第二十九話:夜明け前の銃声
夜明け前の空気は、冷たく、そして湿っていた。廃ビルの屋上、コウ、ジェイク、そしてメイファンは、街の夜景を見下ろしながら、次の動きを協議していた。
「ゾーイは、アジトが襲撃されたことを知って、すぐに別の場所に拠点を移すだろう。」
コウが手に持ったタブレットを操作しながら、冷静に分析する。彼の指が画面を滑るたびに、いくつものデータが瞬時に更新されていく。
「やつらは、データ消去の件で、しばらくは身動きが取れないはずだ。今のうちに、ゾーイの居場所を突き止めないと。」
ジェイクが、サブマシンガンの弾倉を確かめながら呟く。彼の目は、獲物を狙う鷹のように鋭かった。
メイファンは、リボルバーのシリンダーを回転させ、弾丸を一本ずつ確認していた。彼女の指先は、まるで楽器を奏でるように滑らかだった。
「奴らの行動パターンを予測するしかないわね。ゾーイの組織は、常に最新の情報技術に依存している。コウ、何か手がかりはない?」
コウは、タブレットの画面に映し出された地図を拡大した。
「ゾーイの組織が持つサーバーは、全て暗号化されている。だが、データ消去の際に、一瞬だけ残った通信記録を解析した。彼女は、ある特定の場所に何度もアクセスしている。これは、彼女がその場所を非常に重要視していることを示している。」
コウが、地図上のとある座標を指し示す。そこは、街の地下に広がる廃墟となった地下鉄の駅だった。
「地下鉄の駅か。隠れるにはもってこいだな。」
ジェイクが頷く。
「ただし、罠の可能性が高い。ゾーイは、私たちの行動を先読みしている。彼女は、私たちがここに来ることを、最初から知っていたのかもしれない。」
コウが警告する。
「上等じゃない。罠だと分かっていれば、こっちもやりようがある。」
メイファンが不敵な笑みを浮かべた。彼女は、リボルバーをホルスターに収め、代わりに腰に下げた二丁拳銃を構えた。彼女が構えるのは、カスタムされたコルト・パイソンと、スミス&ウェッソンM29だ。どちらも大口径の弾薬を使う強力な銃だ。
「行くぞ。だが、今回は慎重に行動する。メイファン、君は先陣を切るな。ジェイク、君はコウを護衛してくれ。私は、このタブレットで、君たちを援護する。」
コウが、各々の役割を再確認した。
3人は、地下鉄の駅へと向かった。そこは、何十年も前に廃止された場所だった。コンクリートの壁はひび割れ、鉄骨は錆びつき、不気味な雰囲気を醸し出している。
「…静かすぎるな。」
ジェイクが、サブマシンガンを構え、周囲を警戒する。
その時、メイファンの耳元のインカムから、微かなノイズが聞こえてきた。
「コウ、ジェイク、聞こえる?敵が待ち伏せしているわ。おそらく、私たちが来るのを分かっていたのね。」
メイファンが、静かに警告する。彼女は、銃を構え、影の中に身を潜めた。
パンッ!
乾いた銃声が響き渡る。メイファンの撃った銃弾は、ジェイクの頭上をかすめ、彼の後ろにいた敵の頭部を貫いた。
「おっと、助かったぜ。」
ジェイクが驚きの表情で呟く。
「油断しないで。本番はこれからよ。」
メイファンが微笑む。彼女の言葉通り、四方八方から、銃弾が降り注いできた。
タタタタタタタタタ…!
敵は、アサルトライフルやサブマシンガンを連射してくる。壁のコンクリートが砕け散り、粉塵が舞い上がる。
コウは、タブレットの画面に、敵の位置をマーキングしていく。
「敵は、全部で20人。三つの方向から、私たちを包囲しようとしている。ジェイク、右側の敵を頼む。メイファン、君は左側の敵を頼む。私は、この場で、君たちをサポートする。」
コウが、素早く指示を出す。
ジェイクは、サブマシンガンを構え、右側の敵に向かって突進していく。
「覚悟しな!」
ジェイクが叫ぶと同時に、サブマシンガンを連射した。
タタタタタタタタタ…!
