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ウナギと幽霊の共通点

作者: 市松 広香

 ウナギの旬は、と彼女は切り出した。

 なに、いつものことである。彼女は私と飲む時には、決まって怪異か電子工学かその両方についての話題を持ち込んでくる。しかし、今日は何故かウナギのようだ。

 ウナギの旬はいつか。

「知ってる?」

「夏によく食べるけど、実は秋から冬にかけてが旬やって、聞いたことあるわ」

「そう、天然のものは特にそうね。ウナギは冬眠に備えて養分を蓄えるから、秋から冬が美味しいの」

 そう言ってから彼女はシシャモを口に入れた。私も彼女の話の続きを待ちながらシシャモを齧る。

 美味しい。マヨネーズがあれば完璧やな。しかしここにはレモンしかない。残念や、と考えているうちに彼女が口を開く。

「ではなぜ夏にウナギが食べられるようになったかと言うと、これは江戸時代に平賀源内が仕掛けたキャンペーンが元になったという説が有名ね。まあ、〈そういうもの〉がある、と理解してるならいいわ。話を移しましょう」

 どうやら今日の話の本筋はウナギではないようだ。

「幽霊の旬っていつだと思う?」

「夏……のように思えるけど」

「ええ、そう答えてくれると思ってた」

「その言い方やとちゃうみたいやね」

「違うかどうかはさておいて、夏に幽霊を見ることって少ないと思うのよ。日も長いし」

 私は軽く頷いて話の続きを促す。

「〈幽霊の正体みたり枯れ尾花〉って諺があるでしょう。でも夏に枯れ尾花は見ないわ」

「せやんな」

「で、私が思うに秋から冬にかけてが幽霊の旬なのよ」

「秋から冬? さっき言うてたウナギみたいやね」

「ええ、まさに、その通り。〈逢魔時〉ってわかる?」

「ん……夕方のことやんな」

「そう。魔に逢いそうな時間だから……で、この時間に何が起こるのかって話よ」

「特に秋から冬にかけて?」

「そうそうそう! 何ゆえに魔に逢いそうな気がするのか。私はこれに仮説を立てたわ」

「なんなん? 教えてや」

 私がそう聞くと、彼女は内緒話でもするかのように囁いた。

「〈霧〉が出るのよ」

「霧?」

「そう。霧。秋から冬にかけては、一番昼と夜の温度差が激しくなる。そうなると、昼に温められた空気が夕方にかけて急激に冷やされて霧が出る。すると、視界が悪くなる。結果、闇に鬼を見るが如く、霧の中に怪異を見る……どう?」

「面白い説やな」

「でしょう?」

 彼女はころころと笑ってから、したり顔でこう言った。

「まさに〈幽霊の正体見たり霧の中〉よ」

「うぅん……そらちょっとビミョーやな」

「えぇっ!?」

 ウナギは、夏場にウナギが売れないウナギ屋が平賀源内に頼って流行らせた。しかし幽霊は、いったい誰が旬ではない夏に流行らせようとしたのか? まさか、幽霊が自ら……? そんなことを考えながら、私は最後の一匹のシシャモを齧った。

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