第百十八話 裏切り、そして三つ巴の銃撃戦
ポート・ノーウェアの港は、コウの裏切りによって、新たな戦場と化した。クロエとマルタは、信じられないといった表情でコウを見つめていた。彼の目は、まるで別人のように冷たく、そして鋭く光っている。
「…コウ、あなた、本当に私たちを裏切る気なの?」
クロエが、震える声で尋ねた。
「裏切るのは、お前たちだ。イリーナの命令に盲目的に従い、俺の自由を奪おうとする。そんな奴らと組むくらいなら、俺は、俺のやり方で生きる」
コウは、そう言って、ベレッタM92Fの銃口をクロエとマルタに向けた。
「…待って、コウ…!」
マルタが、叫んだ。しかし、コウは、マルタの言葉を無視し、引き金を引いた。
パン!パン!パン!
銃弾は、マルタの横をかすめ、彼女は身を伏せてかわした。
「クロエ! こいつは本気だ!」
マルタが叫んだ。
「…わかってる!」
クロエは、そう言って、AA-12を構え、コウに銃口を向けた。
その時、コウの背後から、タスクの声が聞こえた。
「行くぞ、コウ! この場で、イリーナの手下どもを始末してやる!」
タスクは、そう言って、H&K MP5を構え、クロエとマルタに銃口を向けた。
「…タスク、待て!」
コウは叫んだ。彼の目的は、クロエとマルタを殺すことではない。この場から逃げ、イリーナの支配から逃れることだ。
しかし、タスクはコウの言葉を無視し、引き金を引いた。
タタタタタタタ!
H&K MP5の軽快な銃声が響き渡り、クロエとマルタの体が銃弾の嵐に晒された。彼女たちは、反射的にコンテナの陰に身を隠した。
「…くそっ!」
クロエは舌打ちし、タスクを睨みつけた。
「てめえ、何をする!」
マルタが叫んだ。
「イリーナの手下どもを始末する。それだけだ」
タスクは、冷たい声で言った。
コウは、タスクの行動に、顔をしかめた。彼は、タスクが、ただイリーナを排除するために、自分を利用しようとしていることに気づいた。
「タスク、俺の目的は、こいつらを殺すことじゃない!」
コウは、タスクに叫んだ。
「知るか! 邪魔をするなら、お前も殺す!」
タスクは、そう言って、銃口をコウに向けた。
その時、コウの背後から、銃声が聞こえた。
パン!パン!パン!
それは、メイファンの銃声だった。彼女は、コウがこの港に来ることを予見し、ひそかに彼を追跡していたのだ。
「…メイファン!」
コウは、驚いたように叫んだ。
「てめえ、何をする気だ!」
タスクは、メイファンに銃口を向けた。
「この馬鹿野郎から離れろ!」
メイファンは、荒々しい口調で叫び、タスクに銃弾を撃ち込んだ。
銃弾は、タスクの腕をかすめ、彼は痛みに顔を歪めた。
その隙に、メイファンはコウに駆け寄り、彼の腕を掴んだ。
「早く行くぞ!」
メイファンは、そう言って、コウを引っ張った。
コウは、メイファンの言葉に従い、タスクから逃げようとした。しかし、その時、クロエとマルタが、コンテナの陰から姿を現した。
「コウ、もう逃げ場はないぞ!」
クロエが叫び、AA-12を構えた。
「観念しろ!」
マルタも続いた。
コウは、クロエとマルタに挟まれ、絶望的な表情を浮かべた。彼の心には、怒りと絶望が渦巻いていた。彼は、自分の無力さを呪った。
その時、コウのスマホが震えた。見ると、知らない番号からメッセージが届いている。
『ジェイク。準備はできている。』
メッセージを読んだコウは、驚いたように目を見開いた。
「…ジェイク…?」
コウは、信じられないといった表情で呟いた。彼は、ジェイクがこの街にいることを知らなかったのだ。
「ジェイクだと? 誰だ、そいつは!」
タスクが叫んだ。
「俺の仲間だ! そして、お前を殺すために来た!」
コウは、そう言って、ベレッタM92Fをタスクに向けた。
パン!パン!パン!
銃声が響き渡り、タスクは、その場で崩れ落ちた。彼の体から、大量の血が噴き出し、床を赤く染めていく。
コウは、タスクの死体を見つめながら、安堵の息を吐いた。
「…ジェイク…!」
コウは、そう呟き、港の奥へと走った。
クロエとマルタは、コウの後を追おうとした。しかし、その時、港に停泊していた船から、大きな音が聞こえた。
「な、何だ…!?」
クロエが叫んだ。
船のハッチが開き、一人の男が姿を現した。彼は、ジェイクだった。
「コウ、こっちだ!」
ジェイクは、そう叫び、コウに手を差し伸べた。
コウは、ジェイクの手を掴み、船に乗り込んだ。メイファンも続く。
「…ジェイク…!」
コウは、ジェイクの顔を見て、涙を流した。
「もう大丈夫だ。俺が、お前たちをベネズエラに連れて帰る」
ジェイクは、そう言って、コウの肩を叩いた。
クロエとマルタは、その光景を、ただ呆然と見つめていた。彼女たちは、コウを捕らえることができなかった。
「…コウ…!」
クロエが、叫んだ。しかし、コウは、クロエの言葉に、何も答えなかった。彼は、ただ静かに、ベネズエラへと向かう船の上で、故郷の空を見上げていた。




