第百二十二話 沈む船、そして新たな同盟
船は、まるで生き物のように悲鳴を上げていた。機関室の爆発によって大きく傾き、火花と蒸気を吹き上げながら、ゆっくりと夜の海に沈んでいく。甲板のジェイクの護衛たちは、混乱と恐怖に顔を歪ませ、互いに叫び合った。
「くそっ、何が起こってやがる!?」
「イリーナ様との通信が途絶えました!船が沈みます!」
クロエは、その混乱の隙を見逃さなかった。彼女はAA-12を構え、護衛たちに銃口を向けた。**ダダダダダダダ!**という機関銃のような破裂音が響き渡り、護衛たちは次々と血を噴き出して倒れていく。
「ちくしょう、撃て! 撃ち返せ!」
ジェイクが叫んだ。彼の顔は、恐怖と怒りで歪んでいる。
「コウ、こっちへ!」
マルタが、Izhmash Saiga 12を構え、コウとメイファン、ホアキンを庇うように前に出た。彼女は、ジェイクの護衛たちに応戦しながら、コウたちに叫んだ。
「てめえら、イリーナ様の捨て駒だったんだよ! 馬鹿野郎!」
メイファンが、護衛たちを罵りながら、コウの横に立った。彼女の手には、コウが以前持っていたグロック17が握られている。
「なぜ、俺を裏切るんだ!」
ジェイクは、クロエとマルタに叫んだ。
「私たちは、イリーナ様に従うために、あなたと組んだ。だが、イリーナ様は、私たちを、そしてあなたを、最初から始末するつもりだったんだ!」
クロエは、そう言って、ジェイクに銃口を向けた。
「…そんなはずはない! イリーナ様は、俺を必要としている!」
ジェイクは、信じられないといった表情で叫んだ。
「必要だったのは、コウを連れてくるお前の能力だけだ。用済みになったお前は、この船と共に始末される運命だったんだよ!」
マルタが、ジェイクに冷たく言い放ち、引き金を引いた。**ダダダダダダダ!**という銃声が響き、ジェイクの足元に銃弾がめり込んでいく。
ジェイクは、恐怖に顔を歪ませ、よろめいた。その隙に、コウは、ジェイクの護衛たちに反撃を開始した。彼のベレッタM92Fは、正確に護衛たちの頭部を狙い、次々と倒していく。
「くそっ…! コウ、てめえ…!」
ジェイクは、コウの銃撃に、歯ぎしりをした。
「俺は、もう誰にも騙されない。俺の人生は、俺が自分で決める!」
コウは、そう叫び、ジェイクに銃口を向けた。
「…コウ、待て! 俺を撃つのか!?」
ジェイクは、恐怖に震えながら言った。
「…俺は、お前を殺さない。だが、お前は、俺の仲間じゃない。二度と、俺たちの前に姿を現すな」
コウは、そう言って、ジェイクの足元を狙って発砲した。**パン!**と乾いた音が響き、ジェイクは、驚いて後ろに転んだ。
その時、船は、さらに大きく傾いた。
「早く、脱出するぞ!」
クロエが叫んだ。彼女は、船の救命ボートへと走り出した。
コウ、メイファン、ホアキン、そしてマルタも、クロエの後を追った。彼らは、傾いた甲板を滑るように走り、救命ボートへと向かった。
「…チクショウ…!」
ジェイクは、コウたちの後ろ姿を見つめながら、悔しそうに叫んだ。彼は、床に転がったまま、沈みゆく船から、脱出することができなかった。
救命ボートに乗り込んだコウたちは、船から離れ、夜の海へと漕ぎ出した。彼らの背後では、船が、ゆっくりと海に沈んでいく。
「…ジェイクは…」
ホアキンが、震える声で呟いた。
「あいつは、生き残るさ。だが、もう、俺たちとは関係ない」
コウは、そう言って、沈みゆく船を見つめていた。
その時、コウの隣に、クロエが座った。彼女の顔は、硝煙で黒く汚れ、メイド服はボロボロになっている。
「…なぜ、俺を助けたんだ?」
コウは、クロエに尋ねた。
「…私たちは、イリーナ様の命令で、あなたを監視していた。そして、イリーナ様が、私たちを、そしてあなたを、裏切ったことを知った。だから、イリーナ様の命令に逆らうことにした」
クロエは、静かに答えた。
「…俺を殺すつもりは、なかったのか?」
コウは、クロエの目を見て尋ねた。
「…さあな。だが、もし、俺たちがイリーナ様に逆らわなければ、お前は、今頃、海の藻屑になっていた。それだけは、確かだ」
クロエは、そう言って、ニヤリと笑った。
その言葉に、コウは、何も答えることができなかった。彼は、クロエが、自分を助けるために、どれほどの覚悟をしたのかを、ようやく理解したのだ。
「…クロエ、マルタ。ありがとう」
コウは、心から感謝の気持ちを口にした。
「礼は後だ。今は、生き残ることを考えろ」
マルタが、荒々しい口調で言った。彼女の顔も、硝煙で黒く汚れている。
コウは、マルタの言葉に、頷いた。彼らは、もう、イリーナの支配下にはいない。自分たちの力で、生き残るしかない。
「…これから、どうする?」
メイファンが、コウに尋ねた。
「…このまま、陸に戻る。そして、イリーナを…イリーナを始末する」
コウは、そう言って、ポート・ノーウェアの街を見つめた。街の光は、まるで、彼の新たな決意を祝福しているかのように、美しく輝いていた。




