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第百三十七話:夜明けの航海


ポート・ノーウェアのドームを覆っていた狂乱の銃声は、嘘のように静寂に包まれていた。ケンジの計画は瓦解し、彼の部下たちは武装解除され、倒れ伏している。巨大なスクリーンに映し出されていた廃工場の炎もいつの間にか鎮火している。残されたのは、硝煙と血の匂いが混じり合った、重苦しい静寂だけだった。


コウは、ジェイクの体を強く抱きしめていた。ケンジの銃弾を胸に受けたはずのジェイクだが、メイファンが咄嗟に投げつけた空のマガジンが、わずかに軌道を変えてくれたらしい。銃弾は防弾ベストを弾いた後、肋骨を掠めていた。激しい痛みはあるものの、命に別状はない。コウは、ジェイクの肩を強く、強く叩いた。


「…俺は、また、お前を信じちまったな、馬鹿野郎」


コウは、安堵と悔しさが入り混じった声で呟いた。ジェイクは何も言わず、ただコウの背中に顔をうずめて、むせび泣いていた。その震える背中を、コウは強く、強く叩いた。


背後で、イリーナがゆっくりと立ち上がる。ケンジに撃たれた左肩から血が滲んでいたが、彼女の表情は、驚くほど穏やかだった。


「…コウ、ジェイク、ありがとう」


イリーナは、そう言って、深々と頭を下げた。その姿は、この街の支配者としての威圧感は一切なく、ただの、傷ついた一人の女性だった。マルタが駆け寄り、手持ちの救急キットでイリーナの傷の手当を始めた。クロエは、倒れている仲間たちの安否を確認し、ホアキンは、静かにタブレットを操作し、ドームの全システムの再起動を試みていた。


その時、ホアキンが、無線機を持って駆け寄ってきた。


「コウ! 北部から向かっていた四橋重工の部隊が、急に引き返していくと!」


ホアキンは、驚きと安堵が入り混じった声で言った。


「なんだと…?」


コウは、ホアキンに尋ねた。


「どうやら、ドーム内で戦闘ヘリが墜落したことで、上層部から一時撤退命令が出たようです! 現場の司令官も負傷した模様と…」


ホアキンの言葉に、コウは胸を撫で下ろした。しかし、安堵は一瞬で消え去った。


「…一時撤退、か。向こうは、ドームの全システムを掌握しようとしていた。それが失敗したから、一旦体制を立て直すつもりだろう。また、来る…」


コウは、静かに、だが明確な声で言った。その言葉に、誰もが沈黙した。四橋重工は、ケンジのような私兵ではなく、正規の軍隊だ。彼らが本気を出せば、ドームの防衛は不可能に近い。


その時、ジェイクが、ゆっくりと立ち上がった。彼の顔には、安堵と、悔しさが入り混じった複雑な表情が浮かんでいた。


「…コウ。俺は…お前たちを、この街から出してやる」


ジェイクは、そう言って、コウを見つめた。


「どういうことだ、ジェイク…?」


コウは、ジェイクに尋ねた。


「俺の船で、だ。ドームの外にある、俺の隠しポートへ行けば、誰にも見つからずにこの街を出られる」


ジェイクは、そう言って、コウたちに、港の奥にある小さな入り江を指差した。その入り江には、迷彩柄のカバーで覆われた、小型の高速艇が隠されていた。それは、ジェイクが、この街に閉じ込められる前から、脱出のために密かに用意していた船だった。


