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冬至のころ


僕の体が格段に大きくなった日は、久しぶりの青空だった。数日間、降り続けて積もったもので庭一面に厚みが増して、僕の体の材料は余りあるほどたんまりとあった。


僕の胴体は彼が、頭は彼女が作ってくれた。彼女は、はりきって僕の頭を予定よりも大きく作ってくれたようで、彼がうんうん唸りながら必死で胴体の上に持ち上げてくれた。まさに一日がかりの作業だった。


体が大きくなったことに伴って、僕の目と鼻も一新された。僕の新しい目は庭にあった真っ黒の大きな石で、鼻は彼が家の中から持ってきた赤くて先端にかけて少し尖っている棒のようなものになった。この鼻のおかげで今まで平面だった僕の顔に、今日からは自慢できるチャームポイントができた。不思議なことに、この長い鼻はそれ自体が少し甘い匂いを持っていて、暇さえあれば僕は自分の鼻の研究に時間を費やすことになった。

さらに、体が大きくなったお祝いに、彼女が僕にまゆ毛をつけてくれた。木が落としたばかりの枝を厳選して、彼女は優しい顔になるようにと平行まゆ毛にしてくれたのに、彼がかっこよくあるべきだと譲らずに逆八の字まゆ毛にしたので、僕は四六時中キリリとした顔を保たなければいけなくなった。まあ、彼女もそんな僕を見てかっこいいと言ってくれたからいいんだけど。


僕は今回の成長で大きくなりすぎたので、定位置だったテーブルの上から降りてイスの真横に移動になった。もちろん、彼女のイスの横だ。彼女がイスに腰かけると、ちょうど僕と顔の高さが同じになる。同じ高さの目線の彼女に見つめられるたび、僕は自分の鼻が最初から赤いことに心から感謝した。


この頃になると、木は眠っていることが多くなった。葉っぱはすべて落ちてしまって、裸になった枝に白いものが積もって、心なしか木の肌も乾燥しているようにみえた。


あるとき、風が真横からびゅうびゅうと吹いて、僕も重心を下にもっていかないと転がされてしまいそうな日があった。木はその風に対抗する力がなかったようで、風が吹くままに右に左に揺れてたくさんの枝を落としていた。僕も自分のことに精一杯で、風に翻弄される木をただ見ていることしかできなかった。

丸一日経ってようやく風が落ち着いたとき、木の全体像は一回り小さくなってずいぶんと疲弊しているようだった。さらに枝の一部が折れて、木の中身が露わになっているのは痛々しかった。幸い、彼が折れた部分を黄色いテープで治療してくれたから、木はすぐに痛みから解放されたようだった。


おい、悪かったな、きみが風に揺らされている間なにもできなくて。


僕は友達を守れなかった情けなさで木を正面から見られなかった。強い風から生き延びるために必死だったのはお互い様だけど、なぜか僕の体は大丈夫だという自信があった。それに比べて、すっかり元気をなくしていた木に強い風は脅威だったはずだ。


また強い風が吹くときには、僕がお前の盾になれるようにもっと大きくなるから、だから安心しろよ。


木はそう言った僕をじっと見つめたまま、しばらく何も言わなかった。そりゃそうか。友達のピンチに何もできなかった奴の言うことなんか信用できないよな。僕なんかより、彼に囲いを作ってもらったほうがよっぽど安心だ。僕はあまりにも落ち込んで、つい片方の目を落としそうになった。


そのとき、遠くから飛んできた鳥が木の細い枝に止まって毛繕いを始めた。腹の毛がオレンジ色のその鳥は、体格こそ大きくないものの、毛繕いの動きによって細い枝を上下に揺らしてしまっている。普段ならびくともしない木も、今日ばっかりは弱り目に祟り目とばかりに、その衝撃に何とか耐えているようだった。


ねえねえ、オレンジの鳥さん、悪いんだけど毛繕いは他の場所でしてくれないかな。木は病み上がりで疲れているんだ。


木が直接訴えると角が立つから、こういうときこそ友達である僕の出番だ。オレンジの鳥は、小さく、しかし遠くまで通るような声でピチチと鳴いたあと、僕の頭の上に場所を移した。そこで毛繕いの続きをしようとしたようだが、僕の頭は木と違って足場が悪かったらしく、居心地悪そうに数回足踏みをしてまたどこかへ飛び立っていった。よかったと胸をなでおろしたものの、僕の頭、ちょうどおでこのあたりにオレンジの鳥は三つに分かれた足の形をくっきりと残していったことに気が付いた。なんだかかゆい気がするけど、僕にはどうすることもできない。バツが悪い思いで木のほうを見ると、木は枝に残った白いものを小さな風と共に空中に散らしてくれた。その小さな粒は太陽の光に反射して一つ一つがキラキラと輝きながら宙に舞った。そして木は、折れた枝の先を可能な限り僕に振って見せた。


そうか、きみも強い風の中僕のことを心配してくれていたんだな。何も助けることができなかった僕に失望していたわけじゃないんだ、そうだろ。お互い様だったんだな。じゃあ、まあ、これからもひとつよろしく。


木は、まだ枝の先を振り続けている。


おい、もう仲直りは済んだんだし、お前も疲れてるんだからもういいよ。お前の気持ちは分かったから。


木の上にかぶっていた白いものはすっかり落ちてキラキラの粒はもうないというのに、木はそれでもまだ枝の先を振り続けている。そのとき、僕は木の意図に気が付いた。


おい、お前、笑ってるんだろ。僕の頭についた足の形を見て笑ってるんだろ。


正解、とでもいうように、木は最後に大きく一振りをしたあとにようやく笑うことをやめた。

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