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第二十話:血の降る夜

ポート・ノーウェアの街は、いつもよりずっと静かだった。重く垂れ込めた雲が、街灯の光を鈍らせ、濡れたアスファルトにぼんやりとした光の輪を描き出す。その静寂を破るかのように、廃ビル群の迷路のような路地裏で、ジェイク率いるレイス商会の運び屋チームと、ゾーイが雇った武装集団との間で、緊迫した睨み合いが続いていた。湿った空気が、火薬の匂いを運び、微かに鉄の臭いが混じっている。


「ジェイク、奴らが動く気配だ」


コウの低い声が、ヘッドセットを通じて響く。彼の双眼鏡のレンズ越しに、廃ビルの影から、複数の人影がちらつくのが見えた。彼らは、暗視装置を装着し、手にはアサルトライフルを握っている。


「メイファン、お前の仕事だ」ジェイクは、そう言って、コウに銃を構える合図を送った。


「ハッ、俺の『双銃言葉』をぶっ放す時が来たってわけか」メイファンは、腰のホルスターから二丁のグロック17を抜き、不敵な笑みを浮かべた。彼女の指は、まるでピアノを弾くかのように、トリガーに吸い付く。


その瞬間、銃撃戦の火蓋が切って落とされた。最初に動いたのは、ゾーイの部下たちだった。彼らは、ビルから一斉に飛び出し、路地を挟んでレイス商会チームに向けて、掃射を開始した。


「伏せろ!」ジェイクが叫んだ。


機関銃のけたたましい音が、夜の静寂を切り裂く。銃弾が、コンクリートの壁に衝突し、火花を散らす。パチパチという甲高い音とともに、コンクリート片が飛び散り、土埃が舞い上がる。ジェイクは、間一髪でゴミ箱の陰に身を隠した。彼の頭上を、銃弾がまるで蜂の群れのように通り過ぎていく。


「くそっ、数が多すぎる!」コウが叫んだ。彼は、ビルの屋上から、狙撃銃で敵を狙っていた。しかし、敵は、建物や車の陰に隠れ、コウの視界を遮っていた。


「メイファン、行くぞ!」ジェイクは、そう叫び、ゴミ箱の陰から飛び出した。


メイファンは、まるで舞を舞うかのように、軽やかに路地を駆け抜ける。彼女は、左手のグロックで、敵の注意を引きつけ、右手のグロックで、正確に敵の頭部を狙撃する。パン、パン、という乾いた音が響き、敵の部下たちが次々と倒れていく。彼らのヘルメットに銃弾が当たり、鈍い音を立てて砕ける。血が、アスファルトの上に、赤いしみを広げていく。


「ハッ、俺の『双銃言葉』は、お前らの通信なんかじゃ止められねえんだよ!」メイファンは、叫び、敵の部下の一人を、頭部を正確に撃ち抜いた。


その時、一人の敵が、メイファンの背後から現れた。彼は、ライフルを構え、メイファンに狙いを定めた。メイファンは、その気配に気づき、素早く身を翻し、銃を構えようとした。しかし、敵のライフルの方が、わずかに速かった。


「メイファン、危ない!」ジェイクが叫んだ。


ジェイクは、瞬時にライフルを構え、敵の部下を撃ち抜いた。銃弾は、敵の部下の胸を貫き、壁に叩きつける。その衝撃で、敵のライフルが地面に落ち、甲高い音を立てた。


「助かったぜ、ジェイク!」メイファンは、そう言って、敵の部下を倒し、ジェイクに笑顔を見せた。


「こんな場所で死なれてたまるか」ジェイクは、そう答え、再びゴミ箱の陰に身を隠した。


コウは、ビルの屋上から、敵の部隊を観察していた。彼は、敵の指揮官が、手旗信号で部下たちに指示を出しているのを発見した。


「ジェイク、敵の指揮官は、ビルの屋上にいる。奴を倒せば、奴らの連携は崩れるはずだ」コウが叫んだ。


「わかった。コウ、お前は、敵の注意を引きつけてくれ」ジェイクは、そう言って、コウに合図を送った。


コウは、敵の指揮官に向かって、狙撃を開始した。パン、パン、パン、という銃声が響き渡る。銃弾は、指揮官の周囲の壁にめり込み、火花を散らす。指揮官は、コウの攻撃に気づき、身を隠そうとした。


その瞬間、ジェイクは、ビルの壁を登り始めた。彼は、まるで蜘蛛のように、ビルの壁をよじ登り、屋上へと向かう。彼の動きは、人間離れしていた。


屋上にたどり着いたジェイクは、敵の指揮官に向かって、飛びかかった。指揮官は、ジェイクの接近に気づき、銃を構えようとした。しかし、ジェイクの動きの方が、わずかに速かった。ジェイクは、指揮官の喉元に、ナイフを突きつけた。


「降伏しろ。さもないと、お前の部下たちは、全員、死ぬことになる」ジェイクは、低い声で言った。彼の瞳は、暗闇の中で、鋭く光っていた。


指揮官は、ジェイクの言葉に、恐怖を感じた。彼は、ジェイクの言葉に従い、部下たちに、降伏するよう命じた。


「くそっ、覚えてろよ、レイス商会!」指揮官は、そう叫び、ジェイクに手を上げた。


ジェイクは、指揮官を解放し、コウとメイファンに合図を送った。コウとメイファンは、敵の部下たちを武装解除させ、縛り上げた。


今回の銃撃戦は、レイス商会の完全な勝利に終わった。しかし、ジェイクは、喜んでいなかった。彼の顔には、疲労と、深い憂いが浮かんでいた。


「ゾーイ…、このままでは、いつか、俺たちは、本当にこの街の均衡を崩してしまうかもしれない」ジェイクは、そう言って、空を見上げた。


血の降る夜は、まだ終わっていなかった。彼らの戦いは、これからが本番だった。

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