「…ジェイク。お前…」


コウは、ジェイクに何も言えなかった。


「コウ。お前は、この街に残るんだ。そして、この街を、お前の手で、守り抜くんだ」


ジェイクは、コウの肩に手を置き、言った。その言葉に、コウは、静かに頷いた。


「…だが、俺たちだけじゃ、四橋重工の正規部隊には…」


コウは、そう言って、躊躇した。


「大丈夫だ。俺たちは、もう、お前たちの捨て駒じゃない」


メイファンが、そう言って、コウの背中に手を置いた。彼女の顔には、この数日の疲労と、そして、戦場を生き抜いた者としての、強い決意が浮かんでいた。


「メイファン…」


コウは、メイファンに感謝の意を込めて言った。


「コウ。俺たちは、この街を守る。お前が、この街にいる限り、俺たちは…!」


ジェイクは、そう言って、コウの背中を強く叩いた。


「…ジェイク。ありがとう…」


コウは、ジェイクに感謝の意を込めて言った。


「おい、ジェイク! お前、どうするんだよ!?」


メイファンが、苛立ちを隠せない様子で叫んだ。


「俺は、お前たちと一緒に、この街に残る。俺は…もう、逃げない」


ジェイクは、そう言って、メイファンをまっすぐ見つめた。メイファンの瞳は、怒りの炎を揺らしながらも、やがて静かに頷いた。


その時、クロエが、コウに駆け寄ってきた。彼女の顔には、涙と、そして、安堵の表情が浮かんでいた。


「コウ…もう…いいの…?」


クロエは、かすれた声で尋ねた。


「ああ。もう…終わりだ」


コウは、そう言って、クロエの頭を優しく撫でた。


「…ねえ、コウ…私…本当に…」


クロエは、コウに、何かを言おうとして、言葉に詰まった。


「…クロエ。俺は、お前を信じている」


コウは、そう言って、クロエを強く抱きしめた。クロエは、コウの胸に顔をうずめて、むせび泣いた。


その時、マルタが、コウに駆け寄ってきた。彼女の顔には、疲労と、そして、安堵の表情が浮かんでいた。


「コウ…ホアキン…」


マルタは、コウに、何かを言おうとして、言葉に詰まった。


「マルタ。大丈夫だ。もう…終わりだ」


コウは、そう言って、マルタの頭を優しく撫でた。


「…ねえ、コウ…私…本当に…」


マルタは、コウに、何かを言おうとして、言葉に詰まった。


「…マルタ。俺は、お前を信じている」


コウは、そう言って、マルタを強く抱きしめた。マルタは、コウの胸に顔をうずめて、むせび泣いた。


その時、ホアキンが、コウに駆け寄ってきた。彼の顔には、疲労と、そして、安堵の表情が浮かんでいた。


「コウ…もう…いいの…?」


ホアキンは、かすれた声で尋ねた。


「ああ。もう…終わりだ」


コウは、そう言って、ホアキンの頭を優しく撫でた。


「…ねえ、コウ…私…本当に…」


ホアキンは、コウに、何かを言おうとして、言葉に詰まった。


「…ホアキン。俺は、お前を信じている」


コウは、そう言って、ホアキンを強く抱きしめた。ホアキンは、コウの胸に顔をうずめて、むせび泣いた。


その時、ジェイクが、コウたちに言った。


「コウ。もう、時間がない。四橋重工の残党が、この場所に戻ってくる可能性がある」


コウは、ジェイクの言葉に、静かに頷いた。彼は、クロエ、マルタ、ホアキンを抱きしめ、言った。


「…皆。ありがとう。お前たちを、俺は、一生忘れない」


コウは、そう言って、彼らをジェイクの船へと向かわせた。


「…コウ…さようなら…!」


クロエは、そう言って、コウに微笑んだ。


「クロエ…」


コウは、クロエの名を呼び、静かに涙を流した。


「…コウ…さようなら…!」


マルタは、そう言って、コウに微笑んだ。


「マルタ…」


コウは、マルタの名を呼び、静かに涙を流した。


「…コウ…さようなら…!」


ホアキンは、そう言って、コウに微笑んだ。


「ホアキン…」


コウは、ホアキンの名を呼び、静かに涙を流した。


船が、ゆっくりと動き出す。朝日が差し込む海を、船は静かに進んでいく。船の甲板には、クロエ、マルタ、ホアキンが、コウに手を振っていた。コウは、彼らの姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。


そして、コウは、ジェイクとイリーナ、そして、残された市民たちと共に、新たな夜明けを迎える。誘拐事件は、こうして、幕を閉じた。しかし、それは、新たな戦いの始まりに過ぎなかった。

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