第五十一話:コウとリリの新たな決意
「…ねぇ、コウ。これから、どうするの?」
三日後、病院のベッドの上で、リリはコウに尋ねた。メイファンは、回復に向かってはいるものの、まだ完全に意識が戻っているわけではない。コウの肩の傷も、順調に回復していた。
「…分からない。でも、もう、誰かのために戦うのは、終わりだ」
コウは、そう言って、静かに微笑んだ。彼は、もう誰かを守るために、自分を犠牲にすることはしない。これからは、自分の人生を、自分のために生きるのだ。
「…そうね。私も…そうするわ」
リリは、コウの言葉に頷いた。彼女もまた、この戦いを経て、新たな人生を歩むことを決意していた。
その時、病室のドアがノックされた。入ってきたのは、黒いスーツに身を包んだ男だった。彼は、コウとリリに静かに向かい合った。
「…君たちが、メデューサの残党を壊滅させた、コウとリリか?」
男の言葉に、コウは警戒した。しかし、リリはタブレットの画面を見て、驚きの声をあげた。
「…ジェイク・ハント…!?あなたは、政府の特殊捜査官…?」
「…ああ。ヴァイパーから解析されたデータに、君たちの情報があった。そして、そのデータから、メデューサの残党が、新たなテロ計画を企てていることが分かった」
ジェイクは、そう言って、リリにタブレットを差し出した。画面には、都市の地下に広がる、旧メトロの廃駅の設計図が映し出されていた。
「…そこが、奴らのアジトだ。彼らは、黒王の意志を継ぎ、世界中の金融システムを破壊しようとしている。私は、奴らを追っていたが、一人では限界がある」
ジェイクの言葉に、コウとリリは、互いに顔を見合わせた。自分たちの人生を、自分のために生きると決めたばかりだった。しかし、メデューサの残党を放っておくことはできない。
「…分かった。協力しよう。でも、これは、俺たち自身のケジメだ」
コウは、そう言って、ジェイクに頷いた。
「…ありがとう。君たちの協力を、心から感謝する」
ジェイクは、静かに微笑んだ。
コウは、メイファンの病室を訪れた。メイファンは、まだ眠っていたが、その表情は穏やかだった。コウは、彼女の手を握り、静かに語りかけた。
「…メイファン…俺は、行くよ。お前が命がけで手に入れたデータ…無駄にはしない」
コウは、そう言って、メイファンの手を離し、病室を後にした。彼の瞳には、再び、強い光が宿っていた。
深夜、4人は、旧メトロの廃駅の入り口に到着した。ジェイクは、周囲の監視カメラを無力化し、彼らが侵入するためのルートを確保した。
「…よし、行け。俺は、ここで、奴らの増援を食い止める」
ジェイクは、そう言って、コウとリリに合図を送った。コウは、ジェイクの言葉に頷き、リリと共に廃駅の内部へと侵入した。
内部は、暗く、湿った空気が漂っていた。彼らの足音だけが、静寂を切り裂く。
「…コウ…リリ…前方、30メートル。敵兵、3名。武装は…アサルトライフルだ…」
インカムから、メイファンの声が聞こえてきた。彼女は、病院のベッドから、遠隔で彼らをサポートしていたのだ。彼女の瞳は、以前よりも鋭くなっていた。
コウは、敵兵に気づかれないように、柱の影に身を隠し、リリに合図を送った。リリは、タブレットを操作し、敵兵の通信をジャックした。
「…聞こえない…通信が…」
敵兵たちは、互いに囁き合い、困惑した様子だった。
その隙を突き、コウは、素早く敵兵に近づき、無音で一人ずつ、首を締め上げていった。
『ゴクッ…バクッ…』
敵兵たちは、音を立てることなく、次々と倒れていった。
「…よし、次だ」
コウは、そう言って、メイファンに合図を送った。
メイファンは、病院のベッドで、静かにライフルを構え、遠くの通路を監視している敵兵の頭を正確に撃ち抜いた。
『パンッ!』
銃声は、静寂に消え、敵兵は、音を立てることなく、その場に倒れた。
「…コウ!…前方、40メートル。レーザーセンサーが張り巡らされてる…」
リリは、再びタブレットを操作し、レーザーセンサーの配置図をコウに伝えた。
コウは、リリの指示に従い、レーザーセンサーの隙間を縫って、慎重に進んでいった。彼の動きは、まるで熟練のダンサーのようだ。
しかし、彼らの侵入は、ついに敵に気づかれてしまった。
「…侵入者だ!…排除しろ!」
敵兵の叫び声が、廃駅全体に響き渡った。
『ダダダダダダッ!』
