第百三十五話:最後の選択、二つの希望
ドームの中央、コウとジェイクの銃口が互いの心臓を正確に狙い、緊張が極限まで高まっていた。FN SCARの.308口径弾が装填されたコウの銃と、ジェイクのM4カービンが放つ5.56mm弾。どちらも一撃で命を奪うことができる。しかし、コウは引き金を引くことができなかった。目の前の男は、イリーナの洗脳下にあるとはいえ、最も信頼する仲間だった。
「ジェイク! どけ! そいつは、お前を騙している!」
コウの叫びに、ジェイクの瞳がわずかに揺らぐ。だが、その一瞬の迷いは、すぐに憎しみの炎に掻き消された。
「黙れ! コウ! 俺は、イリーナ様を信じる! お前を…お前を倒す!」
ジェイクの指がゆっくりと引き金にかかる。彼の指の動きに、コウの脳裏に過去の記憶がフラッシュバックした。ポート・ノーウェアの夕暮れ、ジェイクと二人で酒を酌み交わした夜。街を、仲間たちを守ると誓い合った日。
ドォォォン!!
その時、ドームの奥で激しい爆発音が響いた。ホアキンが、ケンジの部下が投げてきた手榴弾を、サブマシンガンの連射で空中爆破させたのだ。爆風と硝煙がドーム全体に広がり、視界が遮られる。
「今だ! 伏せろ!」
ホアキンの叫びに、市民たちが一斉に地面に伏せる。メイファンは素早くM4カービンのマガジンを交換し、叫んだ。
「ジェイク! 何やってんだ! 早く逃げろ!」
彼女は銃身を安定させ、正確な単発射撃でジェイクの横に弾丸を放ち、彼を動揺させようと試みる。
「メイファン、やめろ!」
コウは叫んだ。ジェイクに怪我をさせるわけにはいかない。彼はジェイクのM4カービンが放つ、耳をつんざくような弾丸の音を避けながら、どうにかジェイクの洗脳を解く方法を探した。
パン!パン!
コウは、ジェイクの頭上と足元に、警告射撃を放つ。FN SCARの迫力ある銃声が、ドーム全体に響き渡り、ジェイクの顔から一瞬、狂気が消えた。
「コウ…!」
ジェイクが、コウの名を呼んだ。その瞳に、一瞬の正気が戻る。
「ジェイク! 思い出すんだ! 俺たちは、兄弟だろう!」
コウは、そう言って、FN SCARを地面に置いた。銃撃戦の最中、武器を捨てるという行為は、自殺行為に等しい。だが、コウは、ジェイクを信じた。
「コウ…なんで…なんで銃を…!」
ジェイクは、戸惑いながら、コウに尋ねた。
「俺は、お前を殺せない。俺は、お前を信じている。お前は、俺たちの仲間だ」
コウの言葉に、ジェイクの瞳から大粒の涙が流れ落ちた。彼は、苦悶の表情で頭を抱え、M4カービンが手から滑り落ちる。その瞬間、ジェイクは完全に正気を取り戻した。
「コウ…! 俺は…俺は…!」
ジェイクは、コウに駆け寄り、彼の体を抱きしめた。コウは、ジェイクの背中を強く叩き、言った。
「馬鹿野郎…俺は、お前を信じてたぜ…」
二人が再会を喜び合っているその時、背後から冷酷な声が響いた。
「…感動の再会ね。でも、これで終わりよ」
イリーナが、コウとジェイクに銃口を向けていた。彼女の手には、FN Five-seveNが握られている。その銃口は、コウの頭部を正確に狙っていた。
「イリーナ!」
ジェイクは、イリーナに叫んだ。だが、イリーナは、ジェイクの言葉に耳を傾けようとしなかった。
「コウ。残念だったわね。あなたは、私に勝つことはできない。なぜなら…」
その時、倒れていたはずのケンジが、ゆっくりと立ち上がった。彼の右手には、FN Five-seveNの予備弾倉が握られている。彼は、イリーナの背後に回り込み、ニヤリと笑った。
「イリーナ。お前の計画は、俺が…阻止する」
ケンジは、そう言って、イリーナの背中に銃口を押し付けた。イリーナは、驚愕の表情を浮かべ、ケンジを振り返った。
「ケンジ! なんで…!」
「イリーナ。お前は、俺を裏切った。渡部博士のクローン技術、そして、このドームを手に入れれば、俺は、この世界を支配できる。だが、お前は、俺を裏切った。だから…」
ケンジは、そう言って、引き金を引いた。
パン!
乾いた銃声がドームに響き渡る。だが、銃弾はイリーナの背中ではなく、ケンジの左腕を貫いた。イリーナは、苦悶の声を上げ、床に倒れ込んだ。
「…ケンジ…なんで…!」
イリーナは、ケンジを睨みつけ、言った。
「イリーナ。お前は、本当に…」
ケンジは、そう言って、イリーナのFN Five-seveNを奪い、コウとジェイクに銃口を向けた。
「コウ。ジェイク。お前たちは、渡部博士の最高傑作だ。俺の手に、お前たちを…」
ケンジの言葉が終わる前に、ドームの巨大な扉が、再び開いた。そこには、武装した警察官たちが、整然と隊列を組んで立っていた。彼らは、ケンジに銃口を向け、言った。
「ケンジ! 観念しろ! お前は、テロリズム、そして、殺人未遂の罪で、逮捕する!」
警察官の言葉に、ケンジは絶望的な表情を浮かべた。彼は、最後の悪あがきとばかりに、コウに銃口を向けた。
「コウ! お前を…お前を道連れにしてやる!」
その時、ホアキンが、サブマシンガンをケンジに投げた。ケンジは、反射的にそれを掴んだ。その隙に、コウは、ケンジに飛びかかった。
ドォォォン!!
コウとケンジはもつれ合い、床に倒れ込む。コウは、ケンジのFN Five-seveNを奪い、それを投げ捨てた。ケンジは、コウの首を締め、言った。
「コウ…! 俺は…俺は、この世界を…!」
ケンジの言葉が終わる前に、コウは、ケンジの顔に、自分の顔を近づけ、言った。
「…ケンジ…もう、終わりだ…」
コウは、そう言って、ケンジの顔に、自分の顔を近づけ、言った。
その言葉に、ケンジは、絶望的な表情を浮かべた。彼の瞳から、力が抜けていく。
その時、警察官たちが、ケンジに手錠をかけた。ケンジは、何も答えることができなかった。
「コウ! 大丈夫か!」
メイファンが、コウに駆け寄った。彼女の顔には、安堵と怒りが入り混じった複雑な表情だった。
「ああ。もう大丈夫だ…」
コウは、そう言って、安堵の息を吐いた。
その時、ジェイクが、コウの肩を叩き、言った。
「コウ…ありがとう…」
コウは、ジェイクの言葉に、静かに頷いた。彼は、ジェイクを抱きしめ、言った。
「ジェイク。お前は、俺の期待を裏切らなかった…」
ジェイクは、コウの言葉に、静かに涙を流した。
その時、イリーナが、コウたちに銃口を向けた。
「…コウ…私は…どうなるの…?」
イリーナは、コウに尋ねた。
「イリーナ。お前は、これから…俺たちと一緒に、この街を、本当の楽園にするんだ」
コウは、そう言って、イリーナに微笑んだ。
イリーナは、コウの言葉に、静かに頷いた。彼女の目には、希望の光が浮かんでいた。




