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1. 鈴木太陽


 あ、当たりだ。

 改札を出たところに彼女らしき姿を見つけたとき、俺は確信した。


 春の暖かい風が、優しく頬を撫でる。

 それと同時に、恋が始まる合図がした。


 柱に少しもたれてスマホをさわっている彼女は、アプリに載せていた写真と完全に一致していた。

 写真加工が当たり前になったこの時代、会えば全然違うじゃんと思わずつっこみたくなる子ばかりだった。いわゆる“加工詐欺”というやつだ。しかし彼女は違った。


 そこにいるだけで人目をひく、高身長のモデル体型。ヒールを履いているけど、脱いでも170はあるだろう。ぴちっとした黒色のフリルのついたワンピースは、その身体のラインをしっかりと見せつけている。

 ごくり、と唾を飲む。心臓が高鳴る。



「どうも!初めまして〜風香ちゃん!……で、合ってる、よね?」



 ゆっくりと近付いたあと、顔を確認してから、まるで漫才師かのような明るいテンションで声を掛けた。

 でも一応人違いだったことも見据えて、少しだけ心配そうな表情もしておく。



「あっ……はい、風香です!」


 

 やった。やっぱりこの子だ。控えめに言って、かなりタイプ。



「よかったー、合ってた!いやぁ、遠目からすごいスタイル良い子いるなって思ってたんだ。何センチあるの?」


「えっと、173です」



 少し照れたようにはにかんで答える姿が愛らしい。



「マジ!めっちゃ良いじゃん!」


「太陽さんも、高いですよねっ」


「うん、俺180」


「めっちゃ良いです!」



 初めて見るの彼女の満面の笑みは、くりっとしたつぶらな瞳がかなりチャーミングで、くしゃっとなるのがたまらなかった。


 あ、俺、この子のことを絶対好きになる。

 そう確信したと同時に、頭の中で勝手にYUIのチェリーが流れた。



「いやぁ俺も高身長女子は最高だと思ってるから」



 と言ってしまったあと、もし本人が気にしていれば失礼だったかなと思ったけど彼女は嬉しそうに



「えー、そんなこと言われるのめっちゃ嬉しい!」



 と両手を合わせて喜んだ。



 彼女からしても、俺は当たりなんじゃないか。傲慢ながらもそう思わずにはいられなかった。


 こんなに背が高くてすらっとした子からすれば、俺くらい大きい男じゃないと恋人として選択肢に入らないだろう、おそらく。



 ノリノリな俺達二人は、今日のデートのテーマである“買い物”をするべくショッピングモールへ向かった。


 ずっと欲しかったキャップが入荷したというのお店のSNSで見た俺は、彼女にデートがてら買い物についてきてほしいと言っていたのだ。


 初対面で遊ぶときは、こんな風に目的があった方が女の子からしても楽なのだということを俺は心得ている。



 マッチングアプリで色々な女の子と遊ぶということは、少なからずお金がかかる。


 売れない営業マンの俺は、はっきり言ってあまりお金がない。常に金欠みたいなものだ。

 できれば、毎回飲みに行くとかは避けたいのだ。奢るお金が、ないから。


 だから基本はこんな風に昼に会って、自分の目的ついでにデートしたりするのがベストというわけだ。



「いいね、可愛い!めっちゃ似合う!」



 俺がかぶった深緑のキャップを見て、風香は大げさすぎるくらいにたくさん褒めてくれた。



「あたしも買おうかなぁ。あ、でもそれならお揃いになっちゃうか」


「いいじゃん、買おう!お揃いにしよう!」


「え、いいの?やったー」



 ただ無邪気なのか、それとも思わせぶりが上手なのか。俺はどんどん舞い上がり、さっきからずっと笑顔が止まらない。



 一応「買ってあげるよ」と言ったものの「いいよ!自分で買う!」と頑なに断ってくれたので助かった。



 初対面だというのに俺達はお揃いのキャップを買ってしまった。まだ出会って数分しか経っていないのに、心はジェットコースターのように急加速していく。

 にこにこ笑う楽しそうな風香の隣に、これから先もずっといたいと思ってしまう。



 ふと、先日別れた女のことを思い出した。あれもたしか、俺の一目惚れから始まった。


 出会いはこんなふうにマッチングアプリなんかじゃなくて、友達からの紹介だった。

 俺より8個年上の彼女は、33歳だった。だがどう見ても同い年かもしくは歳下にも見えなくもないそのルックスは、芸能界並みだった。

 

 インスタでしか見たことのないような、整いすぎたハーフみたいなはっきりとした顔立ちに、ややアヒル口な唇。

 ちょうど肩のところまで伸びた髪の毛はこれでもかというほど潤っていてさらさらしていた。おまけに、ナイスバディ。

 高身長で(俺は高身長女子がかなり好き)細すぎるくらいなのに、胸だけがちゃんと大きくて、筋トレもちゃんとしているからお尻もきゅっと引き締まってて、もうなんの申し分もない美女だった。


 付き合えたことすら奇跡だと、今でも思う。

 どうしても別れたくなって別れてしまったけど、それでもあれほどのハイレベルと付き合えることは俺の人生にはもうないだろう。



「ねぇ、クレープ食べたぁい!」



 さりげなく俺の腕をつつきながら微笑む風香に、この子こそはと俺は願う。この子こそ、俺の最後の恋の相手であってほしいと……。

 

 さすがに前の彼女のように芸能人級とまではいかなくとも、背も高いしスタイルもいいし可愛いし、十分すぎるくらい理想の相手だ。

 

 もうすでに波長が合いまくりだと強く感じる。

 前の彼女のときは緊張しすぎて上手く自分らしくいられなかったけど、この子なら良い意味で素でいられるような気がする。まだ今日会ったばかりだけど。



「ふふっ、ねぇ、太陽くん、ここついてるよ、クリーム!ふふふふ」



 クレープを持っていない方の手で口元に手を添え、風香が笑う。

 からかっているようでいながらどこか愛おしさを感じるような目線にドキッとする。これはきっと自惚れかんじゃない。彼女も俺に好意を抱いている。

 

 その証拠に、ほら。バッグからハンカチを取り出した彼女は、俺の頬についているらしいクリームを拭いてくれた。

 顔と顔が急接近して、心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかというくらい高鳴る。



「とれた!……ねぇ、顔赤いよ?」



 俺より歳下のはずなのに、もう完全に風香のペースに巻き込まれてしまっている。

 いたずらっぽく覗き込まれると、もう耳の先まで完全にゆでダコのようになった自分の顔を鏡なんてなくとも想像できた。


 そして俺は安全に風香に恋をした。

 絶対この子と付き合いたい。俺が必ず幸せにする。



「……ちょっと待って、恥ずいわ!」



 振り切るようにばっと一歩離れた俺を、風香がおかしそうに笑う。

 そして心の底から思った、幸せだと。



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