第四十一話:追跡者の眼差し
雨が降りしきる中、コウとメイファンは、倒れた男たちを後にした。メイファンは男たちの身元を調べ、その結果に眉をひそめた。
「どうした?」
コウが尋ねると、メイファンは顔を上げた。
「……こいつら、ジェイクの部下じゃない。ポート・ノーウェアの外の連中だ。**『カラス』のマークが入っている。…『ブラック・クロウ』**の仕業だ」
『ブラック・クロウ』。その名は、ポート・ノーウェアの裏社会でも、伝説的な存在だった。彼らは、暗殺や密輸、違法なサイバネティクス取引など、あらゆる裏稼業に手を染める巨大な犯罪組織だ。その存在は、噂としてしか語られることがなく、誰もその実体を知らなかった。ジェイクは、そんな組織と手を組んでいたのか。コウは、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「ジェイクは、一体何者なんだ?」
コウの問いに、メイファンは答えない。彼女は、ただ静かに、男たちの死体を眺めていた。その瞳には、かつてのような狂気はなく、ただ静かな殺意が宿っているだけだった。
「…戻るぞ。ジェイクの事務所だ」
メイファンの言葉に、コウは驚いた。
「危険だ。向こうは俺たちを殺そうとしている」
「分かっている。だが、他に手はない。真実を知るには、ジェイクの元に行くしかない」
彼女の言葉には、確固たる意志が宿っていた。コウは、メイファンの決意を感じ取り、黙って彼女に従った。
銃口が交差する夜
ジェイクの事務所に戻ると、そこは、まるで嵐が過ぎ去った後のようだった。事務所の扉は破壊され、中の家具はひっくり返り、壁には無数の弾痕が残されていた。メイファンは、慎重に中に入り、周囲を警戒した。コウは、グロック17を構え、彼女の背後を守った。
「…誰かいるのか?」
コウが呟くと、メイファンは静かに首を振った。
「…いない。だが、何かがおかしい」
彼女の鋭い勘が、何かを感じ取っているようだった。その時、メイファンの視線が、床に転がっている一つのデバイスに固定された。それは、ジェイクがいつも持っていた、小さな通信機だった。メイファンは、それを拾い上げると、中身を調べ始めた。
「…これは…」
彼女の表情が、驚きと、そして怒りに変わる。
「…このデバイスは、ジェイクが私たちを裏切るためのものではなかった。…これは、彼が私たちにメッセージを残すためのものだ。…そして、このメッセージは、私たちを**『罠』**に誘い込んでいる」
メイファンの言葉に、コウは血の気が引くのを感じた。
「どういうことだ?」
「…ジェイクは、私たちに、彼の本当の狙いを伝えようとしている。彼は、**『ブラック・クロウ』**に利用されていた。そして、彼は、私たちに、その真実を伝えようとしていた」
その時、事務所の奥から、男たちの話し声が聞こえてきた。彼らは、AK-47を構え、事務所の奥に身を隠していた。彼らは、コウとメイファンが戻ってくるのを待ち伏せしていたのだ。
タァン!タァン!タァン!
男たちの銃声が、事務所の中に響き渡った。銃弾が、壁や家具を砕く。コウは、反射的にテーブルの陰に身を隠した。メイファンは、すでに動き出していた。彼女は、CZ Shadow2 Carryを構え、男たちに反撃を開始した。
パン!パン!パン!
メイファンの銃弾は、正確に男たちのAK-47の弾倉に命中し、銃を破壊する。男たちは、驚きと恐怖の表情を浮かべた。彼らは、この女が、ただの暗殺者ではないことを知った。彼女は、戦術家だ。
真実の弾丸、そして共犯者の絆
メイファンの銃撃は、男たちを圧倒した。しかし、彼女は、彼らを殺さなかった。彼らの足を撃ち抜き、戦闘不能にする。それは、コウの教えだった。
「…殺す必要はない。生かしておけば、情報が手に入る」
コウの言葉を、メイファンは実践していた。彼女は、コウの影響を少しずつ受けていた。しかし、彼女の中には、まだ、暴力への渇望が残っていた。
「…なぜ、殺さない? 殺すことを楽しむのだろう?」
一人の男が、震える声で呟くと、メイファンは冷たい笑みを浮かべた。
「…失望したよ。もっと楽しませてくれると思ったのに」
その言葉に、男は絶望の表情を浮かべた。その時、メイファンの背後から、もう一人の男が飛び出してきた。彼は、FN SCARを構え、メイファンの頭を狙っていた。
「メイファン!」
コウは叫び、グロック17を発砲した。彼の銃弾は、男のFN SCARのスコープに命中し、銃を破壊した。男は、驚きと混乱の表情を浮かべ、その場に立ち尽くす。
メイファンは、振り返ると、コウを睨みつけた。その瞳には、怒りが宿っていた。
「…なぜ、助けた? 私は、自分で対処できた」
「分かっている。だが、俺は、お前を失いたくない。…お前は、俺の共犯者だ。俺は、お前を信じている」
コウの言葉に、メイファンの怒りは消え、その瞳には、静かな温かさが宿った。彼女は、コウに、自分の命を預けている。それは、彼女にとって、初めての経験だった。
「…分かった。…感謝する」
彼女の言葉に、コウは安堵の息を漏らした。二人の間には、もはや言葉を必要としない、深い絆が築かれていた。それは、互いの命を預け合う、危険な、だが、確かな絆だった。
ジェイクの残したメッセージ
男たちを縛り上げ、情報を聞き出した後、コウとメイファンは、ジェイクの通信機の解析を続けた。その結果、一つの映像データが発見された。それは、ジェイクが死ぬ直前に録画したものだった。
映像の中で、ジェイクは、ポート・ノーウェアの真実を語っていた。
「…コウ、メイファン。…私は、お前たちを裏切った。だが、それは、お前たちを守るためだった。…**『ブラック・クロウ』**は、この街の全てを支配している。彼らは、私の家族を人質にとり、私を脅していた」
ジェイクの言葉に、コウは愕然とした。
「…そして、彼らは、**『闇のデータ』**を求めている。そのデータは、ポート・ノーウェアの全ての犯罪組織の情報を記録したものだ。…そのデータは、私の手元にある。…だが、もう時間がない。…お前たちに託す。…私の、そしてこの街の未来を」
ジェイクの言葉は、そこで途切れた。彼の後ろから、一人の男が現れ、ジェイクの頭に銃口を向けた。映像は、そこで終わった。
コウは、震える手で、その映像を再生した。ジェイクは、彼らを裏切ったのではなく、守ろうとしていたのだ。彼は、最後まで、コウを信じていた。そして、彼は、コウに、全てを託した。
「…ジェイク…」
コウは、男泣きした。彼の涙が、通信機の画面に落ちる。メイファンは、そんなコウの肩を抱き寄せた。彼女の瞳は、静かに、そして、深く輝いていた。
「…私たちの戦いは、まだ終わっていない。…ジェイクの意志を継ぐ」
彼女の言葉に、コウは頷いた。彼らは、もはや、ただの二人の暗殺者ではない。彼らは、この街の未来を背負う、新たな『共犯者』となったのだ。
次話では、コウとメイファンが、ジェイクが残した『闇のデータ』を巡り、巨大な組織『ブラック・クロウ』と対決します。彼らの新たな戦いが、今、幕を開ける!




