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第三話:裏社会の支配者たち

ポート・ノーウェアに流れ着いた渡部浩一は、もはや元の自分とはかけ離れた存在となっていた。彼は「コウ」と名乗り、この無法都市で「交渉人」として生きる道を選んだ。言葉の力で、多くのトラブルを解決してきた彼の評判は、裏社会の支配者たちの耳にも届き始めていた。


フランクは、コウの成功が面白くなかった。彼は、この街で生きるには暴力こそが唯一の手段だと信じていた。コウが言葉だけで問題を解決する姿は、彼の信念を根底から揺るがすものだった。


「チッ、あのtits野郎、調子に乗りやがって。どうせ、いつか痛い目を見るさ」


フランクは、店の隅で銃の手入れをしながら、コウに聞こえるように悪態をついた。コウは、フランクの挑発に黙って耐えた。彼には、無駄な争いをする時間も、体力もなかった。


ある日、ジェイクの店に一人の男がやってきた。男は、全身を黒いスーツで固め、顔には一切の感情を浮かべていなかった。彼の背後には、二人の屈強なボディガードが立っていた。


「ジェイク、お前に頼みたい仕事がある」


男は低い声で言った。ジェイクは、男の顔を見て、顔を青ざめさせた。


「あなたは……まさか、ヴィクター…?」


ヴィクター。彼は、この街の裏社会を牛耳る犯罪組織「ブラッドハウンド」のリーダーだった。彼の名は、力と恐怖の象徴として、ポート・ノーウェアの住民たちの間で語り継がれていた。


「俺は、ある男の命が欲しい。お前が、その男の居場所を突き止めて、俺に教えろ」


ヴィクターはそう言って、ジェイクに一枚の写真を差し出した。そこに写っていたのは、コウを奴隷として売った海賊船の船長だった。


「この男は、俺の弟を殺した。俺は、このshitをこの手で殺す。お前は、このfuck野郎の居場所を突き止めてくれ」


ヴィクターはそう言い放ち、ジェイクに大金が入った袋を渡した。


「約束を破ったら、お前の命はない」


ヴィクターはそう言って、店を後にした。ジェイクは震える手で金を握りしめ、床に崩れ落ちた。


コウは、ヴィクターとジェイクのやり取りを店の隅で聞いていた。彼は、写真に写っていた男が誰であるかを知っていた。それは、彼の故郷から彼を拉致し、この地獄に突き落とした男だった。


コウの心臓が激しく脈打った。彼の脳裏に、船倉での屈辱、スネークとの死闘、そして少年が苦しむ姿が蘇る。復讐の炎が、彼の心の中で燃え上がった。


「ジェイク、その男の居場所は、私が突き止めます」


コウはそう言った。ジェイクは驚いた顔でコウを見た。


「何を言ってるんだ、コウ。あいつは危険すぎる。お前には無理だ」


「いいえ、無理ではありません。私には、この街の裏社会にいる人間たちと交渉する力がある。そして、この男は、私の過去と深く関わっているのです」


コウの目は、かつてのサラリーマンの目ではなかった。そこには、決意と、そして燃え盛る復讐の炎が宿っていた。


コウは、単身、街の裏路地へと向かった。そこは、情報屋や密売人がひしめく、ポート・ノーウェアの暗部だった。コウは、かつて取引をした情報屋の元を訪れた。


情報屋は、全身にタトゥーを入れた男だった。彼はコウを見て、ニヤリと笑った。


「よお、交渉人さん。今日はどんな情報が欲しい?」


「レイス商会の船長の居場所を教えてほしい」


コウは単刀直入に言った。情報屋は眉をひそめた。


「そいつは危険な匂いがするな。ただの情報じゃない。何かを企んでるだろ」


「ええ。復讐です」


コウはそう言って、情報屋に大金を差し出した。情報屋は金を見て、ニヤリと笑った。


「悪くない。だが、俺は命を賭けたくない。俺はただのpissだ」


「命は賭けさせません。ただ、情報だけをください」


コウはそう言って、情報屋に交渉を続けた。彼の言葉は、情報屋の警戒心を少しずつ解きほぐしていった。そして、ついに情報屋は、船長の居場所をコウに教えた。


船長は、ポート・ノーウェアの港にある「レッド・ドラゴン」という名の廃墟となった倉庫に身を潜めているらしい。そこは、レイス商会の秘密基地となっており、多くの海賊たちが常駐しているという。


