第百十一話:血と硝煙の代償
路地裏に、夜明け前の静けさが戻ってきた。しかし、その静寂は、死と破壊の痕跡で満たされていた。コウとメイファンは、警戒しながら周囲を見回す。パブロとその私兵たちの死体が、路地のあちこちに転がっている。彼らが所持していた銃器は、パブロのFN SCAR-L、そして私兵たちのM4カービン。これらの銃は、今やただの鉄の塊と化していた。
「ホアキン…大丈夫か?」
コウは、マルタに抱えられたホアキンに駆け寄った。彼の身体は、激闘の後の疲労と、限界を超えたことによる反動で、まるで鉛のように重くなっていた。マルタは、ホアキンの頭を抱き、泣きながら彼の無事を確かめていた。クロエもまた、その場にへたり込み、震える手で顔を覆っていた。
「…無事よ。ただ、動かないの…」
マルタの声は、震えていた。彼女は、ホアキンを抱きしめ、彼の体温を確かめる。冷たくなったホアキンの身体に、マルタは恐怖を感じた。
「弾薬の確認だ。メイファン、君は周辺の警戒を頼む。クロエ、君はマルタを…ホアキンを頼む」
コウは、冷静に指示を出す。彼の右腕は、銃弾がかすめたことで激しく出血しており、左肩にも被弾した痛みが走る。しかし、彼はそれを気にもせず、周囲の警戒と弾薬の確認を優先した。
「分かった」
メイファンは、Glock 17の弾倉を確認する。残弾はわずか2発。彼女は、パブロの私兵から弾倉を抜き取り、自分のGlock 17に合う弾倉を探す。しかし、M4カービンの弾倉は、Glock 17には合わない。彼女は、近くに落ちていたM4カービンを手に取った。
「…コウ。M4カービンの弾倉は、弾が満載されたものがたくさんあるわ」
メイファンは、コウに報告する。
「よし。俺はAR-15の弾倉を回収する。マルタ、クロエ、ホアキンを連れて、路地から出るぞ」
コウは、パブロの死体からFN SCAR-Lを回収しようとする。しかし、その時、路地の奥から、再び足音が聞こえてきた。
「…まさか…」
コウは、顔色を変えた。パブロの部隊は、全滅させたはずだ。しかし、足音は、確実に、こちらに近づいてきている。
現れたのは、パブロとは異なる制服を着た男たちだった。彼らは、AK-47アサルトライフルを構え、厳重な警戒態勢で路地に入ってきた。彼らの胸には、ロベルトやパブロの部隊とは異なる、見慣れないエンブレムが刻まれている。
「ロベルト、パブロはどこだ?」
男の一人が、低い声で問いかけた。彼らは、ロベルトやパブロの私兵とは異なり、傭兵のような雰囲気をまとっていた。
コウは、咄嗟にパブロのFN SCAR-Lを構え、男たちに銃口を向けた。
「動くな!」
しかし、男たちは、コウの言葉を無視し、銃口を彼らに向けた。
「…ここは、我々の縄張りだ。貴様らが何者か知らんが、死んでもらう」
男がそう言い放つと、銃撃戦が始まった。
ダダダダダダダダダダダッ!
AK-47の銃声が、路地に響き渡る。コウは、FN SCAR-Lの引き金を引いた。
ドガガガガガガガガガガッ!
しかし、コウは右腕と左肩に負傷しており、銃の反動を制御することができない。銃弾は、男たちの頭上をかすめて飛んでいく。
メイファンは、M4カービンを構え、男たちに応戦する。彼女は、銃器の扱いに長けているため、正確な射撃で男たちを次々と倒していく。
「コウ、大丈夫か!?」
メイファンが叫ぶ。
「ああ!大丈夫だ!」
コウは、歯を食いしばり、再びFN SCAR-Lを構える。しかし、その時、男の一人が、コウの背後から現れた。
「死ね!」
男が銃口をコウに向けた瞬間、クロエがM4カービンで男の足を撃ち抜いた。
「…クロエ…!」
コウは驚愕する。クロエは、銃器の扱いに慣れていなかったはずだ。しかし、彼女の放った弾丸は、正確に男の足を撃ち抜いていた。クロエは、男が倒れた隙に、ホアキンを抱えるマルタの元に駆け寄った。
「マルタ!逃げよう!」
クロエは、マルタの手を引く。しかし、マルタはホアキンを抱きしめたまま、動こうとしない。
「ホアキンを…ホアキンを置いていけない…!」
マルタは泣きながら叫ぶ。
「…マルタ…!」
コウは、マルタの元に駆け寄ろうとする。しかし、その時、男の一人が、コウに向かって銃弾を撃ち込んだ。コウは、咄嗟に身をひねるが、銃弾が腹部を掠め、激しい痛みが走った。
「…くそ…!」
コウは、その場に倒れ込み、激しい痛みに顔を歪ませる。メイファンは、コウの負傷を見て、男たちに向かって怒りの銃弾を浴びせた。
ダダダダダダダダダダダッ!
メイファンの放つ銃弾は、男たちを次々と倒していく。しかし、男たちの数は多すぎる。メイファンは、M4カービンの弾倉が空になるまで撃ち尽くし、最後の弾丸を男たちの一人に向けて撃ち込んだ。
その瞬間、メイファンは、弾切れを起こしたM4カービンを捨て、Glock 17を構える。残弾はわずか2発。彼女は、男たちに銃口を向けた。
「…さあ、来なさい」
メイファンの瞳は、燃え盛る炎のように、男たちを睨みつけていた。
男たちは、メイファンに銃口を向け、引き金を引いた。
ダダダダダダダダダダダッ!
メイファンは、銃弾を避けるため、路地の壁に身を隠す。しかし、その時、マルタが、ホアキンを抱きしめたまま、立ち上がった。
「…もう…これ以上は…!」
マルタは、悲痛な叫びを上げると、ホアキンを抱きしめ、男たちに向かって走った。
「マルタ!やめろ!」
コウが叫ぶ。しかし、マルタは、コウの制止を無視し、男たちに突っ込んでいく。
「…死ね!」
男の一人が、マルタに銃口を向けた。その瞬間、ホアキンが、マルタの腕の中から滑り落ち、男の足元に倒れ込んだ。
「…ホアキン…!」
マルタが叫ぶ。
男は、ホアキンに銃口を向け、引き金を引こうとする。その時、ホアキンは、地面に転がっていたナイフを手に取り、男の足に突き刺した。
「ぐっ…!」
男が悲鳴を上げ、銃を落とす。ホアキンは、ナイフを拾い上げると、男に向かって突進し、男の首にナイフを突き刺した。
「…ホアキン…!?」
マルタは、驚愕した。ホアキンの瞳には、何の光も宿っておらず、まるで、人形のように、無表情で男の首にナイフを突き刺していた。
ホアキンは、男の死体からナイフを引き抜くと、再び意識を失い、その場に倒れ込んだ。マルタは、ホアキンを抱きしめ、彼の体温を確かめる。ホアキンの身体は、冷たくなっていた。
「…どうして…」
マルタは、ホアキンの無表情な顔を見て、恐怖を感じた。彼は、本当に、元の優しいホアキンに戻るのだろうか?




