25. 榊原夏樹
これはちょっとさすがに……。
鈴木の顔はあまりにもやつれ過ぎていた。
「大丈夫か?」
「いや、もうやばいっす」
昼過ぎ、会社の外の大通りで、同じく取引先へ向かっている鈴木と出会った。
目の下に青いクマができ、白髪が数本生え、ほうれい線が濃くなっている。とても俺の二歳下とは思えない。
背筋は前屈みになり、全身から負のオーラが漂っている。
一緒に歩きながら見るその横顔は、とても俺の知っている元気な鈴木とは別人のようだった。
「相当やられてるんじゃないか。まだ別れてくれそうにないのか?」
「別れてくれるどころか、泣き喚いて暴れ回りやがりました、うちの車で。家の前まで来られてたし、なんかもう怖い」
ぼそぼそと、力のない声で話す鈴木の目はうつろだった。
とんでもないメンヘラ女に捕まって災難だなとは思っていたけど、ここまでだとさすがに鈴木の心身が危ないがする。
「でもこんなに俺のこと好きになってくれる子って、この先もう風香以外いないだろうなぁとも思うんですよね」
「お前、その思考は間違ってるぞ。ちょっと頭冷やせ。お前までおかしくなってどうするんだよ」
「そうですよね……。あぁ、寒い」
「寒いか?」
鈴木は本当に寒そうに肩をぶるっと震わせたが、いくら九月とはいえ日中はまだまだ暑い。
これはやっぱり精神的に相当参っているようだ。
「鈴木、無理するなよ。何かあったらいつでも俺に連絡してこい」
「榊原さぁん……あぁ、俺は良い上司を持った。風香と無事に別れられたら付き合ってください」
「きもいわ」
にやっと笑う鈴木を見て、とりあえず少し安心した。
「しかし、その女もおかしいよなぁ。鈴木が裏切ったんだし、向こうの方が愛想つかしてもおかしくないのに、こんなにすがってくるなんて」
「ね。こんな俺のどこがいいんだか」
鈴木は呆れたように両手を上に向けて呆れたポーズをとる。
「いや、それって、もう好きとかじゃないだろ。ただの依存だよ」
「え、依存?」
「あぁ。だってさ、本当に好きだったらそれこそ許せないだろうし、逆に吹っ切れるだろ?少なくとも、無様にすがりつこうとしてこないよ」
「そんなもんなんすか?俺、依存されてる……」
「どう考えてもな」
「マジか……」
なんやかんやただ愛されていると思っていたのか、鈴木はやけに悲しそうだ。
「だからお前もちゃんと冷静になって、無事に、綺麗に別れるんだぞ」
「わかりました。……頑張ります」
「あんまり刺激しすぎないようにな」
「うっす!」
出来も悪いし頼りない後輩だけど、どうか幸せになってほしい。
自分のことは置いておいて、俺は本気でそう思った。
「じゃあ俺こっちだから」
「うっす!お疲れ様っす!」
なぜか敬礼する鈴木に手を振り、俺達は別れた。
鈴木、どうかお前の無事を祈る。
一人になったと同時に、不意に強い風が吹いてきて、若干寒さを感じた。
秋になって、またすぐ冬がくるだろう。寒さのせいで人恋しくなって、俺はまた同じ過ちを繰り返していくのだろうか。
ただ一つわかっていることは、俺は誰かを愛せないかもしれないけれど、一人ではいたくないということ。
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