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第百三十話 終局の始まり、イリーナの哄笑


イリーナの最後の砦、巨大なドーム状の空間は、張り詰めた緊張感で満ちていた。コウ、メイファン、ホアキン、クロエ、マルタの五人は、武装したイリーナと、彼女を守る精鋭の護衛たちに囲まれていた。イリーナは、その手に握られたFN Five-seveNをコウに向け、冷たい笑みを浮かべたまま、静かに言った。


「…やれるものなら、やってみなさい」


その言葉は、まるでコウのこれまでの苦労と決意を嘲笑うかのように、ドームの壁に反響した。それを合図に、護衛たちが一斉に銃を構える。彼らが手にしているのは、最新鋭の短機関銃H&K MP7。その銃口が、コウたち全員に向けられている。


「コウ、どうする!?」


クロエが叫んだ。彼女の顔は、焦りと怒りで歪んでいる。この状況を打破するには、イリーナを無力化するしかない。だが、彼女は強固な防弾服を身につけている。通常の弾丸では歯が立たないことは、これまでの経験から明白だった。


コウは、護衛たちの配置を冷静に観察した。彼らはイリーナを守るように円陣を組んでいる。その中心にイリーナが立つ完璧な防御陣形。この鉄壁の守りを崩すには、一か八かの賭けに出るしかないと悟った。


「俺が、囮になる。お前たちは、その隙を突け!」


コウはそう叫ぶと、手に持っていたFN SCARをあえて床に放り投げた。金属製の銃が、重く、鈍い音を立てて床に転がる。その意外な行動に、イリーナと護衛たちは一瞬、警戒を解いた。彼らの銃口は、コウの頭から逸れ、警戒の視線が、床に転がった銃へと向けられた。


「…何を企んでいるの、コウ?」


イリーナが眉をひそめた。その声には、まだ余裕が感じられる。


その一瞬の隙に、コウは懐から別の武器を取り出した。それは、彼が以前、ヴィクターから奪ったデザートイーグル.50AEだった。その銃は、彼の手に馴染み、重厚な存在感を放っている。イリーナの顔から、一瞬にして余裕の笑みが消えた。


「…それは…!」


イリーナは、その銃を見て、驚きを隠せないようだった。彼女は、FN Five-seveNを構え直し、コウに銃口を向けた。


「これは、ヴィクターの魂だ! そして、この銃の威力は…お前の完璧な防御を崩す!」


コウはそう叫ぶと、イリーナではなく、彼女の真後ろ、ドームの天井にある巨大な照明装置に向かって、デザートイーグルを発砲した。


ズドォン!!


ドーム全体を揺るがすような、重厚な銃声が轟く。50AE弾の圧倒的な威力は、照明装置を構成する鋼鉄を容易く貫通し、内部の配線を破壊した。巨大な照明装置が火花を散らし、激しい音を立てて落下する。


「なっ…!」


イリーナと護衛たちは、落下してくる照明装置に気を取られ、一斉に上空を見上げた。その一瞬の隙を、コウは見逃さなかった。


「今だ! 行け!」


コウが叫ぶと、クロエとマルタが同時に動き出した。クロエはAA-12を連射し、護衛たちのフォーメーションを破壊する。**ダダダダダダダ!**という機関銃のような怒号が響き渡り、照明装置の落下音と混ざり合い、ドームを戦場の喧騒へと変えた。護衛たちは次々と血を噴き出して倒れていく。


マルタもIzhmash Saiga 12で護衛たちに銃弾の雨を降らせた。彼女の銃弾は、護衛たちの体を吹き飛ばし、ドームに血の華を咲かせた。自動散弾銃の重く、響くような銃声は、MP7の軽快な音をかき消し、敵の連携を断ち切る。


コウは、FN SCARを拾い上げると、照明の破片が飛び散る中、イリーナに駆け寄った。イリーナはまだ、頭上から降り注ぐ照明装置の破片を避けようと、身をかがめている。コウは、その隙を突いて彼女の背後に回り込み、FN SCARを突きつけた。


「…イリーナ、終わりだ」


コウの声に、イリーナはゆっくりと振り返った。その顔には、驚きと、そして微かな敗北の色が浮かんでいるように見えた。


「まさか…たかがサラリーマンに…」


イリーナは、悔しそうに呟いた。


「俺は、ただのサラリーマンだ。そして、この街の支配者でも、新しいボスでもない」


コウは、そう言って、イリーナのFN Five-seveNを奪い取った。彼の表情には、憎しみや怒りではなく、深い疲労と諦めが浮かんでいた。


その時、クロエとマルタが、全ての護衛を倒し、コウのもとに駆け寄ってきた。


「コウ、大丈夫か!?」


クロエが、心配そうに尋ねた。


「ああ。もう大丈夫だ」


コウは、そう言って、安堵の息を吐いた。


「イリーナ様…!」


マルタが、イリーナを睨みつけた。


「マルタ、もういい。この女は、もう何もできない」


コウは、そう言って、マルタを制止した。


コウは、イリーナを縛り上げようと、ロープを取り出した。しかし、その瞬間、イリーナの口元が、わずかに吊り上がった。


「…無駄よ、コウ」


イリーナは、そう呟いた。


「何がだ…!?」


コウは、その言葉に、胸騒ぎを覚えた。


「あなたは、私を捕らえたつもりかもしれないけれど…それは、私にとって、何の痛手でもないのよ」


イリーナは、そう言って、不気味な笑みを浮かべた。その笑みは、コウの心に、深い不安を植え付けた。


その時、ドームの巨大なスクリーンに、ポート・ノーウェアの街の様子が映し出された。そこには、コウたちの拠点である廃工場が、武装した男たちによって包囲されている光景が映し出されていた。


「…な…! まさか…!」


コウは、驚きのあまり、言葉を失った。


「…そうよ、コウ。あなたが、ここに来ることを、私は最初から知っていた。そして、あなたの拠点もね。私が捕らえられても、私の部下たちは、あなたの拠点を制圧するわ」


イリーナは、そう言って、嘲笑うかのように言った。


「くそっ…! なぜだ…! なぜ、俺たちの拠点が…!」


メイファンが叫んだ。


「簡単よ。あなたたちが、船を降りた時から、監視させていたの。私の支配から逃れようとする者は、全て、私の監視下にあるのよ」


イリーナは、そう言って、大声で笑った。


コウは、イリーナの言葉に、絶望的な表情を浮かべた。彼は、イリーナの支配から逃れることはできないと、改めて悟った。この戦いは、最初からイリーナの掌の上で繰り広げられていたのだ。


「…はははははは! 見てごらんなさい、コウ! あなたは、私の掌の上で踊っていたのよ!」


イリーナは、そう言って、高らかに笑った。その笑い声は、ドーム全体に響き渡り、コウたちの心に、深く突き刺さった。コウは、膝から崩れ落ち、ただその笑い声を聞くことしかできなかった。彼の目は、絶望の光で満ちていた。

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