第二十三話：嵐の後の静寂
通信塔での銃撃戦は、一瞬にして静寂を切り裂いた。ジェイクは、デザートイーグル.50AEを携えた男に銃口を向けられ、全身の筋肉が硬直するほどの恐怖に襲われていた。その男の瞳は、まるで感情を持たない死んだ魚のようで、そこに映るのはジェイクの姿だけだった。男は、ただ静かに引き金を引いた。パーン！という、雷鳴のような銃声が、闇夜に轟く。銃弾は、ジェイクの頭部をわずかにかすめ、背後の分厚いコンテナに命中した。銃弾がコンテナを貫通し、大きな穴を開ける。その一発の銃弾が放つ圧倒的な破壊力に、ジェイクは息をのんだ。その銃は、単なる武器ではなく、男の冷酷な意思そのものだった。
ジェイクは、床に転がっていたAK-47を拾い上げ、男に向かって発砲した。その銃は、彼の手に馴染まず、反動で銃身が大きく跳ね上がった。しかし、男は、その銃弾をまるで予期していたかのように、軽やかなステップでかわした。彼は、まるで踊るように、銃弾の雨を避けていく。その動きは、人間離れしていた。再び男は、ジェイクに銃口を向けた。
その時、廃ビルの屋上から、メイファンが二丁のCZ Shadow 2 Carryを構え、男に向かって発砲した。彼女の銃声は、まるでオーケストラの指揮者のように、正確なリズムを刻む。男は、メイファンの銃弾を避けようと、身をかがめた。その一瞬の隙を突き、ジェイクは通信塔の内部へと飛び込んだ。
通信塔の内部は、静寂に包まれていた。血の匂いと硝煙が混じり合い、むせかえるような空気が充満している。床には、複数の傭兵たちが倒れていた。その中央には、コウが立っていた。彼の右腕には、M24 SWSスナイパーライフルが握られており、その銃身からは、まだ硝煙の匂いが立ち込めている。コウの瞳は、まるで遠い星を眺めているかのように、静かに澄んでいた。
「コウ、大丈夫か！？」ジェイクは、コウの肩を掴み、安堵の息を吐いた。
「ああ、大丈夫だ。ギリギリだったがな…」コウは、苦笑いを浮かべた。「奴らは、俺が中にいることを知っていた。罠だったんだ」
コウは、通信塔の内部に侵入してきた傭兵たちを、冷静に、一人、また一人と、正確な射撃で仕留めていったのだ。彼の射撃は、M24 SWSスナイパーライフルの特性を最大限に活かしたものだった。狭い空間では不利なはずのライフルを、彼はまるで拳銃のように扱い、一撃必殺の精密な射撃で、敵を次々と無力化していた。彼は、まるで死の舞踏を踊るかのように、銃弾を操っていた。
「奴らのリーダー…、デザートイーグルを持った男が、向かってくる」コウは、ジェイクに告げた。「奴は、ただの傭兵じゃない。プロの暗殺者か…、あるいは、それ以上の何かだ。奴には、我々が知っているどの戦闘技術とも違う、異質な何かがある」
その時、通信塔の入り口から、ゾーイが、負傷した右腕を押さえながら姿を現した。彼の顔には、怒りと屈辱の表情が浮かんでいた。
「ジェイク、コウ…、お前たちを…、絶対に許さない…」ゾーイは、そう言って、部下の傭兵たちと共に、通信塔から撤退していった。彼の瞳には、憎悪の炎が燃え上がっていた。
ジェイクは、ゾーイの言葉に、深い警戒心を抱いた。ゾーイは、ただのギャングではない。彼の背後には、強大な組織が存在している。そして、その組織には、デザートイーグルを携えた、謎の男がいる。
通信塔の屋上に戻ると、メイファンが、心配そうな顔でジェイクを見つめていた。彼女の顔には、疲労の色が濃く出ていた。
「ジェイク…、あの男…、一体、何者なんだ？」メイファンが、震える声で尋ねた。
「分からない…、だが、奴は…、ただの傭兵じゃない。ゾーイよりも、もっと危険な存在だ。まるで、俺たちと同じ、いや、それ以上の訓練を受けている…」
ジェイクは、そう言って、通信塔の屋上から、街の夜景を見下ろした。遠くの空には、稲妻が走り、嵐が近づいていることを予感させている。彼らは、ゾーイの傭兵部隊の圧倒的な実力と、新たな敵の出現という、深い影を背負うことになった。
その夜、アジトに戻ったジェイクは、コウとメイファンと共に、今回の戦闘の反省会を開いた。
「俺たちが通信塔にいたことを、奴らは知っていた…」ジェイクは、テーブルに置かれた地図を指差しながら言った。「内通者がいる…、あるいは、我々の行動を予測できるほどの情報分析能力を持っている」
「情報分析能力か…」コウが、深く考え込む。「だとすると、奴らは我々の行動パターンを徹底的に研究していることになる。我々の次の行動も、読まれているかもしれない」
「となると…、しばらくは、大規模な情報収集活動は控えるべきね」メイファンが、冷静に判断を下した。「奴らは、私たちが最も警戒していない場所を狙う。今度は、私たちの拠点…、このアジトが狙われるかもしれない」
ジェイクは、メイファンの言葉に同意した。彼らは、このアジトを放棄し、別の隠れ家を探す必要がある。しかし、それは、彼らがこれまで築き上げてきた情報網を、一時的に放棄することを意味する。
「しかし、それでは…」ジェイクが、言葉を詰まらせた。
「仕方ないわ。安全を確保するためには、必要な犠牲よ」メイファンは、きっぱりと言った。「このアジトには、貴重な資料もたくさんある。全てを捨てていくわけにはいかないわ」
「そうだな…」ジェイクは、テーブルに置かれた資料に目を向けた。「この資料こそが、奴らが本当に欲しがっているものだ。これを守り抜くことが、俺たちの使命だ」
その時、コウが、静かに口を開いた。「俺は…、あのデザートイーグルの男に、見覚えがある」
ジェイクとメイファンは、驚いてコウを見た。
「あの男は、かつて俺が所属していた部隊の…、同期だ」コウは、そう言って、深い悲しみを帯びた目で、遠い過去を思い出した。「奴は…、俺よりもずっと優秀な、最強の兵士だった」
その言葉に、ジェイクとメイファンは、言葉を失った。コウの過去、そしてゾーイの傭兵部隊のリーダーが、コウの同期だったという事実が、彼らの間に、深い衝撃を与えた。
ゾーイの傭兵部隊のリーダーが、コウの同期だったという事実が明らかになり、この戦いは、単なるギャングの抗争ではなく、彼らの個人的な因縁も絡んだ、より複雑なものへと変化していく。そして、彼らが次に取るべき行動は、資料を死守しつつ、新たな隠れ家を探すこと。嵐の前の静寂は、もう終わっていた。