銃弾が敵の体を次々と貫き、敵は悲鳴を上げながら倒れていく。ジェイクは、敵の隙をついて、素早く身をかわし、次の敵を狙う。彼の銃撃は、まさに嵐のようだった。
一方、メイファンは、左側の敵に向かい、二丁拳銃を構えた。
「さあ、ダンスの時間よ。」
メイファンが呟くと、彼女は、まるでバレエを踊るかのように、軽やかに敵の間を駆け抜けていく。
パンッ、パンッ!
コルト・パイソンとスミス&ウェッソンM29が、交互に火を噴く。大口径の銃弾は、敵の体を吹き飛ばし、血しぶきが舞い散る。メイファンの銃撃は、正確無比だった。彼女は、敵の頭部や心臓を狙い、一撃で仕留めていく。
「くそっ、あいつら、化け物か!?」
敵の一人が叫ぶ。
「コウ、後ろの敵を頼む!」
ジェイクが叫ぶ。彼の背後から、新たな敵が現れ、彼を狙っていた。
コウは、タブレットの画面に映し出された敵の位置を確認すると、素早くポケットから拳銃を取り出し、発砲した。
パンッ!
その銃声は、メイファンのものとは異なり、静かで、重い音がした。銃弾は、敵の心臓を正確に貫いた。
3人は、激しい銃撃戦を繰り広げながら、徐々に奥へと進んでいく。敵は、次々と現れるが、彼らの連携の前に、次々と倒されていった。
その時、メイファンの足元に、手榴弾が転がってきた。
「手榴弾だ!」
ジェイクが叫ぶ。
メイファンは、手榴弾を拾い上げると、素早く敵のいる場所へと投げ返した。
ドォォォン!
轟音と共に、手榴弾が爆発する。敵は、爆風に吹き飛ばされ、悲鳴を上げながら倒れていく。
「…ふう。これくらい、どうってことないわ。」
メイファンが、額の汗を拭いながら、微笑んだ。
3人は、地下鉄の駅の奥、秘密の通路へとたどり着いた。そこは、ゾーイの組織が、秘密裏に使う隠し部屋だった。
「…ここが、ゾーイの隠し場所か。」
コウが呟く。
扉は、厳重にロックされていた。コウは、タブレットを扉に接続し、ハッキングを開始する。
「パスワードは、複雑すぎる。解読に時間がかかる。」
コウが集中した声で言う。
その時、背後から、新たな敵が現れた。彼らは、ゾーイの親衛隊だった。彼らの装備は、これまでとは比べ物にならないほど強力で、全身をアーマーで覆っていた。
「…厄介なのが出てきたな。」
ジェイクが、サブマシンガンを構え、呟く。
「ジェイク、私が時間を稼ぐわ。コウを頼む。」
メイファンは、二丁拳銃を構え、親衛隊に向かって突進していった。
パンッ!パンッ!パンッ!
メイファンの銃弾が、親衛隊のアーマーに命中するが、弾かれてしまう。
「…なんてこと!」
メイファンが驚きの表情を浮かべる。
「そのアーマーは、特殊な合金でできている。普通の銃弾では貫通できない。」
コウが警告する。
「そう…。なら、これしかないわね。」
メイファンは、そう言うと、二丁拳銃をホルスターに収め、代わりに、腰に下げていた特別な銃を取り出した。それは、カスタムされた、バレットM82A1対物ライフルだった。
メイファンは、バウレットM82A1を構え、親衛隊に照準を合わせた。彼女の目は、獲物を狙う鷹のように鋭かった。
「お前らのアーマーなんて、紙切れ同然よ。」
メイファンが微笑むと、引き金を引いた。
ドドォォォン!
重く、そして鈍い発砲音が、地下鉄の駅に響き渡る。銃弾は、親衛隊のアーマーを貫通し、敵を吹き飛ばした。
「…なんだと!?」
親衛隊のリーダーが、驚きの表情で叫ぶ。
メイファンは、バレットM82A1を連射し、次々と親衛隊を倒していく。彼女の銃撃は、正確無比だった。敵は、彼女の姿を捉えることができず、ただ恐怖に震え続ける。
その時、扉のロックが解除された。
「コウ、ありがとう!」
ジェイクが叫ぶ。
「急げ!ゾーイは、もうすぐここに来る!」
コウが叫ぶ。
3人は、扉の中へと駆け込んだ。




