第十三話 裏切り者の裁き
白いシャツに飛び散った血痕が、浩一の心を深く抉っていた。廃墟の屋上で倒れている男の姿が、彼の網膜に焼き付いている。浩一は、この街で生きるための代償を、あまりにも早く、そしてあまりにも重く支払わされたのだ。メイ・ファンは、そんな浩一の背中を無言で見つめている。彼女の瞳には、一切の感情が宿っていなかった。
「お前は、もう、普通のサラリーマンじゃない。お前は、俺たちの仲間だ」
メイ・ファンの言葉が、浩一の耳にこびりつく。その声は、冷たく、そして無慈悲だった。浩一は何も言えなかった。彼の心の中で、何かが崩れ落ちる音がした。その瞬間、浩一は、自分の人生が、もう二度と元に戻らないことを、改めて悟った。
その日の夜、浩一は屋上で一人、ポート・ノーウェアの街を眺めていた。夜空に輝く星は、この街の悪臭にさえぎられ、その光を失っている。街の灯りが、まるで地獄の業火のように見えた。その時、後ろから声がした。
「酒でも飲むか?」
振り返ると、そこには、ジェイクが立っていた。彼は、ウォッカのボトルを片手に、浩一の隣に座った。
「人を殺すのは、慣れたか?」
ジェイクは、浩一に言った。
「まだ、慣れません」
浩一は、正直に答えた。
「当たり前だ。だが、この街じゃ、誰もが人を殺す。お前も、いずれ、慣れるさ」
ジェイクは、そう言って、ウォッカを一口飲んだ。彼の瞳は、夜空の闇のように、深く、そして冷たかった。
「俺は、そんな人間にはなりたくない」
浩一は、ジェイクに言った。
「そんなことは、どうでもいい。お前は、もう、俺たちの仲間だ」
ジェイクは、そう言って、浩一の肩を叩いた。その手は、まるで鉄のように硬かった。
「お前は、もう、普通のサラリーマンじゃない。お前は、俺たちの仲間だ」
浩一は何も言えなかった。その瞬間、浩一は、自分の人生が、もう二度と元に戻らないことを、改めて悟った。
翌日、浩一はジェイクに連れられ、再び街の裏路地へと向かった。そこは、ゴミが散乱し、廃墟となった建物が立ち並ぶ、まさに街の掃き溜めだった。
「ここは、暴力教会の縄張りだ」
ジェイクは、浩一に言った。
「暴力教会?」
浩一は、ジェイクに尋ねた。
「ああ。この街の闇を仕切る、イカれた連中だ」
ジェイクは、そう言って、笑った。その笑いは、まるで悪魔のようだった。
「お前は、ここで、交渉役だ」
ジェイクは、そう言って、浩一にグロック17 Gen5を差し出した。浩一は、銃を受け取った。その重みが、浩一の人生の重みのように感じられた。
「俺は、交渉役だ。交渉役は、銃を撃たない」
浩一は、ジェイクに言った。
「交渉役は、銃を撃たない。だが、交渉役は、銃を突きつけられる。そして、交渉役は、銃を撃つ」
ジェイクは、そう言って、浩一の肩を叩いた。その手は、まるで鉄のように硬かった。
「お前は、もう、普通のサラリーマンじゃない。お前は、俺たちの仲間だ」
浩一は何も言えなかった。彼の心の中で、何かが崩れ落ちる音がした。その瞬間、浩一は、自分の人生が、もう二度と元に戻らないことを、改めて悟った。
暴力教会の礼拝堂は、冷たい空気が張り詰め、静寂に包まれていた。ステンドグラスから差し込む光は、床に散らばる薬莢や血痕を不気味に照らし出している。祭壇には十字架ではなく、無数の銃器が飾られており、その異様な光景に浩一は息をのんだ。
「ようこそ、我が教会へ。あなた様は、どのような御用で?」
祭壇の奥から、女の声が聞こえた。声の主は、黒い修道服をまとった、金髪の女だった。その顔には、慈悲深い笑みが浮かんでいたが、その瞳は、まるで氷のように冷たかった。彼女が手にしているのは、紛れもないグロック19 Gen5だった。
「俺たちのボスに、挨拶に来ただけだ」
ジェイクは、女に言った。女は、シスター・イヴリン。暴力教会の運営者であり、そして、CIAのエージェントだった。
「まあ、神の子たちも歓迎しますわ。ですが、この地は神の赦しなき領域。何か特別な捧げ物が必要でしょう」
シスター・イヴリンは、そう言って、浩一の顔をまじまじと見つめた。その視線は、まるで獲物を品定めするかのようだった。
「面白い顔をしている。まるで、この街には似つかわしくない、純粋な顔だわ。この街の悪臭に染まるには、あまりにも清らかすぎる」
彼女の言葉に、浩一は何も言えなかった。彼の心は、恐怖と絶望で揺れていた。
「こいつは、使える男だ。お前のビジネスに、役立つかもしれないぜ」
ジェイクは、シスター・イヴリンに言った。
「ほう。それは、楽しみですわ」
シスター・イヴリンは、そう言って、浩一に聖書を差し出した。だが、それはただの聖書ではなかった。聖書の中には、数発の弾丸が隠されていた。浩一は、聖書を受け取った。その重みが、浩一の人生の重みのように感じられた。




