デッドライン・ノーウェア

五十四話：兄弟の秘密

ジェイクは、迷うことなくタワーの階段を駆け上がった。その後を、コウとリリが追う。静かな通路に、彼らの足音だけが響いていた。

「…ジェイク！どういうことだ！」

コウは、走りながらジェイクに叫んだ。

ジェイクは何も答えなかった。その背中からは、怒りと悲しみ、そして何かに駆り立てられるような焦りが感じられた。

彼らは屋上へと続く扉にたどり着いた。扉は頑丈な鉄製で、厚いロックがかかっている。

「…メイファン、開けられるか？」

コウは、インカムでメイファンに尋ねた。

「…待って…！…無理よ！このロックは、**『ブラックボックス』**のデータとリンクしている。…ジェイクがブラックボックスにアクセスしない限り、開けられないわ！」

メイファンの声は、焦燥に満ちていた。

その言葉に、コウとリリはジェイクに視線を向けた。ジェイクは、ポケットから小さな鍵を取り出し、扉の鍵穴に差し込んだ。

「…待て…！…どうしてそんなものが…」

リリが、驚愕の表情で言った。

「…これは…**『シオン』**が…俺に託した…最後の鍵だ…」

ジェイクは、そう言って、鍵を回した。

「カチッ…」

重い音を立てて、扉が開いた。彼らが屋上に出ると、夜空には満月が輝き、冷たい風が吹き荒れていた。屋上には、一台のヘリコプターが待機していた。

「…行こう…」

ジェイクは、そう言って、ヘリコプターに向かって歩き始めた。

「…どこへ行くんだ！？」

コウは、ジェイクの前に立ちはだかった。

「…『黒王』の…元へ…」

ジェイクは、そう言って、コウを冷たい瞳で見つめた。

「…『黒王』は…死んだはずだ…！」

リリが、叫んだ。

「…ああ。…だが…**『彼』**は…生きている…」

ジェイクは、そう言って、ヘリコプターに乗り込んだ。

コウは、ジェイクに銃口を向けた。

「…話せ！…全てを…！」

コウは、ジェイクに迫った。

ジェイクは、コウの銃口を気にすることなく、淡々と話し始めた。

「…『黒王』…それは…メデューサの創設者…そして…シオンの…**『父親』**だ…」

その言葉に、コウとリリは驚愕した。

「…そして…俺は…シオンの兄…つまり…『黒王』の息子だ…」

ジェイクは、そう言って、静かに目を閉じた。

「…信じられない…」

コウは、そう言って、銃口を下げた。

「…ああ。…だが…これが…真実だ…」

ジェイクは、そう言って、再びヘリコプターの操縦席に座った。

「…俺は…この手で…父を…止める…」

ジェイクは、そう言って、ヘリコプターのエンジンをかけた。プロペラの回転音が、屋上に響き渡る。

「…待て！…俺たちも行く！」

コウは、そう言って、ヘリコプターに乗り込んだ。リリも、コウに続いて乗り込んだ。

ヘリコプターは、静かに夜空へと舞い上がった。ジェイクは、ヘリコプターを操縦しながら、コウとリリに全てを話し始めた。

「…俺たちが…『シャドウ』と呼ばれていたのは…**『影』**のように…『黒王』に付き従っていたからだ…」

「…だが…『黒王』は…変わってしまった…」

ジェイクは、そう言って、過去を振り返った。

「…彼は…『ブラックボックス』に…執着するようになった…」

「…その『ブラックボックス』は…ただの設計図じゃない…」

「…それは…**『世界を書き換える鍵』**だ…」

ジェイクは、そう言って、声を震わせた。

「…そして…シオンは…父を止めようとした…」

「…だが…父は…シオンを…殺そうとした…」

「…俺は…シオンを…守ることができなかった…」

ジェイクは、そう言って、涙を流した。

コウとリリは、何も言わなかった。彼らは、ただ、ジェイクの言葉に耳を傾けていた。

「…父は…『ブラックボックス』を使って…全世界のネットワークを…**『リセット』**しようとしている…」

「…それが…奴の…目的だ…」

