多分、君。
石田左右です!
「叫べ!ライオット」第2話「多分、君。」
よろしくお願いします!
「えっと...ここに名前とクラス。
それで〜 ここにけ・い・お・ん・が・く・ぶ...ね!!」
彼女の爽やかなリネンのような匂いがわかるほどに
近い距離で説明してくるが...本当にこれでいいのか?
彼女は日比谷舞。
僕より一つ上の学年の軽音楽部員だそうだ。
新歓ライブの後、
強引に中庭近くの理科室に連れて来られた。
「練習は同学年とバンド組んでもらってからは週2回は必ずできるようにしてあげるからね〜」
「あの...」
「本当はもっと練習させてあげたいけど、各バンドなるべく平等にってこと。外のスタジオ借りてやるのは自由だけど1バンド月に3000円までしか部費は出ないからね。」
「あの!僕は部活入るなんて決めてないんですけど!!!!」
少し驚いた顔をした後、彼女は笑いながら言った。
「あんないい思いしておいて〜
そんなこと言っていいのかなぁ?多分、君。
バンドのこと忘れられないぞぉ〜♡」
わざと艶やかな表情と声色で言ってきたのは
僕でもわかった。耳が熱くなった気がした。
彼女は自分が可愛いということ。
僕が多少、彼女のことがタイプなこと。
自分が何をすれば男が、僕が喜ぶのか
わかっているのだ。
また彼女の瞳に吸い込まれそうになった時、
後頭部を何者かに雑に撫でられた。
振り向いた時、驚きは2つあった。
誰もいないと思っていたこの部屋に
人が入って来ていたこと。
そして僕の頭を雑に撫でた人の正体が
さっきまで中庭で僕を含めた大量の生徒を熱狂させていた
あのボーカリストだったこと。
「海くん!撤収ちゃんと手伝ってきたの?!
自分の機材少ないからって...
メンバーのもちゃんと手伝って来てよね!」
「あー?あいつら自分の機材触られたがらないから
手伝ったって無駄。それより舞、
この感じだとまた無理矢理連れて来ただろ。」
そう言いながら僕の顔を見た彼は少し無言になった後、
また話し始めた。
「あー、そういうことね。さっき見に来てくれてたな。
ありがとうな。楽しめたか?
俺は2年の伊月海。担当は主にボーカル。
たまにギター、ベースもやる。よろしくな。」
圧倒されて何も入ってこない。身長は180はあるだろうか。
細身だから尚更スタイルはよく見える。
真っ黒な髪に少し白髪が混ざっているのも
彼の不思議なオーラというか
強いプレッシャーを演出している。
そして声の圧...この人の話しは聞かなければいけないと
感じさせる背筋がピンと伸びる声だった。
何も言えない僕に続けて彼は言った。
「希望パートは?」
「あ...僕..」
「ボーカルだな。
暇だから入部届は俺が顧問に渡しといてやるよ。
あとは舞にプレハブと他の部員紹介してもらっといて。」
鳥肌が立つような鋭い目つきで入部届を見つめた後、
彼は屈託のない、くしゃっとした笑顔で
「...またな。星野。」
と言いながら僕から書きたての入部届を奪い
理科室から出ていった。
―斯して僕は庵野高校軽音楽部に入部した...?
石田です。
舞。「多少、タイプ。」
喉が少し痛い。「多分、風邪。」