27. 鈴木太陽
ズタズタなメンタルでなんとか仕事に来たものの、気が気でなかった。
昼頃から、再び風香からのLINEが止まらなくなった。
『マジで全部お前のせいだからな』
『本当きもい』
『時間返せよ』
『風香はずっと太陽くんのこと好きだった。好きなだけだったし、これからも一生一緒だと思ってたのに』
『お前自分で思ってるほどかっこよくないし普通にブスだからな??調子乗るなよ??』
『ごめん太陽くん、本当は今も大好きなの』
『今までずっと太陽くんのために生きてきたから、これからどうやって生きていけばいいかわからない』
『マジ許さないからな』
『ごめんね、ひどいこと言って』
数分ごとに送られてくる、情緒不安定すぎるLINEに気が狂いそうだ。
自分のデスクで頭を抱えていたら、部長に呼び出されて、昨日ミスをやらかしていたようで怒られた。
頼むから、どいつもこいつもこれ以上俺にストレスを与えないでくれ……。
ふらふらとトイレへ行き鏡を見ると、また白髪が増えていた。ぶちっと抜き、今すぐ叫び出したくなる衝動を必死に抑え、喫煙所に行き煙草を吸った。
もう我慢できなくて、俺は風香のLINEをブロックすることにした。
さすがにこれ以上は受け止めきれない。
ごめん風香、でももう無理だ。
ブロックをした瞬間、すっと心が軽くなった。これで終わりだ。風香がいくら俺にLINEを送ってこようと、もう俺には届かない。
それに加え、電話番号も着信拒否にした。
なんだかやっと肩の力が抜けた。
最初からこうしておけばよかったのだ。
とにかく、もう俺は自由だ!
……と、思っていたのがやはり甘かった。
**
来週会議でプレゼンしなければいけないデータをまとめていた午後四時半のことだった。
社内の電話が鳴り、二メートルほど離れたところにいた女性事務社員がとった。俺はパソコンを睨めながらとくに気にしていなかったのだが
「鈴木さん、近藤様って方からお電話入ってます」
「え、俺?」
近藤、なんてよくいる名前だけれど最近は聞き覚えがなかった。
だが何かしらの取引先の誰かだと思い、俺は返事をして内線の電話を取った。
「もしもし、お電話変わりました鈴木でございます」
『なにブロックしてんだよ』
時が止まった。信じられない。
それは紛れもなく風香の声だった。
低く、ドスのきいた、怒りに満ち溢れている、風香の声だった。
受話器を持つ俺の手が強張る。背中がすぅっと冷たくなり、思わず立ち上がった。
「……あの、えっと」
『いい加減にしろよてめぇマジで』
「……申し訳ありません」
なぜか立ち上がって謝る俺に周りの注目が集まったので、まずいと思いとりあえず座った。
『太陽くん、言ったよね?幸せにするって』
これは……悪い悪い夢ですか?
ブロックしたからって、会社の電話に掛けてくるなんて。さすがに全く想像していなかった。
「風香、やり過ぎだ。自分がなにしてるのかわかってるのか?」
誰にも聞こえないよう、口元を抑えて小声で囁く。
『うるさいうるさい。いいから、ブロック解除してくれる?』
「それは出来かねます」
できるだけ、仕事上の電話をしているふりをする。
『なんで?じゃあ、ずっとこの電話に掛け続けるから』
「それは困ります」
この手でくるとは思いもしていなかった。
最悪だ。もう俺は逃げられないのだろうか。
『じゃあ解除して』
「……」
『してってば!じゃないと次は会社まで行くから』
「……」
『わかった!?』
大声で叫ばれ、そのうるささに受話器を少し耳から離した。
そして降参した。俺の負けだ。
「……かしこまりました」
『オッケー。もししてなかったら、また掛けるからね』
そしてあちらから電話は切られた。
驚きとショックのあまり俺はすぐに動けず、書きかけのプレゼンの画面が写されたパソコンの画面の一点をただじっと見つめていた。
しばらくしてから我に返り、泣く泣く風香のブロックを解除した。
さっきの開放感は、何だったのだろう。せっかく全て終わりだと思えたのに。
解除した瞬間、すぐにLINEが届いた。俺がブロックしている間もずっと送り続けていたのだろうと思うとぞっとした。
『おーい』
『おい』
『解除した?』
『早くしろよー』
『早くしろ、ブス』
既読をつけた途端『おぉ!!!』と送られてきた。
今さらだが、ブス、なんてわざわざ言わなくていいんじゃないかと思う。自分でも男前じゃないことくらいわかっているけど、こんな風に人からブスと言われることなんて人生であまりなかったから普通に傷付く。
脅迫、誹謗中傷。これはかなりアウトの領域に入っているだろう。
『風香、いい加減にしろよ。自分が何してるかわかってるのか?』
俯き、デスクの下で見えないように返事を打つ。
すぐに既読が付いた。
『太陽くんがヨリを戻してくれないから』
『ちゃんと別れただろ?風香も納得してた』
『でもやっぱり別れたくなかったんだもん』
『話が違うじゃないか』
『うるさい、浮気したのあんただろ』
『それはごめんって』
『結婚してくれたら許すって言ってるってば』
あぁ、こんなの、仕事に集中できるわけがない。
まともに相手している俺が悪いのか?でも相手をしないと、会社に電話を掛けてきやるんだから、どうしようもないじゃないか……。
『ごめんなさい。もう許してくれなくていいから、俺と関わらないでください』
こんなこと、俺だって本当は言いたくない。でも言わなければ、このバケモノには通じない。
『嫌だ嫌だ嫌だ。絶対に無理。今まで風香、太陽くんのために生きてきたんだよ?別れるとか絶対に無理だよ』
『こっちも無理だってば』
『最低!死ね!ブス!幸せにするって言ったくせに!』
相手の頭がおかしいとわかっていても、こういう暴言は俺の心をどんどんえぐっていく。
『もう死ぬから』
『は?』
『死んでやる』
神様、これから先どんな願いも叶わなくていいから、どうか俺から風香を引き離してください。
真っ青な顔をしてひたすらデスクの下でスマホをさわり続ける俺を周りの社員達が心配していたと、後になって知った。
そして風香の暴走はさらに止まらなかった。
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