ジェイクは、そう言って、前を見つめた。

ヘリコプターは、都市の中心を離れ、郊外へと向かった。彼らの目的地は、人里離れた山の中にある、廃墟と化した軍事基地だった。

「…ここだ…」

ジェイクは、そう言って、ヘリコプターを静かに着陸させた。

軍事基地の周囲には、無数の敵兵が配置されていた。彼らは、最新鋭の兵器で武装しており、侵入者を警戒している。

「…行くぞ…」

コウは、そう言って、M4A1を構えた。

「…コウ…お前たちに…銃を向けるかもしれない…」

ジェイクは、そう言って、コウに視線を向けた。

「…分かってる…」

コウは、そう言って、ジェイクに微笑んだ。

「…俺たちは…お前の…味方だ…」

リリは、そう言って、ジェイクにタブレットを差し出した。

「…これを使って…敵の配置を…解析してくれ…」

ジェイクは、リリの言葉に、驚きの表情を浮かべた。

「…ありがとう…」

ジェイクは、そう言って、タブレットを受け取った。

彼らは、軍事基地へと侵入した。彼らの前には、無数の敵兵が立ちはだかる。

「…敵だ！」

敵兵の一人が、彼らに気づき、銃を構えた。

「ダダダダッ！」

コウのM4A1が火を噴き、敵兵たちをなぎ倒していく。ジェイクとリリも、それぞれの武器を構え、応戦した。彼らは、互いの背中を預け合い、連携しながら敵を倒していく。

彼らは、軍事基地の最奥部にある、巨大な地下研究施設へとたどり着いた。そこには、ガラスで囲まれた部屋があり、その中心には、**『ブラックボックス』**が浮かんでいた。

「…あれが…」

コウは、そう言って、ブラックボックスを見つめた。

ブラックボックスは、黒い立方体で、表面には無数の未知の記号が刻まれている。その記号は、まるで生きているかのように、光を放ち、明滅していた。

「…父さん…！」

ジェイクは、そう言って、部屋の奥にいる一人の男を見つめた。

男は、黒いコートに身を包み、背を向けていた。その男こそ、メデューサの創設者であり、ジェイクとシオンの父親、そして「黒王」その人だった。

「…ようやく…来たか…」

黒王は、そう言って、ゆっくりと振り向いた。彼の顔は、ジェイクに瓜二つだった。

「…どうして…！…どうして…こんなことを…！」

ジェイクは、そう言って、黒王に叫んだ。

「…ジェイク…お前は…何も分かっていない…」

黒王は、そう言って、ジェイクに近づいた。

「…この世界は…腐っている…」

「…だから…俺は…この世界を…**『リセット』**する…」

黒王は、そう言って、ジェイクに微笑んだ。

「…やめろ！…父さん！」

ジェイクは、そう言って、黒王に銃口を向けた。

「…お前には…俺を…撃てない…」

黒王は、そう言って、ジェイクの銃口を掴んだ。

その瞬間、ブラックボックスが、光を放ち始めた。その光は、徐々に強くなり、部屋全体を包み込んでいく。

「…父さん…！…やめろ！」

ジェイクは、そう言って、黒王に叫んだ。

「…ジェイク…さようなら…」

黒王は、そう言って、ブラックボックスに吸い込まれていった。

「…父さん…！」

ジェイクは、黒王に手を伸ばすが、届かなかった。

ブラックボックスは、光を放ち、消滅した。そして、その部屋には、何も残っていなかった。

「…嘘だ…」

ジェイクは、そう言って、その場に崩れ落ちた。彼の瞳からは、涙がとめどなく流れていた。

コウとリリは、何も言わなかった。彼らは、ただ、ジェイクのそばに寄り添っていた。

「…父さんは…本当に…この世界を…リセットするつもりだったんだ…」

ジェイクは、そう言って、虚ろな目で宙を見つめた。

彼らの戦いは、終わったかに見えた。しかし、その戦いは、まだ始まったばかりだった。

黒王は、ブラックボックスと共に、どこへ消えたのか？

そして、ジェイクの過去に隠された、もう一つの真実とは？

次回、彼らは、その謎を解き明かすために、新たな戦いへと向かう。