今日でお別れスピンオフ「頑張れ須坂君!」
僕は須坂津紀雄。大手企業の新人だ。
同じ課にすごく気になる人がいる。
その人の名前は律子。そんなに美人じゃないけど、僕ら新人に全く先輩ぶらない女性だ。
僕自身、どうして律子先輩に惹かれたのか、未だにわからない。
多分、あのドジなところだろう。
お茶を溢すのは日課で、コピーを取ると枚数を間違え、電話を受けると、
「お電話ありがとうでござる」
とか言ってしまう。時代劇が好きなのだろうか?
スーパーが付きそうなくらいのオッチョコチョイである。
でも不思議なくらい、律子先輩を悪く言う人はいない。
「律子はね、何事にも一生懸命なのよ」
律子先輩と同期の香先輩が楽しそうに言う。
「あの子のドジって、誰もイラつかせないのよ。場を和ませるの。私も欲しいわあ、あの才能」
「ハハハ」
真面目な顔でそんな事を言う香先輩も気になる人だ。
真弓先輩も色っぽくて素敵だし、同期の蘭子ちゃんはとっても可愛いし。
天国のような職場。そんな気がした。
「こらあ、須坂! いい加減仕事覚えろ!」
でも、男性の先輩は怖い。特に梶部係長は、新人教育係なので、一番怖い。
「は、はい、すみません!」
謝ってばかりの僕だ。
そして一通りの新人研修が終わり、僕らは本格的に会社の業務に取り掛かった。
それでも僕は先輩の藤崎さんのアシスタントなのだけど。
僕とコンビを組んで藤崎先輩を補助する事になった蘭子ちゃんと急速接近したような気がした。
「はい、須坂さん、コピー取れました」
「はい、須坂さん、資料作れました」
「はい、須坂さん、取引先からのFAXです」
あくまで業務上の会話なのに、何故か僕は蘭子ちゃんが僕に気があると思い始めていた。
そしてある日、その勘違いが最大になり、僕は蘭子ちゃんを使われていない会議室に呼び出した。
「何ですか、須坂さん、用事って?」
可愛い。夕日が差し込む会議室に立つ蘭子ちゃん。髪がキラキラ金色に輝いている。
「あの、その……」
「手短にお願いします」
そう言われた時、僕は玉砕を覚悟した。
「僕と付き合って下さい」
「無理です」
早かった。もの凄く早い返事だった。
「私、須坂さんとはあくまで仕事上のパートナーですので」
「は、はい」
僕は衝撃を受けていた。何も考えられない。
「失礼します」
蘭子ちゃんはサッサと会議室を出て行ってしまった。
そしてそれから数週間後。
律子先輩が、何故かフラフラで出勤した。二日酔い?
「ああ!」
何故か僕の席に座って眠ってしまう。
「ここ僕の席ですよお」
でも全然起きてくれない。香先輩に泣きつき、何とか起こしてもらった。
「須坂君、私の事、好きなの?」
トロンとした目でそんな事を言われた。チャン・カワイでなくても、「惚れてまうやろー」だ。
律子先輩は、そんな「爆弾」を投下したまま、自分の席に戻って行った。
「ふう」
僕は溜息を吐き、椅子に座る。
「あ」
律子先輩の体温が残っていた。
「……」
「イエス、フォーリンラブ」の瞬間だった。