとケンジの師であった「先生」だった。先生は、コウに銃の扱い方やナイフの使い方を教えた人物だった。しかし、コウは先生がレイス商会に寝返り、裏切ったと信じていた。
「先生…なぜ、今頃ここに現れた?」
コウは怒りを露わにし、先生にナイフを向けた。しかし、先生はひるまなかった。彼は静かに言った。
「俺は、お前を裏切ったわけじゃない。ただ、お前を成長させるために、できる限りのことをしただけだ」
先生の言葉に、コウは戸惑った。彼の言葉は、真実を語っているように聞こえた。
「嘘だ! 俺はあの時、お前が俺を裏切ったと信じていた! 俺は…お前を恨んでいた…!」
「俺は、お前を裏切ったわけじゃない、このpiss! 俺はあの時、お前を助けるために、できる限りのことをしたんだ!」
先生はそう言って、コウに真実を語り始めた。
先生は、コウが復讐を成し遂げるために、ヴィクターやグリズリーと戦うことを知っていた。彼は、コウが生きるために、暴力に頼るしかないことを知っていた。だから、彼はコウを「裏切った」ふりをして、コウが一人で立ち向かう力を身につけるように仕向けた。
「俺は、お前が強くなるために、お前を一人にした。お前が俺を恨むことで、お前は強くなれると信じていたんだ。俺は…お前を裏切ったわけじゃない、このshit野郎!」
先生の言葉に、コウは言葉を失った。彼は、自分が信じていた「真実」が、実は全くの嘘だったことを知った。彼は、自分の復讐が、先生の犠牲の上に成り立っていたことを悟った。
「先生…俺は…俺はなんてことを…」
コウは膝から崩れ落ち、先生に許しを求めた。しかし、先生はコウを許さなかった。
「もう遅い、このfuck野郎! お前はもう、俺が知っている渡部浩一じゃない。お前は、人を殺し、街を支配するモンスターになったんだ。俺は、もうお前を信じられない」
先生はそう言って、コウに銃を向けた。
「俺は、お前を止めるためにここに来た。このcunt野郎の暴力は、もう見飽きた」
コウは静かに立ち上がり、言った。
「先生、俺を信じてくれ。俺は…俺は変わる。もう誰も傷つけない。先生を…守るために」
しかし、先生はコウを信じなかった。彼は引き金を引いた。その瞬間、コウは素早く動き、先生の銃を叩き落とし、懐から取り出したナイフで先生の腹部を刺し貫いた。
先生は苦痛に呻き、その場に崩れ落ちた。
「なぜだ…なぜ、俺を…」
「俺は、もう誰にも裏切られたくない…」
コウはそう言って、先生の胸にナイフを突き刺した。先生は、そのまま息絶えた。
コウは、血の海に倒れる先生を見下ろし、涙を流した。彼は、自分がこの街で生きるために、最も大切な師を殺してしまったことを悟った。
「俺は…一体、何のために…」
コウは、この街で生きるために、自分自身を殺し、モンスターになった。しかし、彼が手に入れたものは、ただの空虚感と孤独だった。彼は、この街で、これから何を求め、どこへ向かっていくのだろうか。