大人になるまで
これハッピーエンドにもってくつもりです。
「……ッ!!!!やばい何時だ!!!」
現在6時半に針が落ちている。彼の出社時間は6時半。つまり遅刻。もう既に手遅れという意味だ。
「終わった…もう会社いっても、つらいだけだ。行かなくても電話かかってくるしどうしよう…」
彼こと、新田涼介はサマリーマン生活5年目にして絶望中だ。涼介は地元でそれなりに有名な高校を出て、指定校で私立大学に入り、ある程度優秀な成績を修め、ある程度良い企業に入る。このまま、ある程度良い成績を修め続け、それなりの人生を送るはずだった、なのにそう上手くいかなかった。社会の厳しさを目の当たりにする。よく分からない社会人のマナー、年上からの心のない言動、中身のない叱責などたくさんの困難が襲ってきたのだ。だが幸いにも3年目までは心の底から信頼し、尊敬できる上司と仕事をすることができたためある程度ストレスが抑えられていた。しかし4年目にして人事異動が起きた。そこから涼介がどん底に落ちていく。最初はただ馴染めていないだけかと思ったがそうではなかった。涼介に対し常にネガティブな言葉を使っていたり、他の部署の同期を褒め、間接的にこちらのことを貶してくることもあった。極めつけは、涼介がいないとこでは涼介以外の部署のみんなで涼介をバカしていた。そんなこんなで5年目にして心が限界を迎えてしまったのだ。
「俺頑張っても少しのミスをボロボロに言われて、そんで何やっててもみんなにバカにされる。この会社に必要ないんじゃないか……?でもいかないといけない……」
こんなことを思うほど精神が追い詰められ、疲弊し、思考力が鈍ってしまっている。考えているうちに刻一刻と時間がすぎ、余計に出勤しにくくしている。そんな状況で一本の電話がかかってきた。上司からの電話だ。
「やばい。でないと。でも。どうしよう。でなければ。こわい。でなくない」
葛藤してフリーズ状態になっていると電話が鳴り止む。しかし留守番電話に音声が入っていた。聞くかどうか迷う。涼介自身恐怖で怯えているが直接話すわけではないからと留守番電話を聞いてしまった。これが間違いだったのだ。
「「今日は仕事休んでもいいからな。でも明日出てきたらしっかりお話しような?」」
涼介にはこれが死刑宣告に聞こえた。それほどまでに涼介にとっては重たい言葉なのだ。普段のまともな思考であればホットラインに連絡する、または上司より上の立場の方に告発するといったことをすればいいと思うだろう。だが追い詰められている涼介はまともじゃない。会社にいって精神を今より削られるか、トンで死ぬかの二択しかない。何度も言うが精神が限界を迎え壊れてしまっている。そのため、この程度のことしか考えることができない。
「……死んでも会社には行きたくないな。じゃあ死ぬか…」
涼介は会社に行くことより死を選んだ。
「家族には遺書残すべきか?どうしよう…」
死ぬことは決まった。
心が病んでしまう前まではよく買い物に行ったり、家でテレビをみたり、仲良くしていた家族がいたがその人たちに何もなしは嫌だと思った。
簡易的だが携帯の録音機能を使い、遺書ならぬ遺音を残した。
そして健康なときに一緒に飲んでいた友達と軽く話して、感謝を伝えることにする。
「さ、これでもう未練もないかな。……いくか」
そう言って自殺用のカッターをもって車に乗った。行き先は海。海は涼介がとってつらいときによくきて心を落ち着かせていた安らげる場所なのだ。そんな場所で最後を迎えたくなった。
「この車ともお別れか……こいつとの最後のデートを楽しまないとな……」
ポツリと呟きながら海まで車を走らせる。涼介が住んでいる場所から海は近く15分程度でついた。
「…………」
もはや言葉はいらない。最期の時まで浸るだけだ。
何分かたっただろうか。いや何時間だろうか。もしかしたら数秒だったかもしれない。もう終わらせる決意が固まった。
カッターを取り出し、刃を出す。そして手首の血管をすべて切るくらいの力を込めて、引き抜いた。
おそらく致命傷になっているだろう。血が溢れて止まらない。
何故なのだろうか。手首を切り裂いたというのに全く痛くないのだ。むしろ解放されると思うと爽快感すらある。
なんだもっと早くからこうしていればよかったんじゃないか。
母さん父さん、親不孝な息子でごめんね。
じゃあね……
涼介くんには僕が体験したことの一部を味わってもらいます。