四方八方から、銃弾の嵐が降り注ぐ。コウは、素早く身を隠し、応戦する。
「…リリ!…奴らの無線を、もう一度ジャックしろ!」
コウは、リリに叫んだ。
「…無理よ!…一度バレたら、すぐに周波数を変えてくるわ!」
リリは、悔しそうな表情で言った。
その時、メイファンが、静かにライフルを構え、遠くの照明灯を次々と撃ち抜いていった。
『パァン!パァン!パァン!』
廃駅全体が、一瞬にして闇に包まれた。
「…やったな…メイファン…!」
コウは、そう言って、メイファンに感謝の意を伝えた。暗闇の中では、メイファンの暗視スコープが、圧倒的な優位性をもたらす。
「…コウ…!10時の方向!…50メートル!…対戦車ライフルを持った兵士が…!」
メイファンは、そう言って、コウに指示を出す。コウは、その言葉に従い、素早くM4A1を構え、敵兵の頭を狙う。
『パン!』
コウの銃弾は、敵兵のヘルメットを貫通し、彼をその場に倒れさせた。
その間にも、リリは、敵兵の通信を傍受し、彼らの動きを分析していた。彼女は、コウとメイファンに、敵兵の正確な位置を伝え続けた。
「…ジェイク…!…敵の増援は!?」
コウは、インカムでジェイクに尋ねた。
「…心配するな…!…こっちは、大歓迎だ…!」
ジェイクの声は、余裕に満ちていた。彼は、廃駅の入り口で、迫り来る増援を、たった一人で食い止めていた。
『ダダダダダダッ!』
ジェイクは、両手にアキンボ・グロック18を構え、次々と敵兵をなぎ倒していく。彼の動きは、まるでダンスのようだ。敵兵の銃弾は、ジェイクに当たることはなく、全て無駄に終わる。
「…ふん…まだまだだな…!」
ジェイクは、そう言って、不敵な笑みを浮かべた。
コウとリリは、廃駅の最深部へと到達した。そこには、メデューサの残党のリーダー「サイオン」が待っていた。サイオンは、巨大なサーバーを前に、不敵な笑みを浮かべていた。
「…ようこそ…英雄たちよ…」
サイオンは、そう言って、コウたちを歓迎した。
「…お前が…メデューサの残党を率いているのか…!」
コウは、そう言って、サイオンに銃口を向けた。
「…私は…黒王の意志を継ぐ者…!…新たな世界を創造する…!」
サイオンは、そう言って、サーバーを操作し始めた。
「…待て!…何をしようとしている!」
リリは、サイオンに叫んだ。
「…世界中の金融システムを…崩壊させる…!…黒王が夢見た、混沌の世界を…現実にするのだ!」
サイオンの言葉に、コウとリリは、絶望の表情を浮かべた。
「…くそ…!間に合わなかったのか…!」
コウは、悔しそうに唸った。
その時、インカムから、ジェイクの声が聞こえてきた。
「…コウ!…サーバーの…セキュリティホールを見つけた…!…0.5秒で、システムを停止させることができる…!」
ジェイクの言葉に、コウの顔に、希望の光が宿った。
「…リリ!…ジェイクが0.5秒だけ、サーバーを停止させることができる!…その隙に…!」
「…分かったわ!…メイファン、援護して!」
リリは、そう言って、サーバーに駆け寄った。メイファンは、サイオンに銃口を向け、彼の動きを封じた。
「…くそ…!邪魔をするな!」
サイオンは、リリに向かって銃弾を撃ち込むが、メイファンの正確な銃撃が、彼の銃を弾き飛ばした。
「…今だ!…ジェイク!」
コウは、ジェイクに叫んだ。
「…了解…!」
ジェイクは、そう言って、タブレットを操作し、サーバーのセキュリティホールを攻撃した。
『ピーッ!…』
サーバーの作動音が、一瞬にして停止した。
「…やったわ…!」
リリは、サーバーの電源を切り、安堵の息を吐いた。
「…馬鹿な…!…なぜだ…!」
サイオンは、絶望の表情で、その場に崩れ落ちた。彼の瞳には、狂気の光が失われていた。
「…お前たちの…負けだ…」
コウは、そう言って、サイオンに銃口を向けた。
『パン!』
コウの銃弾は、サイオンの眉間を正確に捉え、彼をその場に倒れさせた。
サイオンが倒れると、コウとリリは、静かにその場を後にした。廃駅の入り口で、彼らを待っていたのは、ジェイクだった。
「…やったな…」
ジェイクは、そう言って、コウの肩を叩いた。
「…ああ…みんなのおかげだ」
コウは、そう言って、微笑んだ。
4人は、互いに顔を見合わせ、静かに頷いた。彼らは、もはや一匹狼の傭兵ではなかった。彼らは、互いを信頼し、支え合う、チーム・エンフォーサーだった。