コウは、情報屋から得た情報をジェイクに伝えた。ジェイクは、すぐにヴィクターに連絡を取ろうとした。しかし、コウはそれを止めた。


「ジェイク、ヴィクターに連絡するのは待ってください。この男は、私がこの手で殺さなければならない」


ジェイクは驚き、コウを諭そうとした。


「コウ、やめとけ。レイス商会は、お前が船倉で殺した海賊の仲間だ。お前を待ち構えているだろう。ヴィクターに任せればいい」


「いいえ。これは、私の復讐です。誰にも邪魔はさせません」


コウの決意は固かった。彼は、ジェイクの制止を振り切り、一人、レッド・ドラゴンへと向かった。


レッド・ドラゴンは、その名の通り、赤く錆びついた巨大な倉庫だった。倉庫の入り口には、見張り番が二人立っていた。コウは、見張り番の元へと歩み寄った。


「用がある。船長に会わせろ」


コウは冷静に言った。見張り番の一人が、コウの顔をまじまじと見た。


「お前は、船倉でスネークを殺した交渉人か? まさか、こんなtits野郎が一人で来るとはな」


見張り番は嘲笑った。しかし、コウはひるまなかった。


「私は、あなたたちに危害を加えるつもりはない。ただ、船長と話をしたいだけだ」


コウはそう言って、交渉を始めた。彼は、見張り番の心の奥底にある、この街での生活への不満や、海賊としての将来への不安を指摘した。彼の言葉は、見張り番の心を揺さぶった。


その隙に、コウはもう一人の見張り番に忍び寄り、一瞬の隙をついてその首を捻じ曲げた。男は呻き声を上げることなく絶命した。そして、コウはもう一人の見張り番の腹部に、隠し持っていたナイフを突き刺した。男は目を見開いて倒れ、そのまま息絶えた。


コウは、二人の海賊の死体を見下ろした。彼は、もう何も感じなくなっていた。これは、彼にとって、生きるための手段でしかなかった。


倉庫の中に入ると、そこには多くの海賊たちがいた。彼らは、酒を飲み、笑い、賭博に興じていた。コウは、静かに彼らの背後を通り過ぎた。彼の心臓は、まるで氷のように冷たかった。


倉庫の最奥にある、船長の部屋。コウは、音を立てずに扉を開けた。部屋の中には、船長が一人で、酒を飲んでいた。


「誰だ?」


船長は振り返った。コウの顔を見て、船長は目を見開いた。


「お前は……あの時の奴隷か? なぜここに…」


船長の言葉を遮るように、コウは語り始めた。


「私は、あなたに復讐をしに来ました。あなたに、私の過去を奪われた。私の人生を、私の魂を、あなたは奪った」


コウの声には、怒りと、そして深い悲しみが込められていた。船長は、コウの言葉に動揺した。


「うるせぇ! 戯言を言うな、このcuntめ!」


船長は銃を抜き、コウに発砲した。しかし、コウは素早く身をかわし、懐から取り出したナイフを船長の心臓に突き刺した。


船長は苦痛に呻き、口から血を吐き出した。彼の目は、恐怖と後悔に満ちていた。


「お前は、この街で生きる資格はない」


コウは、そう言って、ナイフを船長の心臓から抜き取った。船長はそのまま、床に倒れ込み、息絶えた。


コウは、血まみれのナイフを握りしめたまま、その場に立ち尽くしていた。彼の復讐は、終わった。だが、彼の心には、虚しさだけが残っていた。彼は、自分の手で、もう一人の人間を殺してしまった。


その瞬間、コウは、自分がもう、二度と元の世界に戻れないことを悟った。彼は、この無法都市で生きていくしかない。


復讐を終えたコウは、静かに倉庫を後にした。彼は、この街の暗部を、そして自分自身の心の闇を、深く知ることになった。


復讐を終えた交渉人コウの、新たな戦いが、今、始まる。

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